能登半島地震から1年が経ちました。能登の復興を願ってやみません。
救援活動が急がれる発災直後の能登半島には、日本全国で育成されている災害救助犬が集まりました。その中に、北海道登別市を拠点に活動するNPO法人『北海道災害救助犬』もいました。
2025年、最初の本連載では「救助犬の仲間たち」の第4弾として『北海道災害救助犬』の救助犬たちを紹介します。
北海道旅の途中で会いに行った救助犬の仲間たち
2019年、コアが初めて JKC 災害救助犬競技会に参加した時のこと。瓦礫を飛ぶように駆けまわり、 次々と要救助者役のヘルパーを見つけ出す救助犬がいて「すごい!どこの犬だろう?」と調べたら、ハンドラーは北海道の小野寺 里絵さん、救助犬はブリタニースパニエルのアクセルでした。
その時の小野寺さんとアクセルのみごとな捜索はずっと心に残っており、昨年の秋にコアと北海道を旅行した時に、『北海道災害救助犬』の理事長である小野寺さんに連絡を取り会いに行くことに。施設で合同訓練に参加させていただき、お話をうかがいました。
救助犬育成を始めたきっかけとアクセルへの思い
「私が最初に育てた救助犬は、それまでアジリティー※をしていたボーダーコリーでした。
2011年の東日本大震災の時、ニュースで救助犬を見るたびに自分もやらなければと駆り立てられました。それがきっかけで、アジリティーを封印。ボーダーコリーを救助犬として育成しました。次の犬のアクセルは、最初から救助犬として育てました。
※アジリティー 犬と人間が調和をとりながら、コース上に置かれたハードル、トンネル、シーソーなどの障害を定められた時間内に、着実に次々にクリアしていく競技。いわば犬の障害物競争。 JKC HP より引用。
救助犬の訓練では、行方不明者に扮した2〜3人を一度に捜索します。発見した人からごほうびをもらい、次の人を捜すのですが、ごほうび目当て発見済みの人のところに、もう一度犬が戻ってしまうことがよくあります。ですがアクセルは、一度見つけて報告した後は二度と同じ人のところには行かない。あんなに物欲魔人なのに、捜索時の切り替えが教えなくても初めからできました。
何頭か訓練をしてみて、天性の救助犬気質の犬っているんだなと、アクセルで思いました。いろんな意味でアクセルは番外編。またアクセルのような犬に会いたいなと思います」(小野寺さん)
アクセルは12歳(昨年秋の取材当時)。第一線は退き、現場は後輩のジークに譲りましたが、今も元気にしています。
『北海道災害救助犬』発足の経緯
「2018年9月6日、北海道胆振東部地震の時は私の自宅でも震度5弱。すぐにブラックアウトになったので犬を外に避難させながら、道外の訓練士とメッセージでやり取りをして、土砂災害などで甚大な被害の出た厚真町(あつまちょう)の状況を教えてもらって出動の準備をしました。
しかし、その時、北海道では救助犬チームがなかったので誰とどう連絡を取り、連携するかが難しい問題になりました。北海道外の救助犬チームが現場に向かうという話を聞いて、そこに合流しようと準備を始めたら、JKC ※ 本部から電話で待機を伝えられました。北海道で JKCチームを作って出動の許可が出たのは翌日で、もう道外のチームが活動していました。
北海道胆振東部地震の時に行政とのつながりがなく、スムーズな捜索につながらなかったことが悔しくて、犬の訓練士仲間が中心となって『北海道災害救助犬』を発足、活動を始めました。災害救助犬は大好きな犬と一緒に人助けができる活動です」(小野寺さん)
※ JKC ジャパン ケンネル クラブ https://www.jkc.or.jp
訓練で大切にしていることは‥‥
「北海道胆振東部地震の時のことを教訓に、現場で活動できる災害救助犬を目指し、連携を深めるために行政とのつながりを持つ働きかけをしています。定期的に、航空自衛隊千歳基地や北海道警察機動隊の救助犬のみなさんと合同練習も行っています。
災害救助犬というと、時には厳しい訓練を受け、使役させられているかわいそうな存在と誤解されることがあるのですが、救助犬の捜索訓練は犬にとっては、ハンドラーと一緒に行方不明者に扮したヘルパーを捜す究極のかくれんぼ遊びでとても楽しいものです。
