イギリスに来てみたら、台所の窓から本当にリンゴが落ちる様子を目にし、偉大な学者の発見をいとも簡単に追体験できました。
実りの秋。イギリス人にとって「りんごの日」がある10月は、母や祖母が作る「リンゴのシチュー(stewed apples)」を思い出す季節でもあります。
少量の砂糖で煮るだけのシンプルなこのリンゴ料理は、ジャムのようにパンにつけたり、おやつや食後のデザートとして、また、バーベキューやキャンプで調理した肉に添えるなど、アウトドアシーンにもピッタリ!
今回はイギリスの友人、北アイルランド出身のピートさんに教わった「マシュマロ・アップルシチュー(stewed apples and marshmallows)」と、そのほか3つのアレンジレシピを紹介します。
用途別、リンゴの種類
日本で庭になる果物といえば柿が思い浮かびますが、イギリスでは断然リンゴ!
リンゴのシチューは、この拾っても拾っても落ちてくるリンゴを加工保存するのにちょうどよく、特にイギリス原産の青りんご「ブラムリー(Bramley)」など、「調理用」に分類されるものがすぐに煮崩れて作りやすいです。
調理用(cooking)リンゴは酸味が強く、そのまま食べるのにはあまり向きませんが、甘さが主張し過ぎないので料理とお菓子作り、どちらにも重宝される食材です。
イギリスではほかに、甘みのある食用(eating)や、日本でも注目され始めたリンゴの発泡酒、サイダー用(cider)と、2,200種類ほどのリンゴが栽培されています。
もちろん、リンゴのシチューは調理用だけでなく、どんなリンゴでも作れるので安心してください!ただ、その場合は加熱時間を長めに、様子を見ながら好みの固さに仕上げてくださいね。
10月21日は「りんごの日」
学校のおやつや職場でのランチなど、イギリスでは普段からリンゴの出番がたくさんあります。食べるときは、服の袖でクイクイッと拭いて丸かじりと、ワイルド!
そんな国民食ともいえるイギリスのリンゴを、皆で大切に守り収穫を祝おうと始まったのが「りんごの日(Apple Day)」です。
10月21日が当日ですが、10月中は週末ごとに各地の果樹園や庭園などで、リンゴそのものはもちろん、搾りたてジュースやサイダーを飲んだり、秋限定で出回るりんご飴「トフィー・アップル」を食べたりして楽しむ、リンゴ祭りが催されます。
また、期間中は自宅やアウトドアで「変わり種りんごレシピに挑戦してみよう」という提案もあるので、アレンジの効いたピートさんの「マシュマロ・アップルシチュー」はまさにうってつけ。
では、早速始めましょう!
マシュマロ・アップルシチューのレシピ
【材料】作りやすい分量(直径22cmのパイ皿)
・リンゴ…5個
・砂糖…小さじ1
・シナモン…小さじ1
・水…大さじ3
・マシュマロ…25個
<作り方>
(1)リンゴを割って薄切り、または角切りにします。
(2)カットしたリンゴを鍋に移し、マシュマロ以外の材料をすべて入れます。
(3)焦がさないよう混ぜながら、15分ほど煮ます。
(4)火から下ろし、リンゴのシチュー(3)をパイ皿に流し込みます。
(5)表面をマシュマロで覆ったら、180度に熱したオーブンの上段で4分ほど焼き上げます。
ほどよく残るシャキシャキした歯ごたえに、リンゴの酸味とトロトロの激甘マシュマロが絶妙にマッチ!オーブン調理ならではの、焦げ目のついたマシュマロのクリスピー感も抜群です。
できたてもよいですが、冷めてもなかなかのもの。マシュマロのおかげで、味がぼやけません。冷蔵庫で1週間ほど保存でき、焼いた直後と違いダレずにしっかり固まるので、持ち運びにも便利です。
タッパーに入れてピクニックに持参、あるいはキャンプで鍋やスキレットを火にかけて調理するなど、いずれもおいしく食べられます。
マシュマロに焦げ目はつきませんが、電子レンジを使えばさらに手軽です。耐熱容器にマシュマロで覆った材料を入れて5分ほど加熱、リンゴを好みの固さに仕上げてください。
リンゴのシチュー3活用
さて、まだまだ、まさに“腐るほど”大量に残るわが家のリンゴ。どのくらいあるかというと、このくらい。
そこで、ほかにもリンゴのシチューを活用した超簡単、アレンジレシピを3点紹介します。
その1.豚の切り身に添えるだけ!付け合わせアップルソース
鶏肉と一緒にオーブンで焼く料理もありますが、イギリスで断トツに多いリンゴと肉の王道コンビは、豚肉です。
<作り方>
調味して焼いた肩ロースなど、豚の切り身にリンゴのシチューを添えます。リンゴの形を残して副菜のように付け合わせても、トロトロのシチューをソースのようにかけても、また、写真のように両方のっけてしまうのもアリ!
ふたつの異なる食感を楽しめます。リンゴのマイルドな甘みが肉の旨みを引き立てるので、バーベキューやキャンプで焼いた肉のお供にも最適。
その2.詰めるだけ!オープン・ベリーアップルパイ
イギリスでは公園や道端のちょっとした茂み、庭などにブラックベリーが生えていることが多く、ブラックベリー摘みは夏の風物詩です。
ブラックベリーをリンゴのシチューに加えてアップルパイにすると、砂糖がわりになって甘味が増し、見た目もかわいく変化します。
<作り方>
パイシートを敷いたパイ皿にリンゴのシチューを入れ、ブラックベリーを適宜散らします。お好みで“追いシナモン”し、180度に熱したオーブンで15分ほど焼いて完成です。
イングランド産のリンゴとブラックベリー、サクサクしたパイ生地の組み合わせは、さすがアップルパイ発祥の地!安定したおいしさです。
その3.砕いたビスケットをのせるだけ!なんちゃってアップル・クランブル
リンゴといえばコレ!というほど、イギリス人の郷愁を誘うアップル・クランブルは、リンゴのシチューに小麦粉と砂糖、バターをすり混ぜ、ポロポロ(crumble)にした生地をかけて焼き上げます。
食糧難だった第2次世界大戦中に、より手間と材料が必要なアップルパイの代用品としてイギリスで生まれ、いまでも親しまれている伝統菓子です。
便利なパイシートがある現代では、むしろクランブルを作る方が手間な気がする私は、これをビスケットで代用してしまいました。
<作り方>
ココット皿にリンゴのシチューを詰め、袋の上からめん棒で砕いたビスケットで表面を覆います。180度に熱したオーブンで、焦げ目をつければでき上がり。
ビスケットはココット皿ひとつに1枚が目安で、バターの多いダイジェスティブ・ビスケットがおすすめですが、ほかのものでも問題なし。
わずかな塩気とリンゴの甘さが混じり合い、ひと手間加えるだけで、ちょっぴりリッチな風味を持つリンゴのシチューに格上げされます。
イギリスでは、あったかくてホッとする食べ物を「コンフォート・フード(comfort food)」と呼びます。クリームたっぷりの濃厚な芋グラタンやパイ、ソーセージ料理など、高カロリーでスタミナのつくものが主流ですが、今回紹介したリンゴのシチューとそのアレンジ品も、間違いなくコンフォート・フードの代表格。
冷え込む季節にこそ食べたくなるものばかりです。イギリス人にとっての癒しの食を、ぜひアウトドアでも試してみてください!