天気のいい日は近くの山へ行こう!
藤原岳は、1,000m級の山が連なる鈴鹿セブンマウンテンのひとつで、東海エリアでは人気の山。僕が暮らす名古屋市内でも、少し高い場所にいけば、養老山地の向こうに藤原岳の頂を望むことができる。毎日のように散歩している自宅近くの丘からも見えるので、いつか登ってみたいと思っていた。
ガイドブックには、「初心者向き」と書かれていた。しかし、ネットでルートを検索し、地図アプリで標高差や距離などを調べると、斜度も距離もそこそこあることがわかった。今回歩く「大貝戸ルート」の参考タイムは、約6~7時間。休みを多くとりながら、ゆっくり歩いても明るいうちに下山できるよう、余裕を持って早朝にスタートすることにした。
当日は、暗いうちにクルマで自宅を出発。藤原岳登山口にある無料駐車場には、6時30分過ぎに到着した。しかし、40台ほど停められる駐車場はすでに満車。そこから2~3分のところにある藤原岳観光駐車場に移動することに。観光駐車場は、登山口駐車場より広く、到着したときには空いていたが、準備をしている間に、続々スペースが埋まっていった。そのとき、人気登山スポットであることを実感した。
観光駐車場は有料だが、この日は無人で、料金箱に入れて利用するシステムだった。おつりが出ないので、あらかじめ小銭を用意しておくといい。
山頂を目指して藤原岳表登山道を歩きはじめる
午前7時前に歩きはじめた。観光駐車場から徒歩約6分の藤原岳登山口には、休憩所ときれいなトイレがあった。登山者への配慮がうれしい。
その先、神武神社の横から、うっそうとした林間の登山道が始まる。道標には「藤原岳表登山道」と記されていた。
序盤から斜度がきつく段差も大きい。小石が散らばる地面には、根が張る箇所もある。晴れていても滑りやすいので、足元をしっかり確認しながら歩きやすいラインを選んで進んだ。「この急坂がどれくらい続くのか?」と少々不安になったが、しばらく行くと「二合目」「三合目」と道標がテンポよく現われ、悪いペースではないことを実感できた。親切な山道だ。
道幅が狭い区間もあるが、6合目を越えると斜度も少しだけ緩やかになった。8合目を過ぎると、眺望が開ける場所が次々と出現し、そのたびに景色を楽しんだ。朝日にキラキラと光る伊勢湾をはじめ、遠くには御嶽山、伊吹山を望むビューポイントもある。9合目付近まで歩くと、ゴツゴツした岩盤や、苔むした大きな岩が剥きだしになったワイルドな地形になる。鹿の鳴き声が聞こえたり、美しい花々やコゲラの姿なども見ることができた。歩くほどに自然の濃さを感じられる。
美しき風景が広がる場所で至福のランチ
スタートから2時間30分ほどで、藤原山荘に到着した。頂上まではあと少し。山荘を覗いてみたが、無人で売店などもない。今は避難小屋のような存在らしい。その先に道があったので、山頂とは反対の天狗岩方面へ歩いてみた。
するとすぐに予想もしなかった絶景が広がっていた。なだらかな丘陵地帯は緑の草や鮮やかな花に包まれ、その間にポツンポツンとむき出しになった岩が点在する。青い空と相まって、まるでアルプスの少女ハイジが登場しそうなメルヘンな景観だ。山羊がいないのが不思議なくらい。
しかも、眺望が開けた平らで広い場所もある。混み合う山荘から近いのに、そこにはなぜか人がほとんどいない。「ラッキー!」とばかりにそこで早めのランチにした。
マットを敷いて、妻が作ってくれたおにぎりとみそ汁をいただいた。上空には、イヌワシの姿が見える。双眼鏡を覗くと、名古屋の高層ビル街の先、自宅近くにあるシンボリックなタワーが見えた。いつもとは逆から見る風景に、じわり感動。これぞ至福のランチタイムだ。すべてが最高過ぎる。
山頂までもう少し
この日は風もなく、穏やかなぽかぽか陽気だった。静かな草原でゆっくり休んだら、いよいよ山頂へ。さあ、行くぞ~。
山荘近くにはトイレもあり、その付近からは人も増えてきた。山頂に繋がる道はゆるやかなカーブで傾斜も緩い。目に入る景色も穏やかで、誰もが訪れたくなることが実感できる絵に描いたような美しい山道だ。草原のように見えた大地を覆うグリーンは、よく見ると苔の仲間だった。なんて生命力にあふれる景色なんだ。
周囲が開けた山頂に到着すると、謎の看板が待っていた!?
いよいよ山頂へ到着。景色は一変し、そこには大きな岩がゴロゴロしたワイルドで山頂感満載の景観があった。山頂を示す3枚の看板を見ると、「標高1144.8m」「標高1140m」「標高1,120m」と、なぜか記載された標高がバラバラ。いったいこの山の標高は?もしやクイズか?だれか正解を教えて~。
山頂付近は狭いが、周囲をぐるりと見渡せる眺望は、このルートでナンバー1。鈴鹿セブンマウンテンの竜ヶ岳、御在所岳のほか、滋賀の名峰伊吹山と琵琶湖、四日市や伊勢湾も見渡せる。この岩場で休憩している人も多く、看板と一緒に写真を撮る人の列もできていた。せっかくなので、僕も記念に1枚撮ってみた。
先ほど、山荘近くでゆっくりと休んだので、景色を楽しんだら下山開始だ。
下りは、ゆっくり安全に
帰りは、上りルートをそのまま引き返した。道中、分かれ道も少なく、道標も多数あり、人も多いので迷う心配はない。しかし、斜度が急で、段差が大きいために、上りよりも下りの方が格段に歩きにくい。約7~8割の人がトレッキングポールを使って歩いている理由が、帰路にして分かった。
帰り道は、トレイルランナーや、すれ違いで上ってくる人も多く、思いのほか時間がかかった。休み休みゆっくりと歩きながら、約3時間かけて無事に下山。観光駐車場に帰着すると、ほぼ満車。早めに出かけて正解だった。
所要時間は約6時間、歩いた距離は約8.8km、獲得標高は1,062mだった。実際に歩いてみて、低山気分で気軽に行くような山ではないことがわかった。道もわかりやすく、登山技術はそこまで必要ないかもしれないが、体力はそれなりに必要だ。途中、トイレはあるが水場はない。「初心者向き」というより、「中級者向き」か「初心者が中級者にステップアップするためのチャレンジングなルート」ぐらいの表現が適切ではないかなと感じた。
とはいえ6時間ほど歩くだけで、大きな達成感を味わえ、変化に富んだ眺望や、美しい花や野鳥を愛でることもできるのだから、素晴らしいパフォーマンスの山ではないか。名古屋市内からは高速道を使えば1時間前後でアクセスでき、登山口周辺には駐車場もある。さらに三岐鉄道三岐線西藤原駅から登山口も近い。多くの人が訪れる理由がはっきりと分かった。
駐車場で少し休みながら、近隣の日帰り入浴施設をチェック。いなべ市内はもちろん、周辺には多数の温泉やスーパー銭湯がある。今回は岐阜県海津市にある「海津温泉 宙舟の湯」に出かけ、ゆっくりと温まって帰った。
花の百名山としても知られる藤原岳。フクジュソウが咲く春、紅葉が美しい秋の天気のいい休日には、2か所の駐車場が満車になることも多いそうだ。電車を利用するか、駐車場が混み合う前の早い時間に出かけることをすすめる。また、例年、11月下旬からは降雪もあり、冬期は雪山登山の装備が必須という。しっかりと準備をして、四季折々の山道を楽しもう。