
大ピンチ!なんとアマゾン川下り初日にペケペケ号が故障!?

ペケペケ号が故障した日に出会った、漁師のおじさん。ひとりで大きいカヌーと小さいカヌーの2艘を使って漁をする。
愛しいボロ舟、ペケペケ号に乗ってアマゾン川を下り始めた初日に大事件が起こりました。なんと、船外機のスクリューが、エンジンと接続する棒ごとポキッと折れて川底に消えてしまったのです(前回の記事を参照)。
海賊か?救世主か?突如現われた1艘の舟の正体は?
仕方なくパドルを手に取るも、漕ぐというよりただ川の流れに流されるがまま進む状態。もうすぐ夕方、このままだと暗くなってしまう。焦り始めたそのとき、川岸に私たちのペケペケ号によく似た舟が停まっているのを見つけました。
乗っていたのはひとりのおじさん。魚を捕る漁をしていました。
小回りの利く手漕ぎの小さなカヌーに乗って、夕方ごろに網を張り、朝になったら魚を回収して、大きい方の木舟で町まで売りに行くのです。
船外機のトラブルについて話すと、おじさんも網に魚がかかるのを待つために朝まで自分の舟で眠るそうで、ペケペケ号も一緒に係留させてもらえることになりました。ここを本日のキャンプ地とする!

三角屋根の漁師の舟と、平たい屋根の私たちの舟。
ほんとうはハンモックで寝たいのですが、ペケペケ号の背景からもわかる通り、ハンモックを張るのにちょうど良い木はそうそう都合よく生えていないのです。屋根の下に蚊帳を張って、その中で夜を過ごすことに決めました。アマゾン川は蚊がすごいんです。漁師のおじさんは蚊帳がないけれど、代わりに煙草をたくさん吸っていました。煙草の煙で蚊が寄ってこないのだそうで、漁をするときは煙草がかかせないのだとか。
ちなみに床に敷いたレジャーシートは、私たちが少しでも寝やすいように漁師のおじさんがくれたもの。なにもない川の途中で人の優しさに触れました。
“鋼”のメンタルの相棒が作る初めてのキャンプ飯
船外機が使えないまま明日もアマゾン川を漂うしかないのかと想像すると気が重い。けれど、腹が減っては戦はできぬ。ということで、ご飯を作ります。ペケペケ号で作る初めてのキャンプ飯は、簡単に作れるパスタ。というか私たち、食料はほとんどパスタしか用意していません。

笑顔で夕食を作っているのは、私の相棒マキシーちゃん。
ペケペケ号は木でできているから、舟全体がまな板みたいなものです。座っているイスをまな板代わりに野菜を切っているのは、今回の川下りの旅の相棒マキシーちゃん。慣れた様子でナイフを扱う彼女は、かなりのアウトドア派で、ときどき森にこもったりしているそう。私たちが初めてプカルパの宿で出会った日も、彼女は「2週間ぶりにシャワー浴びるのよ。気持ち良い!」と言って水風呂を浴びていました。
船外機の故障にもイラつく素振りを見せず、料理を作ってくれるなんて。これまでのいろいろなアウトドア経験で培われたのであろう彼女の鋼のメンタルが、今はなによりも頼もしい。

起きたら朝からアマゾン川の絶景パノラマビュー。
まるでトラブルなんてなにも起こっていないような気持ちにさせてくれる、穏やかで美しいアマゾン川の朝。
「アマゾン川には舟に乗った盗賊がいるから、もしほかの舟が近づいてきたら絶対に止まらず逃げること」
これは私たちが旅に出る前に町の人たちから教わったことですが、今回一緒に係留させてくれたおじさんは、近づいてくる私たちを見て警戒するどころか助けてくれました。
「川の人は穏やかだよ」
おじさんはハッキリ言いました。困ったときには助け合うのが普通だと。それは、今まで町で聞かされてきたアマゾン川の怖い人たちの噂話とは正反対の優しさでした。漁師さんみたいに毎日川に浮かんでいる人は、町の人とは見えている川の世界が少し違うようです。
森に暮らすおじさんに救われる

