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北欧シンプルを極めたミニマルデザインの内装
ボルボの最新EV「EX30」で、京都から東京までの約500kmを運転してきました。
EX30はボルボ最小のEVで、全高はタワー式駐車場の制限となる1550ミリに抑えられています。
4ドアハッチバックボディもルーフがなだらかなカーブを描き、リアウインドウ下縁がキックアップされたクーペタイプのスタイリングが施されています。
外観は最近のクルマに珍しくないものですが、驚かされてしまったのが内装の運転席周りです。スーッキリしてしまって、何もありません!
まず、ステアリングホイールの向こう側にメーターは存在せず、スピードをはじめとするさまざまな情報はセンターのマルチファンクションパネルに表示されます。
それだけならば珍しくありません。だいたい、パネルの下にエアコンやインフォテインメント用のボタンやレバーなどの物理スイッチが並んでいるレイアウトがほぼ定石化してきているからです。
しかし、EX30にはそれらすら見当たりません。すべてパネル内でタッチで済ませられるようになっているのです。他のクルマではほぼ必ずボタンとしてパネルの下やセンターコンソールなどに設置されているハザードスイッチも、パネルの左下隅に映されています。
はっきりと眼に見えるのはアームレストにある左右ふたつのウインドウオープナーだけです。
あとは、ステアリングホイール根本から左右それぞれに生えているレバーの先端に“P”ポジション選択ボタンと前後ウインドウのワイパースイッチが見えないように配されています。
機能はそのままどころかもっと多くのものを内蔵しているのにもかかわらず、その操作はパネル内の階層の中に収められています。徹底しています。ここまでシンプルに削ぎ落とされたクルマをテスラ以外に他に知りません。
この徹底ぶりは、何に由来しているのでしょうか?
物理的スイッチをなくしても大丈夫なのか?
クルマは(これまでは)多くの部品で成り立っており、開発者が「物理スイッチを減らしたい」と考えても、それまでのやり方を大きく変えられないので行なわれてきませんでした。
また、社内事情やそれらを造らせて購入しているサプライヤーの都合などがあるので簡単にはいかないはず、とこれまでは考えられていました。しかし、このEX30を見れば、もうそれは言い訳にしか過ぎなくなります。
また、パネルでの操作に好意的ではない人たちもいます。いわく、“物理スイッチならば見なくても手探りで操作できるから安全”とか、“パネルはトラブルを起こすと他の機能も全滅する”といった類です。新しいことやモノに懐疑的な人たちですね。
タッチパネルもすべてをタッチで操作するのでなく、多くを音声で操作できることを考えていません。さまざまな機能はアプリ化されたり、CarPlayなどのスマホアプリで操作することができるので、クルマに乗っていない時とシームレスで操作できるのです。たいがいの“懐疑派”は、そうしたパネルの長所を十分に享受する前に短絡しているだけに過ぎないようにしか見えません。
京都の街が持つ「規則性」と「関係性」
ステアリングホイール根本から右に生えた細いシフトレバーを“P”から“D”に押し下げて走り出します。当たり前ですが、EVなので静かに滑らかに走り出します。表通りに出て加速していっても、それは変わりません。
ミニマルでシンプルなことの他に、EX30のインテリアではリサイクル素材や再生可能素材などが積極的に用いられていることも大きな特徴となっています。
京都の碁盤の目になっている道路はちょっと久しぶりだったので、当てずっぽうに走ってみました。お寺や神社、老舗の店などが並んでいて眼を楽しませてくれます。でも、迂闊には停車できない感じです。
建物と、その前に停まっているクルマを見ていると、なんとなくですが用がない人でないと停められない感じなのです。ということは、本当に停める必要がある人しか停めていないのでしょう。
街の区画や並んでいる店の種類、交差する道路との関係などから、“然るべきクルマが然るべく停まっている”ようにしか見えません。規則性と関係性があるのです。長い歴史による規則性と関係性です。東京はグチャグチャで規則性にも関係性にも乏しく、駐停車も漫然としています。
そんなことを思いながら、京都御苑の駐車場に停めることができました。公共の駐車場で、まだ空いていました。
ここでカーナビの設定や、パネル内の機能の再確認を行ないました。京都御苑をゆっくりと見学させてもらいたいところですが、東京に向けて出発です。
EVは3時間まで無料の駐車場で気づいたこと
駐車場の支払い機の前に「電気自動車と燃料電池車は3時間まで無料」という立て看板を見ながら精算機に駐車券を差し込みました。
800円!
