いちばんしっくりくる訳は「名もなき英雄」でしょうか。
3回にわたってお伝えしたタスマニアの世界遺産を実質6日で縦走する「クレイドル・マウンテン・シグネチャー・ウォーク」。そこではたくさんの「アンサングヒーロー」に助けられました。
最後に彼らを紹介するとともに、トレッキングや登山の未来について考えてみたいと思います。
どうも。オーストラリア在住ライターの柳沢有紀夫です。
【世界遺産「タスマニア原生地域」を6泊7日で縦走ハイク 番外編】
まずは今回のガイドを務めてくれたケイトとマーロンを挙げないわけにはいかないでしょう。
私たち参加者は約9キロの自分の荷物を背負って踏破しました。でも2人は「緊急用のシェルターや救急セットなど安全のための装備」、そして「野菜などの新鮮な食材」まで背負います。
荷物をデポしてのアタックを担当しないケイトのリュックは、出発地点の重量が26キログラム。アタック担当のマーロンのリュックはそれよりも少し軽いと思いますが、それでも参加者がデポするときでも緊急用のシェルターや救急セットの入ったリュックを背負って行かなければいけません。
ちなみにガイドの二人は朝ごはんと夕食、そしてランチの弁当の準備も担当します。朝食はトーストやシリアルやヨーグルトに、ベイクドビーンズやポリッジ(オーツ麦のおかゆ)という、典型的なオーストラリア風のものですが、夕食はパスタやリゾット、チリコンカン、カレーとエスニック料理で変化に富んでいました。
ガイドって大変だと思うんですよ。あまり山歩きに慣れていなくて遅れがちになってしまう人もいるし。中には久しぶりに引っ張り出してきたミドルカットのトレッキングシューズが破れちゃう輩までいるし。…はい、私です。笑
そんな忙しい中、いつも笑顔を絶やさない2人でした。
こんな2人にリードされるので、チーム全体が明るくならないわけがありません。雨や雪の多かった今回のトレッキングでも不満を漏らす人はいなかったのはそのせいでしょう。
いつも思います。「明るさ」はガイドの大切な資質だと。
当日のガイドではない裏方たちも
さて旅にはトラブルがつきものですよね。じつは今回のトレッキングツアーでも4日目に山小屋に着いたら、給水システムが故障して水が出ないといトラブルが生じていました。
汗だくで宿に到着したのに熱いシャワーを浴びられない。それどころか洗面所で手を洗うこともできない。ガイドのケイトたちはわざわざ外にある雨水タンクのところまで行ってやかんなどに水を入れ、コーヒーやお茶をふるまってくれてはいましたが、「これからどうなるのだろう?」という不安が参加者の中に漂っていました。
そこに救世主が現れたのです! 別のガイドであるリアさんです。
ショートカットの筋肉女子! タヒチのモーレア島での乗馬でほぼほぼマンツーマン状態でインストラクターを務めてくれたポエイチヘレ同様、私の弱点をズバズバとついてきますが、まあ、そんなことはどうでもよく。
じつは彼女、この日の朝に「部品が足りない」と連絡を受け、9時にその部品を受け取って車でローンセストンの街を出発。2時間ほど運転したあと駐車場に車を停め、部品も入れたリュックに背負ってトレッキングルートを23キロ5時間歩いて来たのです。
そんなリアと夕食時にはワイン片手に大いに語り合おうと思っていたのですが…なんとまた歩いて私たちが3日目に泊まった山小屋に宿泊するとのこと。涙
今回は「タスマニアン・ウォーキング・カンパニー」が主催するツアーに参加しました。もちろん同社のツアーに参加しなくても「公共」の山小屋5ヵ所を渡り歩いたり、そこにあるテント場を利用したりしてこのルート(オーバーランドトラック)の縦走も可能ではあります。
ただし公共の山小屋は管理人はおらず(レンジャーの詰め所はあるがそこに誰かが常駐しているわけではない)、シャワーは利用できますが冷たい水。いずれも標高1000メートルくらいの地点なので、水は冷たいです。
