「おまえ、それでもBE-PAL.NETをホームグラウンドにしているライターかっ!」というお叱りを受けるかもしれませんが…じつはもう登ることはできないのです。
どうも。オーストラリア在住ライターの柳沢有紀夫です。
【ウルル旅3】いよいよ本丸に登頂…はしません。できないですし
さて冒頭に書いたように「エアーズロック」というのは旧称。現在では先住民の呼称である「ウルル」が正式名称です。
で、そのウルル。2019年10月26日から永遠に登頂禁止になりました。
ではなぜ登頂禁止なのか。「山」と違って一枚の「岩」で傾斜も急。しかも木々が生えていない。一度転がったら止まれないですし、日影がないので熱中症から心臓麻痺を起こす人も多く、わかっているだけで40人弱の人が登頂中に命を落としたそう。
で、「聖地で命を落とされるのは…」と、このあたりの土地の所有者である先住民アボリジナルピープルの、アナングピープルの人たちが考えたからです。そもそも彼らにとってウルルは登る場所ではなく、崇める場所なのです。
ちなみに以前よく使われていた「アボリジニ」という名称は差別的という理由で、現在では使わないようにとされています。
さて登頂不可となったウルルですが、その分アクティビティーも多く「見て」「触れて」楽しめるようになっているんですよ。
たとえばウォーキング。ウルルのまわりを一周する10.6キロメートルのなかなか歩きごたえのあるコースも整備されています。
ただスケジュールの都合上、私がこの日向かったのは地図左上の「マラウォーク」。「マラ」とは小型のカンガルーである「ワラビー」のピチャンチャチャラ語での呼び方です。ピチャンチャチャラ語というのはアナングピープルたちが用いている言葉です。
曇り空の中ウォーキング開始です!
さて、今回の「マラウォーク」。駐車場から往復2キロのコースです。車椅子でも行けるフラットな道。それでも所要時間は1時間半とされているということは見どころが多いということでしょうか。
遠くからはお椀をひっくり返したような形に見えるウルルですが、近づくと様々な表情を見せてくれます。
150年ほど前のヨーロッパ人の入植までは家屋を持たなかったアボリジナルピープルたちは狩猟採集をしながら季節ごとに自分たちの広大な土地を移動するという生活を何万年も続けてきました。で、彼らは木の枝や樹皮でテント的な仮設住居を作ることもあったのですが、こうした庇状になっている場所でも寝起きしました。
相変わらず「頭は5歳」の私はせっかくの超豪華ホテルの部屋を用意されていながら、「ここに泊まりたいんですけど…」とガイドさんに相談してみました。
でも国立公園への入場は日の出の1時間前から日の入りの1時間後までと制限されているのでダメだそうです。「ウルルの洞窟に泊まろう!」みたいな宿泊パックを用意したから大人気になると思いますが、国立公園で世界遺産だとあれこれ制約があるのでしょうね。
ちなみにですが、こうした場所には壁画なども残されているのですが、それを撮影してメディアで公開するには多額のお金を払わないといけないのだとか。壁画も「アート」ですから写真撮影して勝手に公開するのは著作権侵害に当たるということなのでしょう。
このあたりは壁画を積極的に公開することで観光資源としている「アーネムランド」や「カカドゥ国立公園」のアボリジナルの人たちとはまた異なる考え方です。
壁画といえばそれに使う白い絵の具は「灰とエミュー(ダチョウに似た巨大な鳥)の脂と水」を混ぜたものだそうです。ゴールドコーストでは乾くと白く変化する黄土色の土を利用していました。ひとくちにアボリジナルと言っても土地によって文化はいろいろ。オーストラリア、広いです。そして行く先々で発見があります!
