山は美しく色づき、キャンプの焚き火を囲みながら料理するのも楽しい季節。身近な“食”をテーマに、地球のことを考えるイベント「地球飯(ちきゅうめし)~Tasty, Healthy, Earth-friendly」が、サイエンスミュージアム『日本科学未来館』で2024年12月9日まで開催されている。
11月23日には、料理家・コウケンテツさんと女子栄養大学・林 芙美准教授によるトークセッションも開催された。
大人も子どもも興味津々なイベントの様子。そして、トークセッションの中から、日々の食事はもちろんキャンプ料理にも活かせる「地球飯」のヒントを紹介するぞ!
イベント「地球飯(ちきゅうめし)~Tasty, Healthy, Earth-friendly」とは?
ロボット・人工知能から、地球環境、宇宙の探求、生命の不思議まで。さまざまなスケールで、先端の科学技術を体験できる『日本科学未来館』。その3階常設展示ゾーンで開催されているイベントが「地球飯(ちきゅうめし)~Tasty, Healthy, Earth-friendly」だ。
「地球飯(ちきゅうめし)」とは、地球環境にも人にもやさしい食のこと。生きていくうえで欠かせない“食”が、地球環境や体に及ぼしている影響とは? そして、近年話題になっている「食品ロス」の問題や、これらの解決のヒントなどを、見て、触れて、楽しみながら知ることができる。
おいしいだけじゃない「食材の見かた」
たとえば、おいしさだけではない「食材の見かた」を知れる展示。
テーブルの上に置かれたお皿に食材ごとのブロックを重ねると、体への影響と地球環境への影響が一目瞭然。キャンプでも定番の食材「赤肉」は、体へも地球環境へも影響が大きい。一方で、豆腐や納豆など植物性たんぱく質の「豆類」が、影響が小さい。
このほかにも、「乳製品」「オリーブオイル」「砂糖入り飲料」など。グラフはどれも日頃、食べたり手に取ったりしているものばかり。日々の食事で、何を、どれぐらい食べれば“地球環境にも体にもやさしいか”を考えるヒントになりそうだ。
もったいないだけじゃない「食品ロス」
「食品ロス」について考えることができるブースもある。さまざまな理由で食材を廃棄することが問題になっている「食品ロス」。もったいないのはもちろん、その一方で、十分な食べ物が得られない人は世界に約7億8000万人もいるという。また、世界のCO2排出量のうち食由来は約1/3。さらに、食品ロス由来はその8〜10%をしめるのだとか!
楽しみながら知るうち、今日から自分にできることは何だろう?という気持ちがフツフツ……。まずは、食材を残さず全ておいしくいただくことを大切にしたいものだ。
オリジナルレシピも
そんな気持ちを今日から生活に活かせるよう、フードロスを出さない=「フードロサナイ」レシピとたんぱく質をシフト=「タンパクシフト」のレシピも展示してある。
「フードロサナイ」カブまるごとパスタのレシピは、料理家・管理栄養士の長谷川あかりさんが。「タンパクシフト」のとうふ焼き肉丼と彩りレンジナムルのレシピは、料理研究家のコウケンテツさん手がけたレシピだ。
帰宅後、筆者は「フードロサナイ」カブまるごとパスタを試してみた。茎も皮も全て使い切ることで、出るごみが少ないだけでなく、買う食材も少なくてすみ、さらにはカブは旬だからリーズナブル。もちろんおいしくて、地球環境にもお財布にも体にもやさしいレシピだった。キャンプでも簡単に作れそうなので、展示でチェックしてほしい。
『日本科学未来館』広報・石田さんによると、このイベントは国内外・世代を問わず、多くの人が楽しんでいるという。
「このイベントでは、感想を来場者の皆さんから寄せていただいています。展示を見る中で生まれたアイデアやきもちを読むことで、日々の生活へのヒントにしていただけることもあるかもしれません」(石田さん)。
【レポート】トークセッション「鍋からはじめる地球飯!」
寒さも本格的になってきた11月23日。冬になると一層おいしい“鍋料理”から、“地球にも人にもやさしい食”を考えるトークセッション「鍋からはじめる地球飯!」が開催された。
ゲストは「プラネタリー・ヘルス(地球にやさしい)」の考えを取り入れた健康的な食事を研究する女子栄養大学・林 芙美准教授。そして、世界30カ国をめぐり、多彩な食と出会ってきた料理家・コウケンテツさんだ。
鍋=煮込むだけじゃない。世界の鍋と鍋料理
日本で親しまれている鍋料理といえば、土鍋でグツグツ湯気をたてる水炊きやキムチ鍋、豆乳鍋、ミルフィーユ鍋。また、鋳物の鍋でさっといただくスキヤキなど。鍋料理は冬の定番料理の一つであり、時代に合わせてバリエーションも豊富になっている。
コウケンテツさんによると、世界中で、いろんな鍋を使って鍋料理がたのしまれているそう。また、中には同じ言葉で10カ国以上もの国で親しまれている鍋料理もあるのだとか。
各国で買い集めた愛用の鍋を前に、さまざまな国の鍋料理とその文化を語ってくれたコウさん。
たとえば、コウさんのルーツにある韓国では、鍋料理は食卓のメインだという。だから「スッカラ」と呼ばれるスプーンは食卓の必須アイテム。スープも余すことなく全ていただき、栄養も丸ごと摂る食生活が韓国の人たちには根付いているそうだ。
また、コウさんがいちばん気に入っているという鍋が、ポルトガルの銅鍋「カタプラーナ」。中華鍋を二つ合わせたような円盤型で、両サイドにある留め金でパチンと閉められる。
