方向音痴も地図が読めないのも生まれつき!? 数百万人のナビゲーション能力を分析した結果が面白かった
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    2024.12.30

    方向音痴も地図が読めないのも生まれつき!? 数百万人のナビゲーション能力を分析した結果が面白かった

    方向音痴も地図が読めないのも生まれつき!? 数百万人のナビゲーション能力を分析した結果が面白かった
    先日ヨセミテを訪れたとき、生まれて初めて運転してお金をいただく、ということがありました。もちろん意図的にではありません。

    あるトレイルヘッドの駐車場でハイキング姿の老夫婦に声をかけられました。朝からトレイルを歩き始めたものの、途中で道に迷って、何が何だか分からなくなって、出発地点とは別の場所に降りてきてしまったと言うのです。時刻はもう午後3時頃になっていましたし、彼らが車を停めた場所は10kmほど離れていました。

    私の車に乗せてそこまで送り届けてあげると、ミネソタから来たという善良そうな2人は何度も礼を言ってくれ、私が固辞したにもかかわらず、夫の方が助手席のシートに20ドル札を押し込んでいったというわけです。

    私は方向音痴です。本格的な遭難は未経験ですが、しょっちゅう道に迷います。旅先でジョグをしていてホテルの場所が分からなくなってタクシーで帰ったこともあります。あの夫婦にいたく同情したのはそのせいもあります。

    一方で、世の中には方向感覚に長けた人たちがいます。知らない土地をでたらめに歩いていても、自分が向かっている方向が自然に分かるらしいです。彼らと私たちの違いはどこにあるのでしょうか。

    ナビゲーション能力を左右するのは遺伝か、環境か?

    木々に囲まれたトレイルでは(ある種の人は)方向感覚が失われる。

    地図を読んで行き先を探しあてる能力を「ナビゲーション能力」と呼びます。前述した通り、この能力は人によって大きく異なります。その違いが生じる理由を探る研究は以前から数多く行われてきましたが、実験が困難で、かつ結果を数値化しにくいことから、対象となったサンプル数はごく限られたものでした。しかし、世界中の幅広い年代を含む大規模データを分析した研究(*1)が2023年に発表され、この問題に新たな視点を投げかけています。

    *1. Explaining World-Wide Variation in Navigation Ability from Millions of People: Citizen Science Project Sea Hero Quest
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34878689/

    この研究はロンドン大学の認知神経学科に所属する研究者らが主導したものです。彼らは『Sea Hero Quest』という名の携帯ゲーム(仮想環境の中でボートを操縦してチェックポイントを通過する、というもの)の利用者データを分析しました。63か国にまたがる地域から、18歳から99歳まで、合計で約390万人のデータが得られたということです。

    分析データから以下の全体的傾向が浮き彫りになりました。

    • 20代前半をピークにナビゲーション能力は加齢とともに低下する。
    • 男性の方が女性よりナビゲーション能力は高い。

    つまり、若い男性がこの分野では優位だと見て取れるわけなのですが、論文はさらに興味深い分析結果を紹介しています。

    • 都会に生まれ育った人より自然が多い地方に生まれ育った人の方がナビゲーション能力は高い。
    • 道路が碁盤の目のように整然となった都会で生まれ育った人のナビゲーション能力はさらに低くなる。
    • 北欧に住む人たちはナビゲーション能力が高い。男女間の違いもほとんどない。

    ナビゲーション能力は遺伝の影響を少なからず受けるものの、それがすべてではなく、むしろ道を探し当てる経験の過多によって大きく左右される。そして北欧の人たちのナビゲーション能力が高いのはオリエンテーリング競技が盛んであるからだ。研究者らはそう推測しています。

    今こそ見直したいオリエンテーリング競技

    オリエンテーリング競技開始前に手渡された3点セット。

    オリエンテーリングをレクリエーションとしてならやったことがある人は少なくないでしょう。地図を読み取り、自分でルートを決め、山の中の道なき道を走って、タイムを競います。いわば頭脳的ゲームの楽しさとトレイルランの過酷さが融合したような競技です。

    私は一度だけ、地元近くで行われた大会に挑戦してみたことがあります。スタート前に渡されるものは、出場者ゼッケン、コンパス、そしてパンチと呼ばれる電子機器(通過地点を記録するためのもの)の3つ。スタート直後にコース地図を拾い上げるまで、自分がどちらの方向に向かって走るべきなのかさえも分かりません。

    筆者が参加したオリエンテーリング競技の地図。スタートするまでは見ることができない。

    私がエントリーしたのは初心者の部でしたので、地図上のコース距離は僅か2.5㎞。予想通りではありますが、散々迷ったり、道を引き返したりしましたので、実際にはその倍くらいは走ったのではないでしょうか。

    競技レベルが高くなればなるほど、コースはより長く、より複雑になりますし、競技者たちはより速く走ることを求められます。ただし、いくら速く走っても、方向を間違えていてはかえってマイナスになってしまいます。どれだけ体力と根性には自信があっても、認識力や判断力で劣る人には向いていないかもしれません(私のことではありません)。

    コントロール(通過ポイント)。レベルや距離によって設置数は異なる。

    おつりの暗算、漢字の書き取り、電話番号の記憶など、テクノロジーの進化とともに私たちが失いがちな能力はいくつかあります。カーナビやグーグルマップに頼り切っていると、ナビゲーション能力もきっと劣化していってしまうでしょう。スマホを忘れただけで迷子になってしまう。そんなことにはなりたくないものです。

    オリエンテーリング競技は日本でもアメリカでもメジャーであるとは言い難いスポーツですが、ナビゲーション能力を鍛えるにはうってつけのはず。日本各地で初心者用の大会も開催されているようですので、一度試してみてはいかがでしょうか。

    日本オリエンテーリング協会ウェブサイト
    http://www.orienteering.or.jp/ 

    私が書きました!
    米国在住ライター(海外書き人クラブ)
    角谷剛
    日本生まれ米国在住。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員。

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