だが環境が変化することにより絶滅危惧種となりつつ動物たちもいる。特にマレー半島に生息するアジアゾウはジャングルの開発、外敵の襲来、さらに密猟などにより個体数の減少が懸念されている。そのため1974年から国立公園局の管理下で保護センターを設立することになった。
それが1989年に設営されたクアラガンダ国立ゾウ保護センター(以下「保護センター」)である。クアラルンプールからは北東へ約100km。車で約2時間のパハン州ランチャンに位置する。
クアラガンダ国立ゾウ保護センターとは
保護センターは深い緑をたたえじっとりとした熱帯の暑さが感じられるジャングルの中にある。周囲には小さな村が点在しのどかなマレーシアの田舎が広がっている。この場所はゾウの生育環境にも近い。近隣には1億年前から続く世界最古のジャングルを有するともいわれるマレーシア最大のネガラ国立公園がある。
ゾウの生態や保護の現状、自然について考えてもらいたいとのポリシーから保護センターでは観光客を積極的に受け入れている。来園者は入り口の入園申込書に必要事項を記入し保護センター内に入る。
驚くことに入園料は無料だ。ただし任意で寄付をしたり、有料となるが施設内に所属するネイチャーガイド(50リンギット/約1750円、1グループ最大12名まで)を頼むことによって運営に貢献できるようになっている。またここで働いている人の多くは地元のボランティアとのことだった。
保護されて元気になったゾウたちはやがて国立公園や保護区など安全な場所に戻されこととなる。
ゾウを間近にみて餌をやり触れる貴重な体験
自然の中にある保護センターではゾウに餌やり体験、保護したゾウの紹介(ステージショー)、保護飼育員によるセンター内を流れる川でゾウの水浴び、間近で赤ちゃんゾウを観察するなどの体験ができる。
動物園などと違うのは、ゾウの生態に合わせ見学スケジュールが決まっていることだ。開園からさまざまなアクティビティに参加することができる。
今回は有料のネイチャーガイド(基本的に英語かマレー語)を頼んだ。この場合、園内のゾウの説明や保護されたきっかけなどをさらに詳しく知ることができる。
園内で子ゾウにあげるバナナやサトウキビなどのオヤツを1〜3リンギット(約33〜100円)で販売している。間には柵があるのだが、その距離約1メートルと非常に接近して直接手渡しで食べさせられる。好物を差し出された子ゾウたちは慣れたものでオヤツを持っている訪問者のところに近づき鼻の先を丸めて受け取り口へ運ぶ。
ゾウの鼻を普通に触れるという機会はそうそうないのではないか。子どもはもちろん、大人もその愛くるしい姿に夢中になってしまう。子ゾウが無心によく食べるためついつい筆者も数回ほどオヤツに課金をしてしまった……。
ゾウたちの紹介と訪問者による餌やり体験
メインイベントといってもよいのがステージショーで通常1日に2回行われる。私たち訪問者は階段状の観客席からはそのショーを観覧する。
1頭のゾウに1人の飼育担当者がついている。それぞれのゾウたちの名前や性別、推定年齢、保護されたときの状況などが英語とマレー語でアナウンスされる。ゾウたちはその後にちょっとした芸を披露する。
ショーの後は餌やり体験となる。飼育員やスタッフによって運ばれてきた大きなバケツに入っている果物やサトウキビをそれぞれゾウの前に食べさせるのだ。大きな巨体に優しい目をした動物が鼻をのばしてすぐ目の前まで近づいてくる様子は圧巻だ。訪問者の中にはゾウの食事となる果物をカットするなど飼育関係のボランティアもあるとのことだった。
自然を利用して作られている保護センター内には川が流れている。こちらも有料となるがゾウの水浴びに参加することもできる。ただし天候によっては川の水が増水し危険なため行ってみないとわからないという部分もある。※ゾウの水浴びの写真のみ過去に天候がよく実施されたときに撮影
実は以前はゾウの背中に乗る体験もあったのだが、このイベントは現在中止となっている。運営自体に余裕があるわけではないので資金集めも必要だが、それがゾウの負担になるとの判断からだ。
保護センターというと少し堅苦しいイメージもあるかもしれない。しかし実際は森に帰るまでの間、ゾウと触れ合い楽しい時間を過ごせる貴重な機会になっている。そしてなによりマレーシアのジャングルという自然環境を体感できるのも魅力の一つだ。