アマゾン川の旅で一番うれしい瞬間は?
アマゾン川で一緒に旅をしてくれているTさんが一番テンションをあげて喜ぶとき。それは、川沿いの村に鉄塔が見えたとき。その正体は電波塔で、スマホが使える証だから。鉄塔を見つけた途端、旅の疲れも吹き飛び、嘘みたいに元気になって、「ねえ、あの村へ行こうよ!」とTさんは声を弾ませます。
そうして寄り道することになったのがサンフランシスコ村。上陸して自分のスマホを確認すると、たしかに電波が入る。しかしTさんの方は、どうにも電波が拾えず浮かない顔。私が現地で使っていたSIMカードのキャリアは「BITEL」、そしてTさんは「MOVISTAR」。どちらもペルーの主要キャリアですが、アマゾン川流域の地域では、どちらか一方の電波しか入らない村が少なくありません。
ところで、スマホがサクサク使える村かどうかは、村の人を観察してもわかります。広場へ行って、そこに集まっている若い人たちを観察するのです。みんなで首を丸めてスマホをいじっている村と、木陰でボーっとしている村。後者は電波に難ありの傾向です。
「やっぱり電波が入るところで過ごしたいね。家族や仕事関係の確認もしたいし」とTさん。アマゾン川を旅しながらも、普段の世界との繋がりを切れないでいる私たちは、より良い電波を探して隣の村へ行くことにしました。
ペケペケ号、あわや沈没の危機
赤い夕陽を見送ると、急に、私の胸の中に不安が芽を出しました。それはこの旅が始まって以来の心の淀みで、自分でどう向き合っていいのかわからないような不安。もしかしたら、Tさんにとってこの旅は楽しくないんじゃないか、という不安。
以前上陸を試みた村(vol.16を参照)では、泥に阻まれて上陸できなかったこともあったTさん。そんな彼が一番欲しいのは、携帯の電波。アマゾン川下りの旅は私から誘って付き合ってもらっているのに、私はアウトドアの旅の楽しさを十分に共有できていない気がするのです。私は勝手に落ち込んで、夕食後に一人で村を散歩すると、涙がポロリ。
ペケペケ号に戻って、舟の上で横になりウトウトしかけた深夜のこと。寝床が大きく揺れました。ああ、近くを大きな舟が通ったんだなと、とくに気にしませんでした。でも、波が引いて、押して、また引いて、さらに押して、やっと異変に気が付いたのです。この波、いつもと違う!
私たちがペケペケ号をとめた場所は、ほかの舟が並んで係留してある端っこ。その端っこというのは、砂浜がぽっこり壁みたいに盛り上がったところの近く。フェリーが通過したときに発生した波が跳ね返り、横波になってペケペケ号を襲ったのです。
グワン!と大きく揺れて飛び起きたら、一瞬でペケペケ号のなかは水で満杯。まるで冷たいお風呂。荷物を入れて防水のために蓋を閉じておいたバケツがプカプカ浮かんで、下流に流されていくのが見えました。
マズい、マズい、バケツの中にはパスポート。バケツって全部で何個あったっけ?数える余裕はないけれど、遠くへ流される前に泳いでキャッチして岸へ投げて、食料を除く貴重品類は確保。水で満たされたペケペケ号は、波に翻弄されて沈没寸前。なんとか耐えられたのは、ボロくても木舟だから、木材そのものの浮力が助けてくれたおかげかもしれません。
空のバケツでペケペケ号の水を外にかきだす間、Tさんは村の人に助けを求めに行ってくれることに。
「よし、でも村へ行く前に、まずは靴を探さなきゃ!」
エッ!?もう全身川に浸かってしまったも同然なのに、靴を履くの?ごめん、靴はさっき川に流されちゃったかも…。
近くの家のハンモックにお泊り
なんとか沈没の危機を免れたペケペケ号ですが、スーツケースに入っていたTさんの衣類はすべてびしょ濡れ。水を吸って重くなったスーツケースをペケペケ号から運び出すときにバランスを崩し、Tさんは川にドッポンと落ちちゃった。
「服が泥だらけになってしまったから、家で洗濯していきなさい」という村の方のご厚意に甘えて、ご自宅に泊めさせてもらいました。
泥だらけの衣類は、Tさんの服だけでスーツケース二つ分。これをすべて洗うのは、一苦労。だって洗濯機がないんだもん。水道もないので、お水は貯めておいた水を使います。
屋台料理フアネスの作り方
洗濯する場所は、台所としての役目もあります。この日作っていたのは「フアネス」。
フアネスとは、ペルーのちまきみたいな食べ物で、定番の屋台飯。一家のお母さんは朝のうちにフアネスをたくさん作って、夜になると屋台で売っているそう。
ご飯が黄色いのはターメリックを混ぜて炊いているから。これを一旦、プラスチックのボウルに移したら、大きな葉っぱの上にのせます。ターメリックライスの真ん中に、寸胴で煮込んだ鶏肉をちょこんとのせたら、葉っぱをくるくる巻いて、ヒモで結びます。ちなみにヒモは意外にも植物性ではなくビニール製。
私も試しに巻いてみますが、ターメリックライスはパラパラしていて、しっかり包むのに大苦戦。巻き終わったら、寸胴鍋に戻して蒸すと、パラパラだったお米がギュッと固まって、フアネスの完成です。
台所仕事もお洗濯も、基本的に裸足で作業をします。こぼれたご飯粒を踏みつぶしてしまったかもしれない誰かの裸足がペタペタ歩く、地べた同然の台所で作られる屋台飯。カルチャーショックを感じるでしょうか?
アマゾン川流域の村で屋台のご飯が作られる環境は、どこも似たようなものかもしれません。それでも、食べてみると間違いなく美味しいのです。
とっても働き者のお母さん。今度は洗濯物を干す場所へ案内してくれました。普段は炊事場に引っ掛けて干すけれど、干しきれない洋服があるときには、地域で共有している物干し場所を使うのだとか。
ペケペケ号は沈没しかけたけれど、村の人の優しさに包まれて順風満帆!かと思いきや、このあと、また予想外の事件が起こってしまいました。
もー勘弁してっ!旅ってどうして、こううまくいかないことばかり続くのかな。ギャフン。