引き潮の時間がビーチコーミングの狙い目
教えてくれた人
大房岬自然の家所長 神保清司さん
山形県生まれの48歳。内陸部育ちだったこともあり、ビーチコーミングの面白さにはまる。最初に興奮した拾い物は、クジラの骨。
〈名も知らぬ遠き島より流れ寄る椰子の実一つ〉で始まる、国民的歌謡『椰子の実』。島崎藤村が、民俗学者の柳田國男に聞いた海の漂着譚からインスピレーションを受けて書いた詞だ。
「ここ房総半島南部にも、たまにヤシの実が流れ着きます。とくに冬は、珍しい漂着物がいろいろと見つかります」
こう語るのは、ビーチコーミングに詳しい大房岬自然の家所長の神保清司さん。
前置きも早々に浜辺へ降りる。貝殻やシーグラスのような美しい漂着物ばかりをイメージしていた編集ハラボーだが、プラスチックゴミの多さに思わずひるむ。何かの死骸か、ときおり微かな腐臭も漂う。
「こういうにおいも海のリアル。そこは我慢です。死んだウミガメが漂着したときなんて、100m先からでもわかりますよ」と神保さん。
ハラボーが最初に見つけたお宝級の漂着物は、内側が真珠色に輝くみごとなアワビの殻。
「お、最近だと珍しい大型サイズです。ところでこの殻はなぜここにあると思いますか?」
神保さんの逆質問にハラボーはありったけの想像力を絞る。
「漁師さんが食べて捨てた!」
ありそうだが説得力は弱い。アワビは今や超高級品。漁師が売らずに食べる可能性は低い。
「タコが襲って食べたというのが現実的かな」と神保さん。
こんな推理も浜歩きの面白さ。では、お宝を効率よく見つけるにはどうすればよいのだろう。
「引き潮の時間が狙い目です。満潮時の汀線に漂着物が帯状に残ります。海が荒れると高い位置まで打ち上がるので、波が静まってから探すと普段見ないようなものも発見できます」
ビーチコーミングは年中楽しめるが、風が海から陸に向かって吹く季節が絶好だという。
流木にも注目したい。波と砂に磨かれた木片は、角度によって鳥に見えたり、魚に見えたり。そんな流木で作ったインテリアも素敵な宝物になる。
STEP1 拾う
潮の引き始めが狙い目
荒天後もビッグチャンス!
同じ大きさと比重のものは1か所に集まりやすい。写真は通貨として使った国もあるタカラガイ。ひとつ見つけたら周辺をよく探すと次々見つかる。磁器片やシーグラスは、小砂利まじりの浜が狙い目。
自然のしくみがわかる漂着物
アオイガイ
カイダコというタコの殻。漂着は日本海に多いが太平洋岸でもまれに見つかる。
イルカの耳骨
七福神の布袋様に形が似ているところから布袋石と呼ばれる。"幸運を呼ぶ石"として人気がある。
ウミガメの骨
南房総にはときどき漂着。黄色と茶色が混じったプラスチック板状のものはタイマイの鱗板。つまり鼈甲だ。
ムラサキウニ
栗のイガのような棘が脱落すると、美しい模様の球体が現れる。インテリアとしても大人気。
クジラ類の脊椎骨
荒天の後に砂から出た状態で見つかる。脂が抜けていないものは臭気があるので注意。
人間の営みがわかる漂着物
樹皮製漁具(ウキ)
朝鮮半島やロシア東岸の川で、網漁のウキに使われるシラカバ類の樹皮。たまに漂着。
鎌倉えび
イセエビをかたどった素焼きの土製品。鎌倉周辺の正月飾りで、小正月のどんど焼きのときに燃やされる。
家紋入り軒瓦
家紋入りの軒瓦は財力の証だ。この家紋は「数珠付三つ巴紋」。どんな名家の屋根に乗っていたのだろう。
シーグラスと磁器片
割れたガラスの角が砂に揉まれるうちに摩耗し小石状になったのがシーグラス。磁器片には江戸時代以前のものも。
コンクリート片など
右はサンゴ、下は穿孔貝が穴をあけた石だが、礫岩にも見える左の石はコンクリート。
ついでにゴミもちょっと拾おう
浜に立つと嫌でも目につくのがペットボトルやナイロン製の漁具だ。とても拾いきれない量だが、1袋でも良い。自然に還らない化学素材の漂着物は持ち帰って適切に処分しよう。
STEP2 洗う
まずは真水で塩抜きを
入れ歯洗浄剤も活躍
塩分がしみ込んでいるのでまずは真水で洗う。持ち帰ったらさらに3日ほど真水で塩抜き。
食い込んだ砂やこびりついた汚れを歯ブラシで落とす。
死んで間もない貝殻や魚介類の骨は、タンパク質や脂肪が残っている。剥離効果がある入れ歯洗浄剤にひと晩以上浸けてからよく洗う。
STEP3 作る
漂着流木でアートに挑戦!
ビーチコーミングには飾る楽しみもある。漂着物を分類群ごとにアクリル製のコレクションボックスに収めてみた。透過光でより美しく見える。
流木のシルエットは、不思議と鳥や魚に見えるものが多い。「逆さにしたら鳥に見えてきた! これこれ、ヨタカに似てるかも」とハラボー。そのまま流木の台に固定してみた。
Complete!
作品名『チンアナゴ』。曲がりくねった木と竹の根を、焦げた板にネジで固定してみた。「流木造形は"見立て"のアートですね」
竹の根の部分を投げ入れ風の花器にしてみた。気分は千利休。水漏れする場合は、内側に拾った小ビンを入れる。
※切り抜き写真の漂着物は大房岬自然の家(千葉県南房総市)の展示物です
※構成/鹿熊 勤、撮影/藤田修平 ※参考/『ビーチコーミング小事典』(林重雄著・文/総合出版刊)
(BE-PAL 2024年12月号より)