ガスレンジや電子レンジもないので、食材だけでなく調理器具も背負っていく必要があります。さらに暖房器具も布団もないので、寝袋なども持参。二段ベッドがならぶドミトリー形式の寝室なので、日本の山小屋に多い「雑魚寝」よりはマシな寝心地かもしませんが。
つまり公共の山小屋泊の場合、テント泊と持ち物はほぼ同じで、違いは「屋根と壁に囲まれて寝られるか」だけです。
異国でこれはなかなかタフでしょう。というわけで日本からこのルートを目指すのであれば、やはり今回の「クレイドル・マウンテン・シグネチャー・ウォーク」のツアーなどに参加するのがラクなんじゃないかと思います。1回目の記事にも書きましたが人数が集まれば、「日本語通訳」の同行も依頼できるそうですし。
この1年で80ページも書き込み。それだけ満足度が高いということでしょう。
公園管理局のレンジャーも
そして公園管理局のレンジャーたちもがんばってくれています。
シャベルを担いで、これから雪かきに行くそうです。そういえば1日目、木道が完璧に雪で覆われて、トレッキングシューズをズボズボ入れながら通ったところがありました。あそこへ向かうのでしょうか。
レンジャーは他にも木道や避難小屋の整備も行うそうです。ここでその避難小屋の紹介もしておきましょう。
シャベルとか肩にかけていると余計カッコいいですな。
ローソンの後姿を見送りながらこんなことを考えました。日本の登山道の整備は主に「周囲の山小屋の人たちを中心にしたボランティアたち」に頼っていると聞きます。本当に頭が下がる思いです。
でもそれは本来の姿なのでしょうか。国なり地方自治体なりがちゃんとレンジャーを育成し、雇用し、登山道などの整備をする。そのうえでインバウンドを含めた登山客を呼ぶ。ボランティアの善意に頼り切るのではなく、そうした体制を整えることが「サステイナブル」なツーリズムなのではないか。そんなふうに思いました。
「サステイナブル」といえば山小屋のトイレもです。
さらに私が驚いたのは、こうしたトイレは「糞尿はコンポスト的に処理して土に返します」みたいなところが多いのですが、このトレッキングルートではヘリコプターで国立公園の外に持って行って処理してから廃棄するそうです。
てなわけで「タスマニアン・ウォーキング・カンパニー」専用の山小屋でも公共のところでも、こうしたヘリポートが設置されています。
そこまで徹底するのが世界遺産なのかもしれませんね。
緊急時のレスキューにもこういうヘリポートは使われますし、「タスマニアン・ウォーキング・カンパニー」では年に2回、備蓄できる食料をヘリで運搬しているのだとか。
ちなみに熱いシャワーを提供するための巨大都市ガスボンベ(直径1メートルとかあります)はヘリに吊して運んできて、所定の場所にそのまま下ろすそうです。
初めてのタスマニア島縦走は「日本の山小屋との違い」を知る旅にもなりました。またオーストラリアの別の場所や別の国で、縦走をしてレポートしてみたいな。
【柳沢有紀夫の世界は愉快!】シリーズはこちら!
グレート・ウォークス・オブ・オーストラリア(Great Walks of Australia)
オーストラリア各地のとびきりの場所13ヵ所で、数日間のトレッキングツアーを実施。
https://greatwalksofaustralia.com.au/
タスマニアン・ウォーキング・カンパニー(Tasmanian Walking Company)
今回の「クレイドル・マウンテン・シグネチャー・ウォーク」を催行。
https://www.taswalkingco.com.au/
ジェットスター
日本からブリスベンでの乗り継ぎ1回でローンセストンへ。しかも燃油サーチャージは不要!
https://www.jetstar.com/jp/ja/Fly-Australia