動かなくなったペケペケ号は、別の舟に引っ張ってもらえることに。
快晴の朝、漁師のおじさんは漁へ戻り、私たちも川を漂い始めてしばらくすると、またペケペケ号によく似た屋根付きの舟を発見。パドルを高くあげて左右に振ると、私たちに気が付いて近づいてきてくれました。
「あっ!君たち、昨日もこの辺りにいたよね?なんか様子がおかしいなと気になってはいたんだけど、まさかスクリューが脱落していたなんて」
おじさんは川岸に住んでいて、実は昨日も私たちを見かけたというのです。テキパキとロープでペケペケ号と自分の舟を繋いで、近くの町まで引っ張って行ってくれることになりました。

アマゾン川の「ちょっと寄り道」は、こんな急な階段の先にあるらしい。
「でも、町へ行く前にちょっと寄り道をしよう。この近くに弟の家があるんだ」
町まではまだ遠いのに、おじさんが突然船を減速させて到着した船着き場は、一見するとただの崖。それも、崩れそうな土でできた崖。そこに自分たちでスコップで掘ったみたいな階段があって、登った先に家がありました。

きれいに開墾された森とお家。
こちらがそのお家。切り開いた森の中にポツンと建ってます。屋根はあるけれど、壁はレジャーシートを張っているだけなので、実質壁は無いも同然。
8歳の男の子が住んでいますが、突然現われた外国人に驚いて、森の中に逃げてしまいました。しばらくするとガサガサ音がして、木の裏に隠れている男の子を発見。チョコレートのお菓子を見せても、出てきてくれません。この子は学校へ行けているのだろうか。
市場の果物はどこから来るのか?
家の外の世界には舟がないと出られないから、毎日行くとなるとガソリン代がかさみます。例えばアメリカなら、僻地に住む子供たちがインターネットで自宅からオンライン授業を受けたりするけれど、このお家には電気は通っていません。

市場で売るバナナ。水害でバナナが収穫できなくなった地域もあるけれど、このお家のバナナは調子が良いのだとか。
なんだかちょっぴり心配になってしまうけれど、私たちが知らないだけで、ほんとうの僻地に住んでいて勉強どころではない子供たちは、たくさんいるのでしょう。ただひとつだけ幸いなのは、この一家の森では最低限の食べ物には困らないということ。川があるから魚はもちろんのこと、森ではバナナやパパイヤなどの果物をたくさん育てていて、町で売っているのだそう。
逆にいえば、町の人たちの台所の一部は、こういう僻地で暮らす人々に支えられているのです。
「ティルンタン」という小さな町へ上陸

ティルンタンの町並み。みんなよくバイクに乗っているけれど、ほんとうはバイクも必要ないんじゃないかと思うような小さな町。
そんなこんなで、ペケペケ号をおじさんの舟で引っ張ってもらって到着した町の名前はティルンタン。可愛らしい響きと、可愛らしいサイズ感。つまりかなり、小さな町。グーグルマップで検索してもストリートビューは出てこないので、ある意味これは貴重な写真かも。
アマゾンの青空修理工場の実力は?

力持ちの青年が船外機をペケペケ号から取り外して、岸辺で部品交換をしてくれました。
ペケペケ号の故障個所、スクリューとそれをエンジンに繋ぐ棒を買いに来たのですが、残念ながら小さな町では新品を扱うお店はなく、中古部品で使えそうなものを探して取り付けてもらうことになりました。臨時の青空修理工場の開店です。
ところでその替えの棒、よく見ると、いやよく見なくても錆だらけだし、スクリューも元々ついていたものより少し大きさが違うような。そもそも、新品ですら壊れたのに、こんなボロボロのものと付け替えても、どれだけ持ちこたえてくれるのか不安です。いや、こうやって錆びるまで使われていた棒ということは、現役時代は丈夫な棒だったという証拠に違いない。きっとそうだ。と、ポジティブ解釈で前に進むしかありません。

再び走り始めたペケペケ号に、笑顔が止まりません。
スクリューを修理して、再び船外機をペケペケ鳴らすことができたペケペケ号。スクリューが回り始めれば快調です!
ふたりとも日焼けして、肌の色がアマゾン川の色と同じトーンになってきました。これがアマゾンに染まるってことなのかな(次回へ続く)。