小さなものから直径30cm以上もある大きなものまで、サイズはいろいろ。
ポルトガルの、特に漁港のある町では、一家にひとつ「カタプラーナ」があるといわれ、親から子へと代々受け継がれる調理道具なのだとか。また、漁師町でもある現地では、新鮮な魚介の旨みを味わうためにも欠かせない。
「人が集まるときにこれで一品つくることが多いのですが、短時間で本格的な料理ができて、食卓に出すと歓声が起こります」(コウさん)。
料理ができたら、あつあつの鍋ごと食卓へ。フタ部分は、食べ終わったエビの殻や貝殻などを入れるガラ入れにもなると続ける。
「お肉を炒めて、これでバターチキンカレーをつくることもありますよ」とも。食材を入れて、塩やオリーブオイル、スパイスなどをちょっと加えるだけと調理も簡単だから、キャンプ料理にもおすすめ!と太鼓判。
キャンプ料理にもコウさんがおすすめする鍋は、もう一つ。とんがり帽子のような円錐型の蓋の土鍋「タジン」だ。
近頃ではシリコン素材のものもあるというが、コウさんが愛用するのは、昔ながらの土鍋タイプ。降水量の少ない土地で使われる「タジン」は、特徴的な蓋を生かし、食材本来の水分で蒸しあげる。旬の食材を豊富に使い、スパイスを効かせたレシピが特徴だ。
「タジン料理はスパイスを巧みに使います。世界を見渡すと“鍋料理”には、日本のようにお出汁をきかせるものとスパイスを使うものがあります。また、煮るだけでなく、蒸す、焼くも“鍋料理”なんですね」(コウさん)
世界中の鍋と鍋料理を知る中で、その歴史の深さや、共通性・多様性を知ることができたコウさんのトーク。日本で近年、ミルフィーユ鍋が親しまれているように。世界各国でも新しいアイデアが文化の出会いで生まれているのだとか。
「古くて、新しい。そして、スーパーでよく見かける1/4カットの白菜なら丸ごと食べられてしまう鍋料理は、環境にもお財布にも体にもやさしい。『地球飯』にふさわしい究極の料理だと思います」(コウさん)
後半戦は、女子栄養大学・林 芙美准教授が、栄養面から鍋料理を紐解いてゆく。
「いちばん健康」といわれた1970年代と比べると、肉や乳製品を食べる量がぐんと増え、魚や大豆製品を食べる量は減った現代。おのずと摂取する脂質が増えているのだとか。「食べ方が変わっているので、改めて鍋料理を見直してほしい」と林准教授。
林准教授いわく、鍋料理はメリット豊富。
- 調理が簡単
- 野菜がたくさん摂れる
- 主食、主菜、副菜と、栄養バランスが整いやすい
- 血糖値の上昇を防ぐ
- 体を温める
中でも、近年の野菜摂取量不足の課題も、鍋料理ならたくさん野菜を食べられるからおすすめ、とも。
「大人は1日に350g摂るとよいとされます。鍋料理を食べた人のほうが食べない人より3割くらい多く食物繊維を摂ったというデータもありますよ」(林准教授)
「野菜で鍋に入れるなら、ちょっと値は張りますがカリフラワーを試していただきたい! ネパールのおかずで、カリフラワーと少しのジャガイモ、スパイスを煮込んだものがあって、それがとてもおいしかったんです。カレー鍋にカリフラワーを丸ごと入れるのはおすすめですね。あとは春菊も。煮るほど苦味が出るので、しゃぶしゃぶで楽しんでくださいね」(コウさん)
ただ一方で、鍋料理にはデメリットもある。
- 食塩摂取過剰になりやすい
- 食べ過ぎることも
「市販の鍋つゆは、おいしくてバリエーションも楽しめますが、食塩が多く含まれています。鍋自体は水炊きにして、つけだれで楽しむのがおすすめです。また、おいしくて〆までしっかり食べてしまいがちなのも鍋料理。食べ過ぎて体重の増加につながらないように、注意も必要です」(林准教授)
「塩分は、味見のタイミングが大事です。毎日料理をする僕も、塩を加えた後だとわからなくなることがあります。だから、味をつける前に一度、味見しましょう。野菜、肉、豆腐、それぞれの風味や旨みを味覚と嗅覚でまず味わうことで、素材本来のおいしさを生かした味付けになります。最初はわからないかもしれないけど、繰り返すことでだんだんわかってきますよ」(コウさん)
さらに、鍋料理によっても環境への影響が違うというデータも紹介。
私たちに身近な鍋料理の中でも、いちばん環境への影響が大きいのは牛肉を楽しむ「すき焼き」。一方で、環境への影響が小さいのは「鶏肉の水炊き」なのだとか。
「同じお肉でも、牛肉は影響が大きいです。おいしく食べつつ、環境にも体にもやさしいたんぱく質を考えることも大事ですね。ちなみに〆は、ごはんがいちばん環境への影響が小さいです」(林准教授)
ごはんは毎日食べ続けるものだからこそ、何か無理したり、我慢したりしてばかりでは続かない。おいしく楽しみながら、持続可能な、健康な食事をするには? そんなヒントとともに、トークセッションは終了した。
クリスマスに忘年会、年末年始と、集いの機会も増えるシーズン。親しい人たちと鍋料理を囲む機会もあるだろう。このイベントを通して、今すぐ取り入れられる“地球環境にも体にもやさしい食=「地球飯」”を考えてみない?
日本科学未来館
住所:東京都江東区青海2-3-6
TEL:03-3570-9151(開館日の10:00~17:00)
交通:新交通ゆりかもめ 「東京国際クルーズターミナル駅」下車、徒歩約5分/「テレコムセンター駅」下車、徒歩約4分/東京臨海高速鉄道りんかい線 「東京テレポート駅」下車、徒歩約15分ほか。路線バスもあり。