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日本で唯一のプロハイカー・斉藤正史さんは、そんなシーニックトレイル全11ルートの踏破に挑戦中です。2024年9月から10月にかけては、アメリカ東部の「ポトマックヘリテージトレイル」と「ニューイングランドトレイル」に挑みました。斉藤さんによるアメリカのトレイルの最新レポート第3回をお届けします。
[ポトマックヘリテージトレイル編 その3]
まずは、トレイルの距離、補給地点、宿泊場所の確認
トレイル上で、どの町で食料補給し、どこに宿泊するか。実は、この補給と宿泊の2点によって、計画全体でかかる費用が大きく変わってきます。特にアメリカでは、スーパーマーケットで安い食料が入手できます。なので、スーパーマーケットのある町で補給するのがベストです。
普通の商店のようなところとスーパーマーケットで買うのとでは、およそ1.5倍ほども金額に差が出ます(個人の感想です)。また、スーパーマーケットでも、例えばオーガニック食材を扱うところはかなり高価です(日本と同じです)。そのため、どんなタイプのスーパーマーケットなのかをしっかり把握する必要があるのです。
まずは、ガイドブックを探します。今回もいろいろ調べましたが、ポトマックヘリテージトレイル周辺のエリア全体をカバーしているようなガイドブック的なものはなさそうでした。まずは、ポトマックヘリテージトレイルを構成している3つのトレイルをそれぞれ調べ、距離と補給の町、宿泊所をピックアップします。
①C&O CANAL TOWPATH(約184マイル=約294km)
自転車とハイカーの共有ルートです。自転車の人も多いので、町までのアクセスが遠い場合がありましたが、トレイル上に無料のキャンプ場があるようです。トイレも水場もあるようですので、何も心配なく歩けます。素晴らしい!
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歩き終えてから手に入ったC&O運河トレイルの地図。
②GREAT ALLGHENY PASSAGE(約72マイル=約115km)
この通称GAPも自転車との併用ルートです。ただ、どうやら私有地が多くあり、勝手にトレイル沿いにテントが張れない状況のようです。とはいえ、町と町の間の距離は歩けない距離ではなく、町の宿泊所に宿泊できれば、特に問題なさそうです。その場合、宿代が気になるところで、なるべく早く切り抜ける必要がありそうです。
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GAPルートの地図。
③LAUREL HIGHLAND HIKING TRAIL(約72マイル=約115km)
LHHTは、ペンシルバニア州オハイオパイルから同州ジョンズタウンまでの道のりで、ハイカー専用=徒歩のみのルートです。トレイル上に補給できる町はありません。もし、補給するなら、歩いていてときどきクロスするハイウエイでヒッチハイクして町に出る必要があります。
また、宿泊は必ず指定されたキャンプサイトに泊まらなくてはなりません。しかも事前に予約(許可)を取得する必要があります。ここは食料補給をせず、一気に終わらせたいところです。
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LHHTのガイドマップも現地のビジターセンターでしか入手できず。
まずは、以上の情報をなるべく多く集めます。オンラインで地図を探したり、Googleマップでスーパーマーケットの場所を調べたり、宿泊所の場所と値段をピックアップしていく作業が始まります。
結果的に、それぞれのガイドブックは手に入りませんでしたが、C&O CANALにはアプリがあることが判明し、早速ダウンロードします。GAPルートに関しては、GPSのファイルのみを入手出来ました。LHHTについては、ガイドマップのPDFファイルを州立公園のサイトで発見。それぞれ分かる範囲で分析し、食料計画と宿泊計画を立てていきます。
僕の場合、一般のハイカーと違って、レポートをしながら歩くので、パソコンやデジカメ、周辺機器などを充電する間隔がとても重要になります。経験上4日間は間違いなく持ちますが、逆にいうと充電できる宿泊所(有料)は少なくても5日以内に設定しなくてはなりません。
食料も、今回のトレイルではMAXで5日分となります。なるべく安いスーパーマーケットのある町、安い宿を探さなければなりません。
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C&O運河トレイルの無料キャンプ場。
今回はギチギチに攻めた計画で!
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さて、計画通りにいくのか…。
僕が計画を作るのは、出発の約1カ月前までです。なぜかというと、飛行機のチケットが安い状態で購入できそうなのが1カ月前あたりだからです(個人的な印象です)。
今回は出発予定が2024年9月末。8月の下旬に入ると為替も1ドル144円ほどでした。2023年と変わらない水準まで落ち着いたと安心していたのですが…。
ちょうど1カ月前、安いエアチケットが出始めて少しホッとしていました。そろそろ買うかと数日ぶりにアクセスしたのですが、その当時の最安値のチケットを購入できませんでした。たった3日違いで、3万円も高くなったチケットを購入する羽目になってしまったのです。これはマズイ…。
焦った僕は、一気に攻めた計画を作り出すのでした。まずは、歩行計画通りに歩くことを前提に、無理のない行程を組みます。
すると、通過予定の町が決まります。そして、それぞれの町における①スーパーマーケット②キャンプ場③ドミトリー(一部屋に複数のベットがある大部屋)の3点を調査しました。こうして集めたデータと食料計画を照合し、どこに泊り、どこで食料補給をし、いつニューイングランドトレイルに移動し、いつから歩き始めて、いつ帰国するかといった詳細な計画を立案します。
何度も再確認し、無理なく歩ける計画だと判断したら、今度はオンラインでホテルを予約できるアゴダなどを利用して、泊る予定ながらキャンプ場がない町の宿探しをします。そして、宿泊先をピックアップしたら、一気に予約を全部取ります。
電車のチケットも宿も、早めに予約すると割引があります。また、アメリカの州立公園のキャンプ場は、直前では予約が取れないケースがあります。なので、出発前からきちんと下調べをして、早めに計画を作るととに予約も済ませてしまう必要があるのです。
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ハイカー用のホステル。
ポトマックヘリテージトレイル&ニューイングランドトレイルの合計660kmほどの距離を約50日間で歩く今回の旅では、ほぼがんじがらめの計画が完成しました。1日でもずれたら莫大な金額をロスをしますが、計画通りにいけば超節約になる計画です。
現在は、アメリカのマクドナルドで小腹を満たすだけでも1,000円超えが確実な超円安です。ギチギチの計画にしないと、パトロンのいない僕には長期のトレイルの費用を捻出することが出来ないのです。こうして為替相場とにらめっこしながら、毎年できるだけの節約と工夫を重ねて僕はトレイルを歩いています。
はたして計画通り節約できるのか、はたまた途中で破綻して高い金額を支払うハメになるのか?何となく、出発前の計画立案段階から、経済的にぐったりする日々が続きそな予感が脳裏をかすめているのでした。
もちろん、金銭的なやりくりより、トレイルを歩くことが第一なのですが…。
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