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半世紀の歴史を誇る名車パサートがワゴンのみに
50年以上の長い歴史を誇ってきたフォルクスワーゲンのパサートが9代目にフルモデルチェンジしました。3400万台もの累計販売台数は、あのビートル(タイプ1)をも上回るものです。
歴代のパサートには国内外で試乗してきました。どれも極めて真面目に造られ、乗りやすく、使いやすいことが大きな美点でした。8代目でドイツのデュッセルドルフから途中で一泊して、スイスのジュネーブまで走ったことがありました。3人分の大型スーツケースその他を積み込んでもまだ余裕があって、途中で雪に降られたりしながらも長距離を走っても疲れ知らずのタフネスを備えていることが体感できました。
どこまでも実質的でタフなセダンであり、ステーションワゴンでもあったパサートですが、この9代目ではとうとうセダンは造られなくなり、ステーションワゴンのみの展開となってしまいました。
パサートのセダンは、ヨーロッパでは企業が一部の社員たちに買い与える“カンパニーカー”としての需要が大きいと以前から伝え聞いていました。企業文化に関する何か大きな変化があったのかもしれません。
マイルドハイブリッド、PHEV、ディーゼル4WDの3タイプ展開
日本で展開される9代目パサートは、パワートレイン別に3種類。ガソリンエンジン+モーターのマイルドハイブリッド(MHEV)による前輪駆動、ディーゼルエンジンによる4輪駆動、ガソリンエンジン+モーターのプラグインハイブリッド(PHEV)による前輪駆動です。プラグインハイブリッド版はコンセントから充電ができて、モーターだけで走行できるEVモードを備えています。
その距離が、新型パサートではなんと142kmという長さです。各社の各PHEVモデルが50kmを超えるぐらいからの進化が著しく、とうとうここまで長くなりました。
パサートと前後してマイナーチェンジを行った三菱アウトランダーPHEVも106km(Mグレード、他グレードは102km)と伸ばしてきています。
パサートのPHEVモデルには「eHybrid Elegance」と「eHybrid R-Line」の2グレードが設定されていますが、今回は「eHybrid Elegance」(税込655万9000円)を新東名高速と御殿場周辺で試乗しました。
ほぼEV走行!高速時のエンジン始動も気づかないほど静か
一般道をハイブリッドモードで走り始めても、なかなかエンジンを始動しようとせず、ほとんどモーターだけで走ります。静かで、滑らかです。
新東名高速に乗って110km/hを超える辺りで、ようやくエンジンが掛かりましたが、少しだけアクセルペダルを戻しただけでもエンジンは止まり、その瞬間にエネルギー回生が行われます。そこから再度ゆっくりとペダルを踏み込んでいっても、モーターだけで加速を続けますが、速度が上がっていくとそれに伴ってエンジンも始動して両方のパワーが使われます。切り替わりは素早く、ショックやノイズのようなものは全く感じることがありません。その洗練具合には舌を巻いてしまいました。
最初のうちは、「あっ、切り替わった。エンジンも回った、今度はモーターに戻った」とメーターを見ながらはしゃいでいましたが、しばらくすると気にならなくなりました。
モーターとエンジンそれぞれの働きは渾然一体化して瞬間ごとに切り変わっていくので、それがエンジンであろうとモーターであろうと関係なく、どちらでも良くなってくるのです。静かで滑らかで力強く加速をしていっているという現実がすべてで、メカニズムの作動具合は意識の中では完全に舞台裏に隠れてしまいました。
以前のエンジン車全盛の頃は、やはり良くも悪くもエンジンの存在感が強く、運転中はつねに意識せざるを得ませんでした。いまやモーターだけで走るEV(電気自動車)に限らず、エンジンも使うPHEVであっても、パワートレインは完全な縁の下の力持ち的な存在になっていることを実感させられました。ドライバーの負担を減らし、安全につながることなので歓迎すべき新傾向だと考えます。
SUVにはない低重心ステーションワゴンの快適さ
パサートはステーションワゴンなので、SUVと違って低い位置に座ります。これが運転しやすさに決定的な影響を与えます。着座位置だけでなく、クルマの重心やコーナリングの際のロールセンター位置なども低くなるために、コーナリングのたびに前後左右に揺すられることが少なくなります。
強い安定感が得られ、乗る人すべての快適性が高くなります。これはパサートに限らず、すべてのステーションワゴンが備えた長所です。
最大1920ℓの広い荷室
歴代パサートの美点であったトランクルームの大きさと荷物の出し入れのしやすさは踏襲されています。トランクルームはサスペンションなどの邪魔な出っ張りがない直方体なので、荷物の入れ方や置き方を考慮する必要がなく、なんでも積み込める自由度の大きさが使いやすさを実現しています。
これだけ広大なので、荷物が少ない時に運転中に荷物が転がらないように固定するためのオプションが用意されているので、ぜひ注文したいところです。
空気圧マッサージ機能付きシートは◎。ウェルビーイング!
意外だったのが、マッサージ機能が優秀なことでした。6パターンそれぞれで背中、肩、腰をしっかりとマッサージしてくれました。
自分が若かった頃には「クルマでマッサージなんて」と訝しんでいましたが、今では長距離を走った時にはとても有り難みを感じるようになりました。贅沢品ではなく、身体のコンディションを整えるための、いま流行りの言葉で表すところの“ウェルビーイング”なものです。
一方、2バルブの独立制御でより緻密に4本のダンパーを制御して乗り心地と操縦性を向上させると謳っている「DCC pro」の効能は、試乗中にはわかりにくかったです。もしかして、荷物と人間をたくさん乗せて長距離を運転すると体感できるのかもしれません。
金子浩久の結論:長距離走行に最適なステーションワゴン
限られた試乗でしたが、新型パサートはステーションワゴンが本来的に有している長所を最大限に活かしながら、これまで培ってきた乗りやすさや使いやすさなどに磨きが掛けられています。
街中でも重宝するでしょうが、真価を発揮するのはやはり長距離を走る何日にも渡るグランドツアーでしょう。荷物も人もたくさん乗せて出掛ける自動車旅行は想像するだけで心が昂ってきます。
ステーションワゴンは日本車でも少なくなる一方なので、その中でパサートは貴重な存在となっています。新型なのでそれなりの価格になっていますが、その価値は十分にあると言えます。
グレード設定はもはや不要なのでは?
以下はパサートのクルマそのものと関係ありませんが、改善が望まれるので記しておきます。
グレード設定と、各グレードごとに“選べる選べない”のオプション装備の違いなどが複雑すぎてわかりにくい。
フォルクスワーゲンが地元ドイツとオーストリアでは6年以上前から展開している、顧客からのオンラインでのコンフィギュレーション注文を実施すればすべて解決します。
お仕着せではなく、装備や機能、オプションなどを自分好みに一つずつ取捨選択するのです。Web上のファイルを作成するだけなので簡単で負担もありません。ディーラーやインポーター、メーカーなどの無駄が大幅に減り、顧客は「自分だけの1台」を誂える満足感を得られて、良いことしかないはずなので早く実現してもらいたいです。いくつかのヨーロッパメーカーは以前から日本でも実施しています。
ステーションワゴンの魅力と実力を再認識させられた新型パサートのPHEV版を高評価できましたが、ディーゼル版(「TDI 4MOTION Elegance」税込622万4000円と「TDI 4MOTION R-Line」645万8000円)の仕上がりも大いに気になります。次の機会を伺っているところです。