
人生全般に言えることですが、「旅」は特にそうした「素敵な予想外」が多いような気がします。
どうも。オーストラリア在住ライターの柳沢有紀夫です。
「ぶらり突然乗車の旅」笑【タスマニア・ローンセストン旅3】
前々回紹介した「カタラクト渓谷」と前回の「ダッグリーチ」の早朝トレッキングを大満喫したあと、ホテルをチェックアウト。飛行機の出発までまだ数時間あったので観光案内所に行き「他にいいトレッキングやウォーキングのコースはないですか」と聞いてみました。
「車がないのならここが一択よ~」と妙に愛想がいい係員の女性に勧められたのがタスマニア大学ローンセストン校やクイーンビクトリア博物館などが集まる文教地区沿いからノースエスク川を北上するルート。スタート地点は市の中心部から徒歩15分です。
ちなみに道中のその名もシティーパークという市民の憩いの場のような公園があって…。

「ニホンザル園」でちょこっと癒されました。
そして到着したのが川沿いのハイキングコースです。

遊歩道もしっかり作られていて確かに心地よさそう。期待が高まります。

ところがふと目に入ったのが文教地区のレンガ敷きの歩道に残された線路と車止め。
「ああ、クイーンビクトリア博物館もある文教地区だけに歴史的建造物ともいえるトラム(路面電車)の線路も移築したのだな。歩くのにそんなに邪魔にもならないしこれはいいアイディアだ」と感心しました。
地図で確認するとこの線路が敷かれた道をまっすぐ行くと、先ほどの「川沿いの遊歩道」と合流できる模様。というかこちらのほうが一直線で「近道」なので、行きはこのルートを進んでみようと思ったのです。
自然たっぷりの川沿いもいいですが、歴史に触れながらのウォーキングもアウトドアの楽しみ。…と勝手な理由をつけてですが。まあ、行き帰り同じは芸がないですしね。

すぐに「駅舎」も発見。こういう小さな駅舎の風情が好きです。

まっすぐに伸びた線路。
なんか頭の中で「スタンドバイミー」のメロディーが流れ始めました。はい、家出少年たちが線路上を歩くシーンが有名な映画ですね。
そういえばよくよく考えてみたら線路の上って歩けないですよね。営業中の場合、明らかに迷惑行為ですし、そもそも日本では鉄道営業法第37条で「停車場その他鉄道敷地内に妄りに立ち入る者は科料に処す」、つまり「線路に入ったら罰金」です。
こうやって線路の上を歩くのは貴重な経験です。
4分ほど歩いた左側に引き込み線を発見。で、そちらのほうに目を向けると…。

おおっ、トラムの車両が置かれているではないですか!
「ちょっと近寄ってみましょうか」と頭の中で「ぶらり途中下車の旅」の小日向文世さんが甘いささやき。笑
その奥にガレージか倉庫のような建物があります。

「おやっ、右の建物はシャッターが開いていますね。行ってみましょう」
するとこの建物、「ローンセストントラムウェイミュージアム」という博物館だったのです。
でもそのときの私は「川沿いウォーク」の途中…というか「寄り道」中。入場するかどうか迷っていると、受付から係員が出てきて話しかけられました。
「見学だけですか? それともトラムに乗車しますか?」
「えっ、トラムに乗れるんですか?」
トラムは好きな乗り物の一つです。都市旅の楽しみの一つと言ってもいいくらいです。
しかも「現在営業中」の路線ではなく、博物館に展示されているものに乗れるというのは貴重な体験です!
ただし一つ問題が。受付に貼られていた時刻表を確認すると、次のトラムの出発はおよそ30分後。先ほど書いたように寄り道中ですし、なにより飛行機に乗るまでの時間は限られています。乗りたい。だけど…。
「う~ん30分以上待つんですよね」。自分の躊躇を素直に伝えました。すると「いや、今からすぐ出発できますよ~」という意外な答えが!
「えっ? でもお客さんがいないですよね」「いや、あなた一人でもだいじょうぶです」。料金はなんと6豪ドル(約580円)。そんな値段でわざわざ私一人のために動かしてもらうのも申し訳ないと思ったのですが、こんなチャンスは滅多にありません。乗車することにしました。
「ぶらり途中下車の旅」気分で脇道にそれたら、「いきなりトラム乗車の旅」に。笑

博物館にあった看板。45分おきに出発と書かれていますが…。
今見直してみると「トラムを運転することに興味ありますか? お話ししましょう。修繕したトラムを運転できるかもしれませんよ」という文章もあるではありませんか! マジか…。

