ラップもお皿もいりません!自然のモノを活かして
私が挑戦しました! 編集 ハラボー
おにぎりを作った最後の記憶は部活動後に塾へ通った中3時代。「お米でパワーチャージしていました」。仕事もその調子で頼むぞ。
その前に~今月の里山クイズ!~
トチノキは常緑高木? それとも落葉高木?
古来、植物の葉は最も手近な調理道具だった
便利や快適には必ず〝裏面〟があるものだ。たとえばアウトドアでもよくお世話になるコンビニおにぎり。あの便利な個包装フィルムは石油素材で、土には還らない。焼却処分するか、根気よくリサイクルし続けるしかないという不便さがある。
こうした現実にモヤモヤしたら、昔の知恵を振り返ろうというのが今回のテーマだ。
箸がいらず持ち運びにも便利なおにぎりは、日本の携行食の元祖。奈良時代に記された『常陸国風土記』には、すでに握飯(にぎりいい)という言葉が登場する。ただ、そのままだとベタベタとくっついてしまう。何か包むものが必要だったはずだ。
食品を包む自然素材として最も有名なものが、今も和菓子店や高級精肉店で使われる経木だ。マツの木を紙状に削いだ包装材である。自然に還るエコ素材だが、経木作りにはそれなりの設備が必要なため、そう古くからある包装材ではない。マダケなどの筍の皮、つまり竹皮もよく知られた自然の包装材だ。
では、稲作が普及していなかった弥生以前、そもそも先人たちは食べ物を何で包んでいたのだろう。おそらくは葉っぱだ。
バナナなどの大きな葉で魚や肉を包み、焚き火で焼いた石とともに土中で蒸し焼きにする料理は世界各地に存在した。太古、植物の葉は最も手近な調理道具でありラップ材だったのだ。
米が主食となって以降も、葉っぱを使う文化は引き継がれた。その名残が柏餅や笹寿司だ。これら自然素材の個包装食品は食品の清潔を保ち、清々しい香りももたらした。植物の葉の色形や香りには、食べ物をおいしいと感じさせる演出効果がある。
食べるアウトドアには人の知恵がいっぱい。近くの里山へおにぎり作りに出かけてみよう!
とことんこだわる場合、ご飯もメスティンなどを使って現場で。温めるだけのパックご飯は入門編としておすすめ。
1 採集
要注意植物でなければどんな葉っぱでもOK
ヤブミョウガ
暗い林床に生える多年草。寿司の敷き物に使われるハランに形や艶が似る。押し寿司を包んでも趣き深い。
アカメガシワ
明るい場所を好む落葉高木。包み葉として知られるカシワになぞらえられ、漢字では赤芽柏と書く。丸い葉で押し寿司を包む地域も。
トチノキ
山地に多い多年草。山菜としてよく知られるが、展開した葉は大きく、おにぎりの包み葉としても最適。しなやかで包みやすい。
ウド
山地に多い落葉高木。朴葉寿司で知られるホオノキ並みに葉が大きい。蒸し焼き料理にも使える。葉に手が届きやすい若木を探そう。
フキ
日陰のやや湿ったところを好む多年草。山菜としておなじみ。広く展開した葉は、コップ状に折りたためば清水を飲むときにも使える。
その植物が安全かどうかの見分けは、リアルな体験をしないと身につかない。おにぎりを包む葉から覚えるという方法もある。
要注意!包むな危険
・ウルシの仲間→A
・クワズイモ→A
・イラクサ→B
・バイケイソウ→C
・ヨウシュヤマゴボウ→C
包み葉に不向きな植物は3パターン。
A かぶれる恐れがある。
B 鋭い棘がある。
C 有毒。
2 握る
アウトドアらしいストーリーを
里山おにぎりのコンセプトは、現場で握り、現場で採った葉っぱで包むこと。でもそれだけでは芸がない。せっかくだからアウトドアらしいストーリーも葉っぱに盛り込もう。たとえば具材も現地調達して、葉に関連した遊び方を考えてみる。
サンショウは葉から花、若実、熟した果皮まで長期間利用できる。探すと意外によくある野生スパイスなので、風味づけとして即興的に使える。また、春に現地で採取して瓶詰めに加工したフキノトウの味噌炒めやキャラブキ。これらを持参し、今度はおにぎりの具として活かしフキの葉で包むのも一興だ。
ヤブミョウガは野菜のミョウガとはまったく別の植物だが、名前つながりでミョウガの味噌漬けを具にしたおにぎりをのせると、楽しい気分に。
おにぎりは食べるキャンバス。自然をヒントにどんどんイマジネーションを膨らまそう。
「昔取った杵柄」というやつで、すぐに勘を取り戻したハラボー。これから毎月の締め切り日はおにぎり持参で編集作業をがんばるらしい。
左上から時計回りに、ミョウガ味噌漬けおにぎり(葉はヤブミョウガ)。キャラブキおにぎり(葉はフキ)。ウドの芽味噌おにぎり(葉はウド)。ちりめん山椒おにぎり(葉はアカメガシワ)。
"くせツヨ山菜"がいい味を醸し出す
春先に出る若い茎を利用するウドだが、葉も食べられる。枝先の軟らかな部分を摘んで細かく刻むと苦み走った香りが立ってくる。
サンショウの葉も枝の先端のものは軟らかく常時利用できる。青い実の塩漬けもよい具材に。
ウドやフキノトウのような“くせツヨ山菜”と、淡泊なごはんをうまく取り持つ調味料が味噌だ。
なんでも酢飯にのせて
朴葉寿司風お弁当
朴葉寿司は中部地域を代表する郷土料理。ホオノキの大きな葉で包んだちらし寿司だ。寿司といってもぜいたくな具材は使わない。錦糸卵に紅ショウガ、佃煮、味噌漬け、塩魚を焼いたものなど、ふだん食べているものばかり。
でもやや甘めの酢飯を緑色の葉にのせ、これら素朴な具材を並べると、料亭で出てきてもおかしくないほどの素敵な一品に変身する。今回のフィールドにはホオノキがなかったのでトチノキの葉で代用してみたが、同じ雰囲気のちらし寿司を作ることができた。
酢飯に具材がなじむころには葉の香りも移り、食欲をかき立てる。
葉をたためばそのままお土産になる。酢飯と葉の成分の抗菌作用で一定の保存性も。
里山クイズの答え
落葉高木。春に白い花が咲き蜜源樹としても有名。実はあく抜きして食用、材はお椀などの挽き物材に。栃木の県木で宇都宮市周辺では街路樹になっている。都心で見られる花の赤い種類はセイヨウトチノキ(マロニエ)から作出されたベニバナトチノキ。
※構成/鹿熊 勤 撮影/藤田修平
(BE-PAL 2024年11月号より)