「今年のクリスマス、僕はクルシミマス…」
2024年12月24日、ナミビア気温40度以上、向かい風、砂利が続く坂道で、ガンプさんは人力車の横に座り込んでいた。
「今年のクリスマス、僕はクルシミマス」
シャレの効いた言い回しをしながらも、1日約40km以上走る生活がすでに6カ月以上続くと、疲労の蓄積は避けられない。大きな怪我、病気はないが、腹痛や熱中症も経験し、ガンプさんは限界に近かった。
この日も這うようにして、ゴール地点に到着。するとドキュメンタリー映画制作のために同行している仲間が駆け寄ってくれた。
「メーリークリスマス!」
Tシャツにサンタ帽、首から飾りをつけたケニア人コーディネーターのレギーさんが「ガンプさん、チャパティサンタだよ」と走ってきた。(チャパティ:小麦粉を練って、薄く伸ばして焼いたパン)
ちょうど夕飯のチャパティを準備していたのだろうか、焼く前のチャパティが入った鍋を小脇に抱え、笑顔だ。他のメンバーもサンタ帽を被り、段ボールに「Merry Xmas」と黒マジックで書いてガンプさんの走り終わりを待っていた。
野宿用のテントもカラフルな風船で飾り付けられ、テントの中にはお菓子の箱が置いてあった。道中に食べるグミや、缶ジュースなどはガンプさんの走るエネルギーであり、楽しみとなっている。素直に喜んで、感謝を伝えたガンプさん。豪華なレストランやプレゼントはなくても、6000kmを共に旅してきている仲間からのサプライズは、ガンプさんを勇気付けた。
「START」走り続ける理由
一言で6000kmというが、北海道、本州、九州を結ぶ距離が約3000kmなので、これを往復したといえば分かりやすいかもしれない。そこを、100kgの人力車を引きながら走ってきた。この旅もいよいよ終盤になり、いま一番心に残る場面は何かを尋ねた。
「ぱっと1番心に残ってることは、ナミビアですね。カメラマンのパトさんに『なんでそんなに走り続けられるんですか』って、聞かれたんです。いつも『Just For Fun(楽しむため)』と思ってきたんだけど、このナミビアはとても乾いた場所で、自然が厳しくて、体力も気力も限界でした。だから楽しいというより、本当になんで続けてるんだろうって、もう一度考え始めたんです」
ガンプさんは「Just For Fun」という看板をアメリカ横断旅の道中で見つけ、それを心の軸にアフリカの旅も続けてきた。
ナミビアは当初の予定にはなかったルートだった。ゴール予定日までに時間的余裕ができたので、予定を変更したというが、これがガンプさんにとって試練となった。永遠かと思うほど真っ直ぐに伸びた砂利の道、その砂ほこりを浴びて一歩一歩進んだ。
「パトさんの質問を考えながら1週間ぐらい走ってて、答えが出たタイミングっていうのが、これまでで1番しんどい時だったんですよ。もう道がガタガタで、ずっと向かい風、座り込んだりしましたけど、でも行くしかないし」
これまでのガンプさんはどんなトラブルがあっても「僕はポジティブなんで」と、落ち込む様子を見せて来なかった。ただ、砂利道、坂道が何百kmも途切れることなく続く、ナミビアの自然の厳しさには、音を上げる寸前だった。苦しくて苦しくて……。
「その時に思ったんです、次の一歩を出そうっていう原動力は、結局みんなのおかげなんだなって。電波がない時でも、心配して連絡くれたり、SNSでコメントくれたり、みんなが応援してくれて。生きてたんですねって。そうか、見ててくれる人たちがいるから、 ゴールしたいなって、この時気がついたんです」
ガンプさんは、旅の計画、準備、手配などすべて「自分発信」で行ってきた。その姿を見て、パワーをもらったとコメントをくれる人もいた。アメリカ縦断以来「Just For Fun」は人生の指針であったし、周りの人にも「楽しく行きましょう」と影響を与える側だった。そのガンプさんの力が尽きそうな場面で、助けてくれたのは、応援してくれる人たちの存在だった。「みんながいるからゴールしたい」。
