15年で生産量は4分の1!国産ホップのサスティナビリティ推進のためキリンが行なっていること
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    2024.11.11

    15年で生産量は4分の1!国産ホップのサスティナビリティ推進のためキリンが行なっていること

    15年で生産量は4分の1!国産ホップのサスティナビリティ推進のためキリンが行なっていること
    クラフトビールファンの間では、よくホップが話題になる。パッケージにホップの品種名を記したクラフトビールは珍しくない。カスケード、シトラ、ギャラクシー、ネルソン・ソーヴィン……ほとんどが外国産である。

    一方で国産ホップの生産量は年々減少中の現実がある。ビール好きとしては国産ホップのこれからが気になる。国内で生産されるホップの約7割を購入しているキリンビールに国産ホップの現在の課題とその対応策を聞いた。

    生産量が15年で4分の1ショック!喫緊の課題は後継者不足

    世界には現在、300種以上のホップがあり、今も新種が開発され、育種されている。新種のホップは醸造家に新たなビールのインスピレーションを与える素材でもある。クラフトビール人気が広まる中、世界のホップ産業は活性化し、注目もされている。 

    日本でもホップは100年以上前から栽培され、日本固有の品種も開発されている。最盛期は1968年で、3,295トンの生産量を上げている。しかしその後は農産物輸入の自由化とともに外国産ホップが多くを占めるようになり、日本のホップは減少していくのである。21世紀以降では、2008年に446トンだったところ、2023年に123トンと、15年で約4分の1に急減している。

    一番の理由は、ホップ農家の後継者不足。日本全国で、他の農産物でも聞かれる話ではあるが、それにしても4分の3減は急すぎる。

    「後継者不足は喫緊の課題です」と、キリンビール企画部の草野結子さんは危機感を示す。「地域の行政と生産者組合が連携してホップ農家を支えていく仕組みが急務。このままではホップ産業が衰退してしまいます」

    キリンビール企画部主査の草野結子さん。

    キリンビールは岩手県の遠野市、秋田県の横手市などで生産されたホップを購入している。

    遠野では市の行政、キリンビールも参画しての「ビールの里構想」を2007年に開始。ホップの生産支援、新規就農者支援、ホップ収穫祭の開催などのビアツーリズムの推進、さまざまな施策を打ってきた。新規就農者を含め、現在、ホップ生産農家は20戸前後で推移している。少しずつではあるが成果は見えている。

    現地で中心的な働きをしているのが、遠野のまちづくりや地域ブランディング、人材育成などを手がける民間企業のBrew Wood(ブリューウッド)だ。

    「遠野は民間と地域が連携したビジネスモデルがうまく機能しているケースだと思います」(草野さん)

     一方、秋田県横手市でも2018年、横手市とキリンビールが連携協定を結び、「秋田県横手市ホップの郷づくり振興ビジョン」を策定。その活動母体として、官民連携による「よこてホッププロジェクト(YHP)」が設立された。畑の棚の整備や機械設備、加工場の改修支援、ホップ栽培技術の研修制度の創設などに取り組み始めた。

    また、JR東日本や市内の民間企業による任意団体「横手HOPPERS」が発足してYHPに参加、持続可能なホップ生産に向けて模索を始めている。ひとつの試みとして、秋田県内のクラフトビールブルワリーに横手産ホップを使用したビールづくりを呼びかけ、今では6ブルワリーから毎年秋に「横手産ホップのビール」がリリースされている。

    農業の新規参入者にとって、ホップはハードルの高い農作物だという。大型機械の導入がなかなか進まず労力が大きく、ツルが高く伸びるホップには5メートル以上の棚の設置が必要だ。栽培技術に加え設備の支援体制も求められる。

    遠野市のホップ加工場。老朽化が問題になっていたが、遠野市のふるさと納税の利用など行政からの支援もあって改修される見込みだ。

    ビールメーカーには国産ホップの認知度を高めるプロモーションも求められる。キリンビールは毎年、遠野産ホップをメインにした「一番搾りとれたてホップ」を11月に発売している。今年で21年目になるが、パッケージには「岩手県遠野産ホップ使用」と明記されている。

    遠野産ホップの品種はIBUKI(イブキ)。キリンビールが開発したアロマホップのひとつ。収穫後24時間以内に凍結した生ホップを使用。みずみずしい香りが楽しめる。

    「クラフトビールファンのホップへ関心が高まっていますが、国産ホップの魅力を一般のビールファンに広げていくことも私たちの役割と考えています」(草野さん)

    ホップでも気候変動対策が待ったなしに

    世界のホップ業界で今、急速に進められているのが気候変動に向けた対策だ。

    「日本の産地ではまだ気候変動による影響は見受けられませんが、ヨーロッパでは熱波が頻発し、気温上昇や極端な乾燥による影響が見られるようになっています」と話すのは、キリンホールディングス飲料未来研究所でホップを研究する杉村哲さん。

    ここのところ毎年のように猛暑が襲う日本。影響はまだ出ていないとはいえ、気候変動に向けた研究は始まっている。

    キリンホールディングス飲料未来研究所主務の杉村哲さん。

    今年8月、ホップの屋内栽培技術の確立が発表された。こちらはキリンホールディングス飲料未来研究所と東京大学発のスタートアップ企業CULTA(カルタ)との共同研究である。

    「通常、夏期にしか収穫できないホップですが、屋内栽培により季節を問わず収穫できる可能性が示唆されました。これによって、ホップの品種改良や栽培技術の開発もスピードアップできるしょう。ホップ生産を気候変動に対応できるよう研究していきたい」と杉村さんは話す。 

    また、キリンホールディングスから「ホップの熱ストレス耐性を高めるアミノ酸発見」も報告されている。

    ホップは冷涼な気候を好む。日本の主な産地は北海道や東北、山梨。ヨーロッパではドイツやチェコなど、北海道より北に位置する。十分に冷涼な土地ゆえに、これまで熱ストレスに耐えるメカニズムが明らかにされていなかった。キリン中央研究所の研究により、N-アセチルグルタミン酸というアミノ酸を付与することで、気温が高い実験環境でもホップの生育が促進することが報告されている。

    ホップ産業は今、日本では生産者不足による衰退の危機に、世界では気候変動による不作リスクに直面している。主原料の大麦や小麦にしても同じような状況下にある。私たちがこれからもおいしいビールを飲めるように、ホップをはじめ国産原料を応援していきたい。

    私が書きました!
    ライター
    佐藤恵菜

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