今時珍しい「偽造し放題」感満載のトラムのチケット。笑
そして屋外に置かれていた2両編成のトラムに乗り込みます。

レトロ感満載の運転席。

でも感動するくらいシートもピカピカに磨き上げられています。

さらに往時をしのばせる「革」だけのつり革も。
おしゃべり好きの運転士さんによると保全も運行もボランティアの手によって行われているそうです。頭が下がります。約580円で乗ってすみませんという気分。
先ほども書いたように2両編成のトラムに独占乗車です。トラムの乗車定員が40名くらいとしても、合計80名乗れるところを独り占め。初老の運転士さんともう一人壮年の男性が乗っているので、乗客よりも乗員のほうが多い状態です。

これを独占! しかも一人で2両!
なんだか豪華クルーザーを独り占めしているようで、富豪気分を味わえばいいのに恐縮至極。このあたりが貧乏性なんでしょうな。本当に約580円で乗ってすみません。

のどかな風景の中、別にトロトロではなく普通のスピードで進みます。
タスマニア大学の校舎や図書館、そしてスタジアムや芝生を眺めながら直線を約500メートル進むと行き止まり。そこで運転士さんが後部車両の運転席に移動して、今度は逆方向に進みます。
ところが200メートルほどもどったあたり、線路の途中でトラムはいきなり停車。運転士ではないほうの男性が車両から降りていくではありませんか。
「故障か? やはり古いトラムだからなあ」と勝手に思い込んでいたところ…。

なんと手動でポイントの切り替え。ということは?

線路が二手に分かれます。

そしてトラムは左側の線路の上を走りだします。

先ほどのレンガ敷きの路面とは異なり、こちらは線路脇に砂利が敷き詰められています。

風景は途中から倉庫街の雰囲気に。さきほどとは全く違った風景が楽しめるのです。
そんなこんなでおそらく15分ほどのトラムの旅はものすごく充実していました。
そして私が日本人だと知ると、運転士さんが下車後もあれこれ大サービス!

さっきまで運転していたトラムの床を持ち上げて「これを見てよ!」

台車部分に「豊栄工業株式会社」とか「富士電機製作所」の文字。

運転席のハンドルには「三菱」のマークと「前後」などの文字。

博物館内に入って見せてくれた日本語の説明。日本とは様々なゆかりがあるとのこと。

博物館の中にもトラムなどが展示されています。
さて博物館を見学後、あまりに楽しかったので最初の直線の線路を今度は歩いてみることにしました。

建物の間も通ります。

次の幸福な乗客は親子二人連れでした。

トラムの向きを変える転車台のだと思うのですが、現在は使われていない様子。
で、ここであることに気づきました。「あっ、川沿いウォークするつもりだったんだ」と。
というわけで当初の目的である川沿いに出たのですが…。

あまり変化のない風景が続くだけでした。
気分が乗っていれば「3年B組金八先生」の主題歌「贈る言葉」が頭の中でエンドレスで流れる場面。ところが天気が良くて太陽がさんさんと照りつける一方で、冷たい強風がびゅーびゅーと吹きつけます。太陽にも風にも容赦なく責められる「ひとり北風と太陽状態」。涙
10分ほど歩いてからすごすごと引き返してきました。
「川沿いウォーク」だったはずが「ぶらり途中下車の旅」風になったかと思ったら、「いきなりトラム乗車の旅」に。まあ、予想外のハプニングがあるのが旅というものです。
そして大満足で終えたのにあとから写真を見直して「トラムを運転することに興味ありますか? お話ししましょう。修繕したトラム29を運転できるかもしれませんよ」をという文字を発見。「ああ、あれもやってみたかったな」してあとから歯噛みするのも旅。
まあ、次に来る楽しみができたということで良しとしましょう。笑
※今下記のサイトを確認したら料金も変わっていますし、「トラム乗車は集団で予約したときのみ可能」と書かれていました。私が訪問したのは土曜日でたまたま幸運だったのかも。というわけで訪れる前にご確認ください。
【柳沢有紀夫の世界は愉快!】シリーズはこちら!
Launceston Tramway Museum
https://launcestontramwaymuseum.org.au/
ジェットスター
日本からブリスベンでの乗り継ぎ1回でローンセストンへ。しかも燃油サーチャージは不要!
https://www.jetstar.com/jp/ja/Fly-Australia