「この時、座り込んでる地面に『START』と書いたんです。そこに線を引いて。ここから一歩出せれば、成長だと言い聞かせました」
その辺で拾った木の枝を杖がわりに、よろける足を支えながら、一歩一歩また踏み出した。体力と気力を振り絞った。そして、ガンプさんは試練の1日を終えることができた。
「その日に到着した野宿スポット、 もう、地球じゃないようで。火星みたいな場所について、そこの景色がめっちゃ綺麗だったんですよ。この日の追い込まれた気持ちと、夕陽は忘れないです。体が覚えてます」
旅の出会い
自分の旅はみんなに支えられているということを改めて感じたガンプさん。
そのほかにも、長い旅の中で印象に残る出会いは数えきれないくらいあっただろう。人との出会いについて質問すると、最終の国、南アフリカに入ってすぐのエピソードを話してくれた。
「南アフリカは、治安が悪いって聞いてたんで、まあまあ警戒してたんですよ。でも、入国した初日、最初に出会った人が、なんでこんなに優しいのか戸惑うほど親切で。南アフリカ育ちのポルトガル人トニーさんっていう人です」
「トニーさんにウエルカム、ウエルカムと迎えられて。経営しているレストランで、食べ物飲み物も無料でいいよって言われたんですよ。 フィーリングだけで、お前たち無料だぜってあり得ます?笑」
この歓迎っぷりにガンプさんは驚きながらも、疲れた先に待っていた歓迎がうれしかった。
「レストランの横には、宿もついてたんで、ここに泊まりたいと思って、そう伝えたんです。もちろんお金払う気満々ですよ。でもトニーさんは『だったら、部屋も無料でいいよ』と言って、きれいな部屋を用意してくれて。その後、 夕陽も見に連れてってくださって……」
「なんでこんな優しくしてくれるんですか、って聞いたら、ポルトガルでは 外国から来た人たちにおもてなしする文化なんだよ。最初は友達から始まって、もう2回、3回会えば、俺たちはそれで家族なんだよ」
手厚すぎるほどの歓迎に最初は戸惑うガンプさんだったが、トニーさんの優しい思いに触れて、大切な出会いとなった。
「その日、宿にはめちゃ人多かったんすよ。なんでだろうと思って聞くと、トニーさんの50歳の誕生日だったらしく。誕生日なのにも関わらず、僕らの接待をめっちゃしてくれてたんですよね」
そこからガンプさんたちは、トニーさんへの誕生日プレゼントを考えた。以前タイヤがパンクしたときに、日本からタイヤを送ってもらったことを思い出した。知り合いの鮨屋の高野さんが、必要なタイヤとのれんを入れてくれていたのだ。これだと思いついた。
「のれんって、入り口に吊るすもんでしょ。南アフリカの国境でもあるし、レストランでもあるし。それにね、のれんは英語で『Goodwill』って言うらしく。ちょうど意味が合ってていいなと」
ガンプさんは、6カ国目となる南アフリカで、ご褒美のような経験をして、またパワーをもらった。
長かった旅は、残り数百キロのところまで来た。得意のSNS配信で、南アフリカの人にバズり始めて、英語でのライブ配信も増えた。ガンプさんが向かうところには、到着を楽しみに待っていてくれる現地の人たちがいる。また、日本で応援してくれていた人が30人ほど、南アフリカのケープタウンまで来てくれる。
そこで一緒に走り、1月26日にゴールする予定だ。当日、日本各地でも、ガンプさんのゴールに合わせて走るイベントが行われる。ガンプさんのアフリカ縦断の旅の終わりは、応援してくれるみんなのゴールでもある。
帰国後、ガンプさんの「アフリカ縦断人力車の旅」はドキュメンタリー映画となり、全国上映予定だ。
ガンプ鈴木さんの関連リンク
写真提供:Just For Fun
同行カメラマン=ハルノスケ、関大基、パト