図譜・画集、写真集、図鑑、おすすめの8冊はこちら
写真集や図鑑を開くのは旅の話を聞くのに似ている、そういったらあなたは違和感を覚えるだろうか。写真集は眺めるもので、図鑑は調べるものだ、と。
そのとおりだが、これらの書物のなかには写真や図版の間から物語が立ち上がるものがある。
例えば、古い時代の図譜。写真の普及する前に描かれた絵には、数世代前の日本人が見ていた豊かな自然が封じ込められている。見る者は百年前、二百年前の日本へと連れ出される。
写真集も読者を深い自然へ誘う。ひとつのテーマを掘り下げた写真家は簡単に見られない世界の一瞬を紹介する(出版事情の変化により、数十年を費やす大作が減少傾向なのは残念だ)。
図鑑からも物語が香る。鳥、昆虫、菌類、自然環境……。その世界に魅入られて人生を投じた研究者たちは、自身が目にした生き物の知識を後進に向けた本に昇華させる。一枚の写真、一行の解説には、観察と研究に人生を捧げた数多の人々の時間と情熱が凝縮されている。
実は、読み物としては入門者向け図鑑が面白い。その分野の概要と最新の知見を解説する構成は、検索に特化した図鑑にない魅力だ。子供向けと侮れない。
名作を開くのは専門家が渉猟した知の世界を肩越しに覗くようなもの。本を扉にして広大な博物学の世界へ出て行こう。
写真機が広く普及する前に日本で記録された生物と風景
図譜・画集
(上)
吉田 博
全木版画集
増補新版
作者:吉田 博
出版社:阿部出版
吉田は日本伝統の木版画の技術を用いて西洋風の写実的な表現を行なった版画家・画家。登山を好み、日本アルプスや富士山をモチーフにした版画を多く残した。
(下)
シーボルト
『フローラ・ヤポニカ』
日本植物誌 新版
作者:木村陽二郞・大場秀章(解説)
出版社:八坂書房
シーボルトはドイツ人の医師・博物学者。鎖国中の日本で動植物を収集・記録した。本書は『フローラ・ヤポニカ』の全151図をカラーで再現した図版集。
情熱ある写真家の時間と才能の結晶。自然教育と出版文化の到達点
写真集
(右)
潜る
日本海中紀行
著者:高久 至
出版社:平凡社
知床から西表島まで35都道府県の海から、その海域を代表する生物・風景を記録。魚類、海獣類、海中風景や環境に加えて、各地の文化と暮らしも撮影する。
(中)
日本鳥類図譜
作者:久保敬親(写真)、樋口広芳(監修)、柴田佳秀(解説)
出版社:山と溪谷社
日本の哺乳類と鳥類を撮影し続けた久保の集大成。柴田による解説も相まって過去数十年の日本の野鳥の記録として白眉。兄弟作に『日本哺乳類図譜』もある。
(左)
里山
─生命の小宇宙
著者:今森光彦
出版社:クレヴィス
撮影地は琵琶湖の周囲の里山。湖、川、棚田、雑木林……で循環する生き物と人の営みを半世紀にわたって記録した。人と自然が共存する社会の可能性を示す。
生き物の世界の覗き窓。アマチュア向けでも読み応えあり
図鑑
(左)
学研の図鑑LIVE
昆虫 新版
作者:丸山宗利(総監修)
出版社:Gakken
50名の研究者が約2800種を生きた状態で撮影。昆虫の幼虫やクモの仲間、飼育法も収録。虫の世界の入門書の決定版。
(中)
小学館の図鑑NEO
新版 水の生物
作者:白山義久・窪寺恒己・久保田 信・齋藤 寛・駒井智幸・長谷川和範・西川輝昭・藤田敏彦・矢吹彬憲・土田真二・加藤哲哉(指導・執筆)
出版社:小学館
図鑑にまとめられることの少ない水中や水辺の無脊椎動物を紹介。生き物同士の関わりを軸に、水のめぐる環境を解説。
(右)
増補改訂新版
日本のきのこ
作者:今関六也・大谷吉雄・本郷次雄(編・解説)、
青木孝之・内田正宏・前川二太郎・吉見昭一・横山和正(解説)、
保坂健太郎・細矢 剛・長澤栄史(改訂版監修)、
伊沢正名・木原 浩・菅原光二・水野仲彦(写真)
出版社:山と溪谷社
1988年発行の『日本のきのこ』を増補改訂して961種を収録。大きな写真と充実した紹介文で、きのこの世界を網羅する。
※構成/藤原祥弘 撮影/矢島慎一
(BE-PAL 2024年12月号より)