銀座や六本木より高い。駐めていたのはホンの10分間ぐらいだったのに……。空いていたのには理由がありました。でも、直前に見ていた看板を思い出し、EX30を駐め直して、指定の管理室に赴きました。
「デンキ~?」
おそらく一部始終を見ていたのでしょう、制服姿の係員が出てきて、3時間無料のチケットをくれました。
「環境省やからね」
環境省指定の駐車場だから、EVとFCEVは3時間まで無料になるということなのでしょう。ありがたいことです。
しかし、他に停まっている大型観光バスやタクシー、乗用車などはみんなエンジンを掛けっ放しなので、これでは環境省の計らいも消し飛んでしまいます。車内を冷やすためですが、短くできないものでしょうか。無駄なアイドリングはCO2を増やすだけでなく、京都御苑ならではの静謐な空間を壊しています。
高速走行時の静粛性はどうか?
EX30のバッテリーは94%の充電量があり、走行可能距離は430kmと表示されています。運転の仕方にもよりますが、途中で充電しなければ東京へは辿り着けません。
EX30のカーナビでは目的地を青山の「Volvo Studio Tokyo」に設定してあります。途中の充電ポイントも案内するようにも設定できますし、それらを削除して最終目的地だけを案内するシンプルな設定もできます。あらかじめ出発前に調べてあった、高出力充電器がある浜松SAか静岡SAで充電するつもりなので案内は不要です。
市内を抜け、京都南インターから名神高速道路に乗りました。クルマが多く、道路の屈曲も続くので、しばらくは運転支援機能を使わず、自分の運転で走りました。
EX30は、高速道路上でもEVならではの滑らかさで強力に加速していきます。強く加速する際にも、エンジンがないので唸る音などもありません。
ただ、無音ではありません。ボディの風切り音とタイヤが路面と擦れるノイズはゼロにはならないからです。僕が今まで経験してきた中で際立って静かだったEVはアウディ eトロンGTとBMW iXでしたが、そこまで静かではなくてもタイヤノイズは巧みに抑えられていました。
ACCなどの運転支援機能を使ってみた
ナビに導かれながら新名神(という新路線が開通したのですね)高速を通り、東へ。馴染みのある伊勢湾岸道に入る頃には、運転支援機能を使い始めていました。
この高速道路を東進してくると、右に大きなメーリーゴーラウンドやジェットコースターのある「長島スパーランド」が見えてきます。三重県の湾岸長島ICの横です。
このレジャー施設に行ったことはないのですが、記憶に刻まれているのは、ずいぶん昔(1980年代)にロッキー青木という日本人(ステーキチェーン店「ベニハナ」オーナー)が、ここから気球でアメリカに飛ぶという冒険ドキュメントのテレビ中継を観て良く憶えているからです。当時は長島温泉と呼ばれていました。
EX30の運転支援機能は、ACC(アダプティブクルーズコントロール)とLKAS(レーンキープアシスト)とLCAS(レーンチェンジアシスト)などを使うことができます。
それらの機能を有効にするのは、シフトレバーを“D”の位置からもう一度下に向けて短く押すだけです。
これは素晴らしい。ほとんどの他のクルマでは、ステアリングホイール上のボタンや、生えているレバーを複数回操作しなければなりませんが、これは一回で済みます。
運転つまりレバーを“D”ポジションに入れて走っている状態で、そこに「クルマから支援機能を加える」という指示が、シフトレバーを下に短く押すという操作そのものとなっているからわかりやすい。形態と機能が表裏一体化しています。これならば、従来からの操作をわかりにくいと感じて利用しようとしなかったユーザーにも積極的に使ってもらえるようになるでしょう。
ちょっと気になった点も
少し気になったのは、LKASの効き方でした。クルマが車線からハミ出しそうになると、クルマ自らがステアリングホイールを回して車線内に留まらさせようという働きを持っていますが、その制御が上手くないのか、車線内で落ち着きがないように感じました。
また、LCASも効く場合と効かない場合の違いが体得しにくく、効き方も弱く明確な効果を感じられませんでした。
革新的なオーディオ装置と専用アプリを試す
運転支援機能を使い、道路もあまり混んでおらず、快適に長距離走行を続けることができました。EX30の運転操作に慣れてくると、カーオーディオで音楽を楽しむ余裕も出てきます。
EX30はオーディオ装置にも革新を起こしています。今までは、左右のドアの内部にそれぞれスピーカーが設置されていましたが、それらを取り払い、Harman&Kardon製スピーカーをフロントガラス下縁に移しました。ホームオーディオやテレビと組み合わせて使われる“サウンドバー”と一緒です。
