デンマークの人たちのライフスタイル、Hygge(ヒュッゲ)について書かれた本で、日本語訳も発売された「THE LITTLE BOOK OF HYGGE 365日「シンプルな幸せ」の作り方」。著者のマイク・ヴァイキングさんに、デンマーク人の彼から見たフィンランドのサウナについて話を伺っていたときに、彼はこんなことを言った。
「フィンランドとデンマークの違いのひとつは、フィンランドにはSisuがあるけれど、同じ北欧でもデンマークにはそういうものはないということ。フィンランドのサウナ文化にも彼らのSisuが現れているんじゃないかと思います」
フィンランド語のSisu(シス)は、「フィンランド魂」や「フィンランド根性」と訳されてフィンランド人の国民性を表し、精神的な粘り強さや不屈の精神、勇気、根性、忍耐を意味する言葉。フィンランドの厳しい自然環境や独立のための幾度の戦いで培われた精神性と言われている。
サウナは間違いなく、フィンランドの人たちにとって、とても重要なアイデンティティだ。今、世界的に広まったフィンランド語の「サウナ」は、もともとは、ロシアでもフィンランドでもほぼ同じ温浴方法を指している。フィンランドでは「サウナ」、ロシアでは「バーニャ」と言われ、フィンランドの伝統サウナの「スモークサウナ」は、ロシアでは「黒いバーニャ」と呼ばれているが、同じ物を指している。サウナの方がこれほど世界中に広まったのは、サウナがフィンランド人にとってどれほど大切なものなのかを表している。
フィンランド人のフリーダイバー、ヨハンナ・ノードブラッドさんは、2015年に氷の下の2℃の水中を素潜りで50m潜るギネス記録を作った。冷たく暗い氷の中で、恐怖心は涌かないのだろうか。
「私にとって最も心安らぐ場所は凍った湖の中。フィンランドの冬は暗くて長くて厳しいけれど、フィンランド人ほど暗闇に親しみを持てる人たちはいないんじゃないかしら。そして、サウナもとても大切なもの。サウナに入るだけじゃなくて、薪に火をつけたり、湖の水を汲んだりすることも含めてね」。
昨年、独立100周年を迎えたフィンランド。それに合わせ、Visit Finlandが実施したプロジェクトは、フィンランド国内の「エクストリーム(究極)」な場所に住む人々のDNAをもとにフィンランド人のもつエクストリームさや、Sisuを音楽にするという、ユニークなものだった。作曲を担当したチェロ・メタル・バンドのアポカリプティカのエイッカ・トッピネンさんはこう話す。
「フィンランドの西と東の人たちのDNAは大きく違うし、フィンランド北部ラップランドの気候も人も他とは違う。それでもサウナが特別なものであることに変わりはないと思う。サウナは自分にとっては特別な場所。ロウリュは特にね。自分はiki sauna(フィンランドのサウナメーカー)を長年愛用しているけど、ikiのストーブにロウリュをしながらインスピレーションを得て、そのままスタジオに駆け込んだことが何回もあるよ」。
「シンフォニー・オブ・エクストリームズ」オフィシャル映像
フィンランドでは、サウナはただ楽しくリラックスするためのものではなさそうだ。そして、フィンランドの人たちのとても深いところにある存在のように見える。フィンランドの人たちと一緒にサウナに入りながら、少しずつそれが何かわかってくるのかもしれない。
文・撮影 / 東海林美紀