砂漠の真ん中での「貴重な体験」
そしてやってきたのは「カンジュ渓谷」。カンジュは「静かな」という意味です。
普段から水はあるのですが前日の大雨で水量が増えたとのこと。写真右側の岩が黒くなっているのは滝となった水が流れる場所。なぜ黒いのかというと水に乗ってやってきたバクテリアが付着するからです。
このあたりは「砂漠」と思われていますが、準砂漠気候なので雨が降れば草木も普通に生えます。特に去年と今年はいつもの年の4~5倍の雨量とかで、水も草木も豊富なのだとか。
ちなみになぜウルルを含むこのあたりの土が赤いのかは、前々回の「キングスキャニオン」の話で説明したとおり「砂岩中の鉄分が空気に触れた酸化したから」です。
さて「夕陽に輝くウルル」を撮影しようとツアーバスに戻ろうとしたところでポツポツと雨が降ってきました。と思ったらすぐに本降りに。土砂降りになる前になんとかバスに駆け込みましたが、雨脚は強くなるばかり。
「これじゃあ、夕映えのウルルの撮影は無理ですね」。諦め口調でつぶやいたのですが、ガイドさんたちは目を爛々と輝かせています。「こんなウルル、滅多に見られないですよ! 貴重な体験です!」
ウルルがまさにウルウル、いや号泣していました!
本当に一瞬のできごと。大自然の力はすごいですね。タヒチで「黒砂ビーチ」などの案内をしてくれたティーバの言葉を思い出します。「自然の力には困らされるけれど、力があるから自然は美しいんだよね」
晴れたウルルに再挑戦!
そんな「珍しいウルル」を目の当たりにできて大満足! とはいえやっぱり「青空の下で赤く映えるウルル」も見たいです。ああ、人とはなんと欲張りな動物でしょう。…なんていう名作文学の10代の主人公のように思い悩むほどの話ではなく、極めて普通の感情だと思います。
と言っても滞在2日目は前回紹介した「カタジュタ」に行くなど他のスケジュールがびっしり組まれていたため、チャンスは3日目にして最終日のみ。しかもフライトの関係で午前中には空港に移動しなければなりません。
そしてその最終日ですが…打って変わってドッピーカン!
こちらは往復1キロで所要時間45分。ちなみに「クニヤ」とはニシキヘビの意味です。で、なぜそういう名前がついたかというとニシキヘビに関する伝承が残っているからです。そしてそのニシキヘビ、今でもウルルのほうを向いて守り神になっているのだとか。
穴から血が出ているように見える木がありました。
パース旅で【危険な花】を探しにいったときと同じものでしょうか。じつはこの木、結構スゴ技の持ち主です。なんと水が少ないときは自ら余分な枝を殺してその分幹だけ生き残るそう。かなりの荒療法ですね。
興味を持って写真を撮るのは日本人と中国人と韓国人だけで、欧米人の多くは説明しても素通りとのこと。
先住民のサスティナブルな知恵
さて「クニヤウォーク」のつきあたりが「ムティジュルウォーターホール」という池になっています。
「砂漠のオアシス」じゃないですが、こういう場所にはワラビー(小型のカンガルー)などの動物たちも水を飲みに来ます。そしてそれらは狩猟採集生活をしてきたアボリジナルピープルにとっては絶好の獲物。
だけど彼らはむやみには狩りません。たとえば獲物の中に突然わけいって襲いかかるなどしたら、動物たちも「ここは危険な場所」と学習して近づかなくなるからです。
その代わり彼らは岩陰などに隠れて、集団で水場に移動してくるワラビーの「最後尾の一匹」だけを矢などで仕留めるそう。これならワラビーたちもあとで「ん? 仲間が一匹いないか?」とは気づくかもしれませんが、「人間に狩られた。だからこのルートは危険」ということまでは思い至らないからです。
先住民たちは私たちが大騒ぎするずっと前から「サスティナビリティ」を考えていたのですね。いや、先住民だけでなく昔の人たちはみなそうなのかもしれませんが。
さてさて空港に行く前に「ウルルの全景がきれいに撮れる撮影スポット」に立ち寄りました。冒頭の写真もそこで撮ったもの。そして——。
雨がたくさん降ったあとのため水を含んでサラサラではなく、タヒチの黒砂のようにはいかず。またいつかサラサラの赤土の写真を撮りに行きたいな。
【柳沢有紀夫の世界は愉快!】シリーズはこちら!
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