WIND from ONTARIO~森の海、水の島~
#7 黄昏を映す水
by Tomoki Onishi
撮影・文/尾西知樹
トロント在住のフォトグラファー、マルチメディア・クリエイター、カヌーイストでサウナー。オンタリオ・ハイランド観光局、Ontario Outdoor Adventuresのクリエイティブ・ディレクターを務める。カナダの大自然の中での体験とクリエイティブを融合させたユニット magichours.caを主宰。
宇宙を感じることができる畏怖と感謝の時間
日がな一日カヌーを漕ぎ、重い荷物やカヌーをポルタージュする。人影のない森と湖の原野の只中、サウナテントでととのう。そんな時間たちが辿り着く、マジカルな景色がある。
それは、体や精神を酷使した後のご褒美のような光景。これから訪れる夜の帷の下の、素敵な焚き火時間を予感させるプロローグにしてはいささかゴージャスすぎる、そんなひととき。
カナダ・オンタリオ州のオンタリオという名前は、ファースト・ネーション(先住民)の言葉で、「キラキラと輝く美しい水の土地」という意味がある。
広大なフィールドに無数に散らばる湖が、太陽の光を受けてキラキラと揺らめいている光景は、彼らの時代と変わらず、今も此処にあり、この土地に住む人や訪れる人々の心にやさしく語りかけてくる。彼らは、この光景にどのような物語を読み取ったのだろう──。
太陽が沈みゆく森の稜線へとカヌーを漕ぎ出せば、流れのない水はどこまでも穏やかで、凪。空と水の境界が曖昧となって、色彩豊かな宇宙空間に浮遊しているような、なんともいえない不思議なトリップ感に迷い込む。気温は、四季を感じられれば、暖かくても寒くてもいい。
空気や水、森、土、動物、人、それぞれが影響しながらつながり混ざり合って、ひとつの物語を紡いでいる。かつてこの場所で、ファースト・ネーションの人々がペトログリフ(岩壁画)に描き表わした宇宙を感じることができる畏怖と感謝の時間だ。
冬には、湖は凍りハードウォーターと呼ばれる氷原が出現し、また新たな表情を浮かべる。
丸一日車を運転して出会った、目に焼きつく情景。ヒューロン湖への渓谷に映る黄昏。
カヌーを漕いで辿り着いた人影のない森の片隅で、素敵な焚き火時間がはじまる。
(BE-PAL 2024年12月号より)