アメリカ・ユタ州のソルトレイクシティ国際空港から州間高速道路80号線(以下80号線)を西へおよそ1時間15分。100キロ以上のスピードでドライブしていると、どこまでも続く真っ白な塩の平原の中で、ひと際目を引くものがあります。
広大な砂漠地帯に突如現れる不思議な木。でも、近づいてみると「あれ、これ木じゃないぞ…」と二度見間違いなしの正体不明のアート。名前を「比喩:ユタの木(Metaphor:The Tree of Utah)」といいます。さて、この謎めいた木、いったい何者なのでしょうか?
以前ご紹介した「ボンネビル・ソルトフラッツ」の絶景が楽しめるレストエリアへ行く途中にこの場所はあります。
砂漠の静けさに浮かび上がるアートとその謎に触れる旅
「退屈」を楽しむ80号線をドライブする魅力
今回の目的地「比喩:ユタの木(以下ユタの木)」までの道のりは、何もない砂漠地帯。そんなの眠くなるだけで退屈?いえいえ、80号線のドライブはむしろこの「何もない」を楽しんでほしいのです。道両側の景色はすべて、広大なボンネビル・ソルトフラッツの一部。どこまでも続く真っ白な塩の大地が、青空と溶け合う不思議な世界です。ときおり視界に飛び込んでくる風変りな建物や巨大な塩の山が、荒涼の大地に刺激を与えてくれます。
それでもやっぱり退屈だという方は… 音楽を流しながら窓を少し開けて、ユタ州の大地の乾いた風を感じて下さい(笑)。
筆者の記事ではおなじみの余談ですが…(笑)ユタ州には「エリア52」と噂のある基地があります。アメリカ政府の仕事をしていたとき、チームの人たち7人でミニバンに乗ってその基地へ行くという貴重な経験をしました。UFOに遭遇できるかも?と80号線を走る車の後部座席でひとりドキドキする私。
そんな私の横に坐る同僚。日本のアニメ好きな小柄な男性で、なんと電子ゲーム機をいきなりカバンから取り出したではありませんか!その後、2時間以上彼のゲームの相手をさせられた苦い経験が…。仕事だということを忘れ、お互いに「UFO」と「電子ゲーム」という、「退屈を楽しむ」視点が全く違う男女なのでした(笑)。
80号線の制限速度はおよそ120キロ。いつもなら車窓から眺めてはスーッと視界から消えていく巨大な「ユタの木」を、今回は初めて車を停めて歩いてきました。
このとき後ろに別の車が走ってなくて良かったです。もしBE-PAL読者のみなさんがレンタカーで行く機会があるときは、かなりのスピードが出ているので減速は十分気を付けてくださいね。状況に応じては、止まらずに車窓から眺めるだけでもインパクト大なので!安全第一です。
1980年代にヨーロッパの芸術家が砂漠の大地で得たひらめき
さてこの「ユタの木」。いったい誰が何のために、なぜこの場所につくったのか?と素朴な疑問が湧いてきます。調べてみると、1982年から1986年にかけてスウェーデン出身の彫刻家カール・モメン氏が、壮大な自然や哲学的テーマからひらめきをえて制作したと言われています。見る人に深い印象を与える力強い姿を意識したとか。
なるほど!「見る人に深い印象を与える」という意味では納得です。それが何か分からない通りすがりの旅行者でも「そう、あれあれ。私も見たよ!」と説明はできなくても記憶にずっと残るアートとしては間違いないかも。
全ての制作費用をモメン氏自らがもち、彫刻の完成後「ユタの木」をユタ州に寄贈。そしてこの巨大な彫刻がいったい何を意味するのか細かいことは語らず、スウェーデンに戻られたそうです。
大地に無造作に置かれたコンクリートの落ち葉
車から降りてまず目に入るのが、ユタの木を囲っている金網フェンスの外側にあるものたち。これも芸術作品の一部なのでしょうか?
金網フェンスにかけられた「愛の南京錠」?
まるで宇宙からのメッセージ
完全に人工物でありながら、自然の中に溶け込むような不思議な存在感を放つ「ユタの木」。周囲に広がるソルト・フラッツとは別世界の雰囲気が、白い塩と青い空が広がる風景にアクセントを与えています。
ユタ州では「生命の木」としても知られるこの彫刻。一見無意味に見える場所に木を立てることで、自然と人間のつながりや矛盾を問いかけているとも。
高さおよそ27メートルの「ユタの木」に近づくとその大きさに圧倒され、思わず口をぽかんと開けて首が痛くなるほど見上げてしまいます。「まるで宇宙からやってきた存在のよう」とはローカルニュースで表現された言葉。
とここまで書いておきながら、今さらドキッとすることが分かりました…。
実はこのフェンス、普段は鍵がかかっていて中には入れないそうです。球体のセラミックタイルが落ちて見物者がケガをしないように。そして80号線を高速で走る車が、「ユタの木」を近くで見ようと急に減速をしないように。など理由は様々。ということは、私たち夫婦はやってはいけないことをしてしまったのか…?
ユタ州観光局のサイトにはっきりした説明はなく、駐車禁止や進入禁止の看板があるわけではないので、あくまでも見るなら自己責任でという方針のようです。
ちなみに2011年に芸術家のモメン氏は、ここにビジターセンターを建てたいと発言していたそうです。もしかしたら将来、より安心安全な環境で「ユタの木」を楽しめる環境がつくられるかもしれません。
2001年渡米、ユタ州ウチナー民間大使。パンデミックをきっかけに「いつ死んでもOK!な生き方」を意識するようになり、17年間務めたアメリカ政府の仕事を2023年に辞職。現在はNHKラジオ出演や日本のWebメディア執筆など幅広く活動中。編著に電子書籍『型の中に答えはある』がある。夫婦でRVキャンプを楽しむのが最高の癒し時間。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員