シリーズ第1回では、モロカイ島をご紹介!同じハワイの中でもオアフ島、ハワイ島、マウイ島などと違い、未開発でオーバーツーリズムとはほぼ無縁だけに、手つかずの自然が今もそのまま残されています。
【アメリカ在住エディターのアウトドア世界紀行 VOL.1】トレイルの先の秘境ビーチを目指して
神に通じる「カフナの島」
オアフ島ホノルルからのフライトで約30分。玄関口のホオレフア空港から西へ向かうと、どこまでも広がる荒れ地の中に、長期滞在者向けのコンドミニアムやコテージが並ぶエリアが見えてきます。私たちが泊まったのもこの一画。敷地内に突如として現れる、野生の孔雀や七面鳥の群れにまず驚きます。
古代ハワイの神に通じる聖職者、「カフナ」を多く輩出してきたと伝わる島、モロカイには、ハワイ語で「マナ」と呼ばれるスピリチュアルなエネルギーが宿ると言われています。そんな不思議な力に守られているせいか、これまで動物園やゴルフコース、高級宿泊施設といったリゾート開発が進められたものの、ことごとく頓挫。観光化の波から逃れて、現在に至ります。
信号もなく、街らしい街は島に1か所のみ。レンタカーを借り、あれこれ計画を立てずに、のんびり島内を散策する日々を過ごす中、あるとき、夫が目を輝かせて言います。
「この先にトレイルでしか行けないビーチがあって、すごくいいらしいんだ!」
なんでも、同じコンドミニアムの常連宿泊者から聞いた話だそう。スマートフォンで確認してみると、トレイル入り口のビーチまでは宿から歩ける距離だったので、早速出かけてみることにしました。
サンセットの名所からハイキング開始!
そのトレイルは、地元で夕景の美しさが評判を呼ぶケプヒ・ビーチからスタート。ケプヒ・ビーチには、激しい音を立てて荒々しい波が押し寄せます。サーフボードやボディーボードを抱えた地元の人の姿も見られました。
北に向かうトレイルの先には、映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズ3作目のラストに登場する、ポハクマウリウリ・ビーチがあります。ブラックロックの岸壁にぽっかりと空いた2つの穴ときらめくビーチ。まさに絵画のような大パノラマが目の前に広がります。
トレイルにはランニングまたはウォーキング中らしき人もいたのですが、このビーチまで来ると周りには誰もいません。おかげで絶景を独り占めでき、あのロマンチックなシーンを回想しながら、映画の雰囲気に浸れます。ただ、波は高く、泳ぐには不向きです。
「まだまだ! この先にも行ってみるよ」
どうやら夫の目的のビーチはここではないようです。ブラックロックの海岸をさらに北へと進みます。もはや整備されたトレイルというより獣道。途中、棘のあるキアベの森をくぐり抜け、
「イタタタタ…ちょっと待って」
と、靴底を貫通した棘をいちいち取り除いては、夫の背中を追いかける時間がしばらく続きます。遠方を横切るのは、野生のアクシスジカの群れ。森をようやく出て海が見えたと思ったら、今度は岩をつたいながら足が海水に浸かることも。一体、どこまで行くのでしょうか?
これぞモロカイのベスト・ビーチ
やがて私たちは奇跡のような場所にたどり着きました。カワキウ・ビーチです。きれいな砂浜には木陰、岩陰もあり、波際では幸運のシンボル、ホヌ(ウミガメ)が出迎えてくれています。ハワイ固有種のアザラシ、ハワイアンモンクシールも気持ちよさそうに寝そべっていました。
炎天下のハイキングでへとへとになった体をいたわりながら、いつまででものんびりしていたい気持ちに。心が浄化され、穏やかなエネルギーで満たされていくようです。ここまでのハイキングは決してアウトドア初心者には易しくありませんでしたが、それだけに達成感もひとしお。
海を見下ろす位置には「ヘイアウ」がありました。前述のカフナが、神に祈りを捧げた聖域です。観光ガイドには載っていないパワースポットとの出合いに感謝を伝え、その場をあとにしました。
夏季は、この周辺でのスノーケルも盛ん。情報を教えてもらった常連客のカップルは、ハワイのほかの島々を楽しみ尽くしたうえで、「ハワイの旅はモロカイ一択」という結論に落ち着いたのだとか。
ハワイ先住民をルーツとする人が島民の多くを占め、ハワイ語で大地への愛を表す「アロハ・アイナ」が息づく島。そこにあるのは自然のみですが、多くの旅人が「何も持たない」心地よさに魅了されているようです。
アメリカ・シアトル在住。エディター歴20年以上。現地の日系タウン誌編集長職に10年以上。日米のメディアでライフスタイル、カルチャー、旅、海外移住、バイリンガル育児など、多数の記事を執筆・寄稿する傍ら、米企業ウェブサイトを中心に翻訳・コピーライティング業にも従事。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員。