それは『ヴァレー・ブラックノーズシープ(ヴァリス州の黒鼻ヒツジ)』というヒツジ。その名の通り、ヴァリス(ヴァレー)州の山岳地帯原産のヒツジで、現地ドイツ語では『ヴァリザー・シュヴァルツナーゼンシャーフ(Walliser Schwarznasenschaf)』と舌をうっかり噛んでしまいそうな、長い名前で呼ばれています。
このヒツジの歴史に関する記録は少なく、黒色のヒツジと褐色のヒツジの交配で生まれた、とか15世紀頃にはすでにこの種のヒツジが存在していた、など諸説ありますが、実際に“ブラックノーズ(黒鼻)ヒツジ”の言葉が文獻に初めて登場したのは19世紀なのだそう。
では謎多きヴァレー・ブラックノーズシープに関するクイズ4問!
【第1問】ヴァレー・ブラックノーズシープは、いつからスイス国外でも飼われるようになった?
a)1984年以前
b)1994年
c)2004年
d)2014年
答えは「d)2014年」です。長らくスイス国内でのみ育てられていたヴァレー・ブラックノーズシープは、2014年に初めて国外へ渡りました。現在は英国、アイルランド、ドイツなど欧州、さらには遠く日本や米国、オーストラリアなどでもこのヒツジが暮らしています。
数年前アイルランド在住のある牧場経営者が、自ら飼育するヴァレー・ブラックノーズシープたちの動画と画像をSNSにアップしたところ、たちまち人気に。世界に広く知られるようになりました。
【第2問】その昔ヴァリス州の山岳地帯に住んでいた人たちが、このヒツジを飼っていた理由は?
a)ミルクを搾るため
b)食肉にするため
c)羊毛を刈るため
d)a)~c)のすべて
正解は「d)a)~c)のすべて」でした。この地域は不毛で作物が育ちにくかったこともあり、ここで暮らす人たちにとっては、食料になり、羊毛や乳も提供してくれるヴァレー・ブラックノーズシープは“命の綱”で、大切な存在だったのです。
しかし現在は、主に愛玩動物として、もしくは牧草地など緑地景観保護・維持管理のため飼育されています。というのもヴァレー・ブラックノーズシープは、人や機械が入っていけないような急傾斜や狭い場所の草も食べてくれ、しかも自分の持ち場から離れない習性を持っているからです。
そんなわけでスイスでは、山岳地帯のみならず、住宅地が多いエリアの牧場でもこのヒツジたちを見かけることが増えてきました。
【第3問】ヴァレー・ブラックノーズシープの毛刈りは1年に何回?
a)0回
b)0.5回(2年に1回)
c)1回
d)2回
答えは「d)2回」。一般的にヒツジの毛刈りは1年に1度、4~5月頃に行われることが多いですが、冬の寒さ厳しいスイスの山岳地帯出身のヴァレー・ブラックノーズシープにとって、20℃以上の気温は暑すぎること、そして身軽な姿で春にアルプスへの放牧に行けるよう、毎年2月~3月と9月頃の2回毛刈りが行われるのだとか。
【第4問】ヴァリス(ヴァレー)州のツェルマット周辺にたびたび出没する“ヴォリー”とは?
a)ゴースト
b)マスコット
c)酔っ払い
d)ネコ
この問題の答えは簡単、「b)マスコット」でした。ヴァレー・ブラックノーズシープの”ご当地ゆるキャラ”で、ヴォリーはとりわけ子どもたちに大人気!
夏休みやクリスマスなど、多くの子どもたちがツェルマットやマッターホルンへ来る季節になると、ヴォリーが様々な場所に突如出没しては、みんなと遊んでくれるそうですよ。
こうして世界に知られることとなったヴァレー・ブラックノーズシープですが、その存在が危ぶまれていた時代もありました。より肉や羊毛の品質が良く生産性の高い、いわゆる“コスパが良い”他品種のヒツジたちに駆逐され、絶滅の危機に瀕していたのです。
そんなピンチを乗り越え、今日こうして世界中にファンを持つまでになれたのは、長年ヒツジたちと共に苦楽を共にしてきた、地元ヴァリス(ヴァレー)州の酪農家たちによる不断の努力の結果にほかならないのです。
1998年~2009年までアイルランドで暮らした後、2009年からスイス在住。スイス始め欧州の国々のさまざまな興味深い情報を雑誌やウェブサイト、ラジオ等のメディアにて発信中。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員