旧街道歩きは、散歩感覚でスタートできる
街道歩きのいいところは、手ぶらで始められること。
だからおじさんたちにも好評なのです。
かく言う私も、休日の朝、起きがけに思いついて、ふだんの格好で地下鉄に乗って、起点の「日本橋」に到着しました。
格好も手ぶらなら、頭の中まで手ぶらで始めました。
いや、「始めました」ではなく「始まってしまいました」が正しいです。
それくらい始めるのに覚悟はいらない。いらなすぎる。
散歩感覚で始まり、いつしか550キロのロング・トレイルを歩くはめになるのです。
とても危険な趣味です。
峠越えの際は服装にも要注意!
というわけで、私の格好ですが、群馬県までは、シャツにウインドブレーカー、ジーンズ、足元はトレッキングシューズ、これで十分でした(季節は春〜晩秋)。
しかしですよ、私は長野県から先はジーンズをやめて、トレッキング用のズボンに履き替えたのでした。
それはひとえに、碓氷峠(うすいとうげ)があるからです。
碓氷峠の前と後ろで、衣替えを強いられるのです。これはちょっと強調しておいたほうがいいポイント。
中山道を完歩したあと、「どこが一番きつかったですか」とよく訊かれましたが、私は碓氷峠と即答します。
この後も、街道随一の難所といわれる和田峠をはじめ、鳥居峠、塩尻峠、十三峠などの峠道が控えていますが、碓氷峠は別格です。
高さや坂道の急さではなく、いきなり後ろから木刀で殴られたような衝撃を受けるのが、碓氷峠なのです。
なぜなら日本橋からここまでは、舗装されたアスファルト道を鼻歌まじりに歩く旅でしたが、この峠は冗談でねえ、油断していたぶん、その衝撃が大きいのです。
碓氷峠は言わずと知れた群馬県と長野県の境にある峠です。ほとんどの人は、国道18号線やそのバイパスのイメージしかないでしょう。
昔の峠越えの道を歩く人は、よほど酔狂な人です。
ごろた石だらけの狭くてきつい急坂。
ジーンズが汗ばんだ脚に張り付き、思うように上がらない。シャツは汗でぐっしょり、顔からも滴り落ち、手拭いも絞れるほどで役に立たない。
ひとつの坂をやっとの思いで登り切ると、すぐに次の急坂が目の前に現れる!
そんな繰り返しが延々と続くのが碓氷峠なのです。
それからの私は、三条大橋までトレッキング用のズボンで通すことになります。
トレッキングシューズよりスニーカーがおすすめな理由
次に靴ですが、ふだん私はトレッキング・シューズを履いていますが、旅も後半になってから、スニーカーに替えました。
というのは新品のトレッキング・シューズが3、4回の行程で底が減って使い物にならなくなったからです。
街道歩きは、土の道よりもアスファルトを歩くことが圧倒的に多い。トレッキング・シューズはソールが柔らかく繊細なので、やはりある程度の硬さのあるスニーカーのほうがいいように感じます。
馬籠峠(まごめとうげ)で道連れとなった同年輩の人は、トレッキングシューズを履いて山道を歩き、舗装路になると、ザックからスニーカーを取り出して履いていました。街道歩きに慣れている人はそこまで用心深いのです。歩きながら話をしているのですが、やはり歩速が速いですね、そういう人は。
中山道歩きのリュック(バックパック)選び
ザックは、薄手のほとんど何も入っていないデイパック(オスプレー/ヘリテージシンプレックス・容量20リットル)で出発しました。
これも宿泊をともなう行程となると、デイパックでは間に合わず、バックパック用のザック(グレゴリー/ZULU35・容量35リットル)にしました。
カメラは首からかけています。
もともと猫背で首が前に出ている私が、いつもカメラとレンズを手でホールドしているで、旅先で出会う人は「カメラが重いのでは」と心配してくれます。
キャノンのミラーレスM5はかなり軽量で、レンズ(18mm-150mm)もふつうの重さです。
私の首が前に突き出ているのはキヤノンのせいではありませんので、心配に及びません。
宮川 勉
中山道のリアル: エッセイのある水彩画集
5年かけてちんたらと中山道を歩き通しました。中山道というのは、東京の日本橋から京都の三条大橋までをつなぐ旧街道です。東海道は有名ですが、中山道はその山道版とでもいうロングトレイルで、信州や美濃といった山がちな場所を歩きます。そのときに心に残った風景を水彩画として描き、まとめたものが本書です。