焚き火と本 Special Interview
週末縄文人
2019年に開設した「週末縄文人」は現在登録者数17万人を超える人気YouTubeチャンネル。運営するのは縄さん(写真左)と文さん(写真右)のふたり。書籍『週末の縄文人』(産業編集センター)も発売中。
現代と縄文時代を行き来する、愉快で壮大な社会実験
もしも文明が滅んでしまったら、我々人類はもう一度、生きるための道具を自分たちで作ることができるのか──。そんな疑問に真っ向から挑んでいるのが、YouTubeチャンネルの「週末縄文人」だ。動画を制作するのは、元NHKディレクターで同期だったという縄さんと文さんのふたり。「生きるために必要な道具を、自然にあるもので作っていきながら、ゼロから文明を進めていくというコンセプトでやっています」。
そんなふたりが声をそろえて一番大変だったというのが、竪穴式住居だ。「ふたりがかりで1日10時間以上作業して、きっかり30日かかりました。屋根はこの辺に生えているクマザサを使うんですが、それを手でポキポキ折っていく。4、5時間も作業をしていると、だんだん手に力が入らなくなってくるんです。それを今度は4、5時間かけて結び続ける。家作りはこれまでのなかでも圧倒的な作業時間を要しました」と縄さん。
もちろん大変だからこそ、その分、感動も大きい。火を最初におこせたときのことを、縄さんは次のように語る。「火が着くまで、材料集めから3か月もかかりましたけど、成功したときは生き物として強くなった気がしたんです。これは普通に生活していたら得られない感覚だなと。この活動を続けていきたいと思えた瞬間でもありますね」。
自然はままにならない。文さんがその思いを強くしたのが、土器作りだ。「ちゃんと煮炊きできる土器が焼けるようになるまで2年。粘土をこねて野焼きする。流れはわかるんですが、焼く前の乾燥段階でひび割れてしまったり、そこまで完璧でも火のなかで爆発したり」。また文さんは次のように続ける。「時刻どおりに電車が来るような現代社会は、あらゆることをコントロールできるのが当たり前だと思っていました。だから、人が待ち合わせに遅れたら、イラッとしてしまう。でも、自然はコントロールできることのほうが少ないので、ミスがあっても『それはそうだよね』と、寛容な気持ちになれるんです」。
現代と縄文時代を行き来するなかで縄さんが感じるのは情報量の差。「平日、手が触れているのはマウスやキーボードといった手に馴染むように作られたものばかり。片や縄文時代は手に優しくないものばかりで。黒曜石はめちゃくちゃ切れるので便利ですが、持ち手側も切れるわけですよ。手からもらえる刺激は山のほうが圧倒的。逆に現代はすごく情報が少ないんだなって思うようになりました」。
縄文時代を生きるふたりは今後、鉄や水田が誕生する弥生時代に向け、失敗を繰り返しながらも、着実に文明を進めていく。
It’s 縄文スタイル
1 ひたすら草から糸をつむぐ
カラムシという植物から一本一本糸を縒って作っていく。完成した糸で、寒さをしのぐ服を作る予定。
2 ひとりひとつのマイ土器
3 30日かかった竪穴式住居
手と木で穴を掘りクマザサで屋根を作った竪穴式住居。内部はふたりが寝られる広さで予想外に快適。
縄さんが焚き火の前で読みたい本。
著者:山本周五郎
出版社:講談社
文さんが焚き火の前で読みたい本。
天の鹿
作者:安房直子(著)、スズキコージ (画)
出版社:福音館書店
※版元品切れ中
※構成/風間 拓 撮影/早坂英之(編集部)
(BE-PAL 2024年12月号より)