自分のスマートフォンを出発前にBluetooth接続してあるので、AppleCarPlayの中のSpotifyアプリを立ち上げて、“お気に入り”プレイリストに入っている947曲をシャッフルして聴いていました。
EX30にはSIMカードが備わっているので、AppleCarPlayを使わなくても、EX30にインストールされているSpotifyアプリを使うこともできます。でも、そうしてしまうと自分の設定や各種のプレイリストなどはそこでは作られていないので、ゼロから聴くことになってしまいます。おそらく、両者を連動させて、車内と自宅や仕事場などをシームレスにつないで聴くことも可能でしょう。
また、EX30専用のアプリをあらかじめスマートフォンにダウンロードしておけば、さらに便利な使い方もできます。でも、事前に試みたダウンロードが何度やってもできなかったので諦めた次第です。それでも、東京までの500km走行では、AppleCarPlayとカーナビだけで事足りました。
EX30のアプリを用いれば、さらに多くの機能を使うことができますが、全部を試せませんでした。また、自分が望む使い方とは違った機能もありましたが、クルマ側のバグなのか、あるいは僕の設定が間違っていたのかまでを確かめることも今回はできませんでした。
新東名の浜松SAで充電してみた
予定通り、新東名の浜松SAで早目の充電を行ないました。充電器は8基あり、1台の日産サクラが充電しているだけでした。
EX30のバッテリーには46%の電気が残っており、203kmの走行が可能と表示されていました。
充電器につなぐと、満充電に設定された「80%まで28分30秒」と表示されました。ランチを食べて、その後にPCメールを確認し、その返信をしなければならないことになっていたので、28分以上を使ってしまうかもしれません。
案の定、返信しなければならないPCメールが他にもあったので、EX30に戻った時には充電は完了していました。80%で352km走れる予定ですから、青山までは余裕でしょう。
新東名の最高速120km区間を快走し青山へ
新東名も交通量は多くなく、御殿場までは早目に進みました。ACCの最高速の設定を120km/hに変更し、快調に走ってきました。
御殿場からは東名と合流して、最高速も100km/hに制限されるので、一気にクルマが増えて混んできます。その印象は首都高速まで変わらず、厚木を過ぎたところからは渋滞も起きてきました。そうした走行ペースの変化にも運転支援機能のサポート力は絶大ですので欠かせません。
混雑区間での電力消費が多かったからなのか、青山のVolvo Studio Tokyoに着いた時には、バッテリー残量は17%、走行可能距離は74kmにまで減っていました。
浜松で一回充電しましたが、十分に電気は残っていましたが、ちょうど良いタイミングだったと思います。さらに先まで走ることはできましたが、ドライバーである僕のほうが先に根を上げてピットインしたくなっていたでしょう。
EV時代にいちばん重要なこと
EVの走行可能距離も多ければ多いほど良いわけではありません。バッテリーの大きさには限度があるからです。EX30のカタログ値は560km(WLTCモード)で、実際にはその70%と仮定しても、現実的な頃合いなのではないでしょうか?
長過ぎても人間が先に音を上げるので、どこかで充電できれば良いのです。重要なのは、その時に高出力の充電器が十分な量だけ用意されていることです。今回の浜松のように待つことなく、そして早く満充電にできれば不便はありません。その点では、まだ日本は欧米や中国に遅れを取っていることは間違いありません。
EX30で京都から500km走ってきましたが、EVならではの静粛性の高さと運転支援機能を使ったことなどによって、明らかに疲労は少なく済みました。充電を巡る不便やストレスもありませんでした。EVで長距離を走るたびにクルマ自体の性能向上や充電環境の整備が着実に進捗していることを体感します。少しづつですが、日本もEVが使いやすくなってきています。それを実感できました。
EX30はただのデザインカーではない
EX30のミニマルデザインは決して“デザインのためのデザイン”ではなく、新しいドライバーインターフェイスに裏打ちされていました。
ここまで急進的だと、これまでのエンジン車のボルボユーザーやファンの中には付いてこれない人もいるのではないかと余計な心配もしてしまいました。
しかし、それだけデジタルネイティブや新しモノ好きの気持ちを激しく刺激する魅力に満ちたクルマです。