野生の豆を美味しく食べたい!編集・ハラボーの野望から始まった…
近年の考古学で目覚ましい成果を出しているのが、土器表面の穴や割れ口にシリコン樹脂を流し入れる「レプリカ法」という技術だ。粘土をこねる際に混入した植物の種や虫の死骸を立体的に写し取れるため、当時の暮らしや環境をより詳しく知ることができるようになった。
明らかになったことのひとつが縄文期の植物利用だ。日本列島に分布する野生種のダイズやアズキの仲間を、縄文人が食べていたことがはっきりした。粒の圧痕(あっこん)を比較すると、年代が若いほど大粒になる傾向も明らかに。栽培を行ない、品種改良のようなこともしていたらしい。
「栽培したっていうことは、やっぱり美味しかったのかな?」
そんな編集ハラボーの軽いひと言から、今回の野生豆おせちづくりは始まったのだが……。
「どれが豆の蔓? えっ、こんなに細いの。で、豆はどこにあるの? うわっ、ちっちゃ! おなかが膨れそうにない~」
だから縄文人だって大きく育てたかったのだよ。
❶はアズキの野生種ヤブツルアズキ。
❷はダイズの野生種ツルマメ。
❸は縄文期の利用は不明なもののアイヌがよく食べたヤブマメの地中果。
この3種を使い、ミニミニおせちをつくってみた。
Japanese Wild Beans 1 ヤブツルアズキのぜんざい
皮が非常に堅い。軟らかくなるまで煮るには時間がかかるが、砂糖で甘みをつけるとたしかに小豆餡の風味になる。
ヤブツルアズキの莢は長く、1本に10粒前後の豆が入っている。
Japanese Wild Beans 2 ツルマメの黒豆
ダイズを醤油と砂糖で煮た黒豆はおせちの定番。黒い品種が使われるので、色の黒いツルマメを活用。
ツルマメの莢内の平均粒数は3粒。
Japanese Wild Beans 3 ヤブマメのえび豆
えび豆とはダイズを淡水の小エビと煮た料理。ヤブマメの地中果を代用し、小エビの佃煮と合わせてみた。
ヤブマメも1莢の平均粒数は3粒。地中果には莢がなく側枝(そくし)の先に単独で実る。
ツルマメとは?
ダイズ属。つる性で葉は栽培ダイズそっくりだ(今回は枯れていたため撮影できず)。莢に毛が生えている点もダイズと同じ。河川敷など湿気のある草地、林縁を好む。左上写真は現在の黒ダイズとの比較。
ヤブツルアズキとは?
ササゲ属。ダイズもそうだが、現在の栽培アズキがつる性を失っているのに対し野生種はつる性を保持。今の栽培種より粒は小さいが、1莢あたりの入り数はほぼ同じで採取効率はまずまず。日当たりの良い林縁を好む。
ヤブマメとは?
ヤブマメ属。莢はツルマメに似るが毛はない。豆は扁平。莢は地上の花が結実してつくが、側枝が地中へ伸びた先には閉鎖花ができる。ここについた地中果は地上の豆より大きく味も良い。アイヌが好んで食べた。
土の中に実る豆、ヤブマメを探せ!
採取時の最大の注意点はひっつき虫。野生豆のある場所にはやっかいな種をつける植物も多い。「フリース厳禁です!」
草刈りから取り残された明るい場所を狙う。密度濃くつるや葉が茂っているほど地下にある豆の数も期待できる。
地表から3〜5㎝の深さにあるので、シャベルや草削り器で土を掻き取るように探す。粒が大きくわかりやすい。
やりました! 開始30秒でゲット
なんと、土をひと掻きしただけで最初の1粒を発見! 粒が大きいので、良い場所を見つけられればそこそこの量になる。
調理方法はアク抜き不要!ふつうの豆感覚で食べられる
ヤブマメの地中果は水分を含んだまま土の中にあるので軟らかい。アイヌはアハと呼び、煮物にしたり飯に炊き込んだりして食べたとのこと。今回は素揚げにしてみた。「ホクホクしててイケます。売っている豆の感覚で食べられますね」
Complete!
【今月の里山トライ】
一度はやってみたい重労働グルメ~ジネンジョ掘り~
ジネンジョ(ヤマノイモ)も、日本列島に自生する食べられる植物。地下にできる芋は美味で知られるが、奥深くまで延びるわりに脆くて折れやすい。ベストな形で掘り上げるには、かなりの根気と体力が必要になる。
木の根や岩の影響で曲がりくねった芋も多いが、折らずに完品状態で掘り上げるのが愛好家の美学だ。
一度は挑戦してみたい食べ方がとろろ汁。すり鉢の中で、鰹だしをたくさん入れた味噌汁とともによくすり延ばす。
「今月の里山クイズ」!
ジネンジョの蔓と芋の接合部にあるひげ根の別名は?
A 正解は「かっぱの頭」。放射状にひげ根が広がる様子から呼ばれるようになった。ジネンジョによく似ていて、同じ場所に生えることも多いオニドコロにはかっぱの頭がない。
※構成/鹿熊 勤 撮影/藤田修平、鹿熊 勤(ジネンジョ)
(BE-PAL 2025年1月号より)