厳しく訓練すれば、現場に立てる災害救助犬になれるわけではなく、強制的に教えられるわけで はありません。その犬が持って生まれたもの、犬の本質を引き出し、犬自身が捜索が大好きであることが大事だと思っています」(小野寺さん)
救助犬の仲間たちの個性的なキャラクター
訓練に参加していた救助犬たちのキャラクターやエピソードをおうかがいしました。
「アクセル、ラブラドールレトリバーのジークは“脳筋族”(考えるより動け!)、ジャーマンシェパードのクララ、ウェルシュコーギーのぎいちゃんは好奇心旺盛な破天荒キャラ。でもアクセル以外はみんな経験を重ねるうちに考えるようになりました。
私の救助犬ジークはとにかく遊ぶ事も捜索も大好き。捜索時の告知の吠えもちょっと独特ですぐにジークだとわかります。尻尾はパピーの頃に怪我をして無くなりましたが、それも今や可愛いトレードマークです。
長尾みづきさん(ハンドラー)の育成する救助犬クララはとにかく元気ハツラツ。 クララ自身が入れると思った場所は無理にでも入ろうとするのでハラハラする場面も多かったのですが、経験を積み、最近はシェパードらしい慎重さも出てきました。
同じく長尾さんの育成する救助犬ぎいちゃんは、元気いっぱいで捜索する行動範囲も広く、捜索意欲も申し分なく素晴らしい。ただ脚の長さだけが足りない。もう少し脚が長ければ…とよく冗談混じりで話題になる、みんなに人気の子です」(小野寺さん)
そういえばコアもJKCの先生に「稟性(ひんせい)はあるが節度がない」と言われたことがありました。救助犬には元気いっぱいパワフルな子が向いているようです。
能登半島地震での実働時に印象に残ったこと
「2024年1月の能登での実働で、やはり災害救助犬の活用法についてはまだまだ周知されてないなと思いました。たとえば、警察や消防の中には救助犬をよく知らないという方もいました。どういったケースで災害救助犬が有効なのか、どのように協力し合うのかを、行政への働きかけや各関係機関との合同訓練で周知していくことが必要だと思いました。
今はいろいろな団体があり、ハンドラーや救助犬のレベルがばらばらなので、ハンドラーと犬もさらに学んでいかなくてはと思います。災害救助犬の活動では、救助犬の捜索完成度ももちろんですが、被災者への寄り添いと自己責任、自己完結の徹底も大事だと思います」 (小野寺さん)
救助犬への応援をお願いします!
「日本では、災害救助犬団体はほとんどがボランティア活動です。防災イベントなどでみなさんに話を聞くと、だいたいの方は出動費用などは国が補填してくれてると思っているようですが、自費でまかなっています。自己費用がかかっても、大変な思いをしても、誰かの助けになりたいという思いが、現在の日本の災害救助犬を支えてるのだと思ってます。
そんな活動を、たくさんの方にご理解いただき、救助犬の応援をお願いしたいと思います」(小野寺さん)
NPO法人 北海道災害救助犬 https://www.hokkaido-hrd.com
●お話をしてくれた人
小野寺里絵さん
北海動災害救助犬 理事長/DOG TALK(JKC 公認訓練所) 所長/ JKC 公認訓練範士/ JSV&PD 訓練士
「小さい頃からとにかく動物が大好きでした。小さい頃にご近所で飼われていた犬とのふれあい方法を間違えて、顔面を噛まれてしまったことがありました。大きくなってから、その犬は保健所へ連れて行かれたことを知り、もっと犬とのふれあい方や犬の行動をわかっていればと、忘れられない 記憶になっています」
初めは緊張して臨んだ合同訓練で得たものは
今回、北海道救助犬の施設でコアも一緒に訓練をさせていただき、小野寺さんとジークのペアだけではなく、何組かの訓練を見せていただきました。コアは長旅の最後だったこともあり、疲れが見えましたが、小野寺さんに設定していただいて、初めてのタイヤの山や瓦礫で良い体験ができました。
北海道警察機動隊との合同訓練ということで、 参加する前は緊張しましたが、明るい和やかな雰囲気で訓練は進み、どうやって犬のやる気を引き出し導くか、ハンドラーの装備は、ヘルパーの褒めるタイミングは、等々、とても勉強になると共に楽しかったです。
「訓練士になって救助犬育成を始めると、捜索は究極の犬の訓練じゃないかと感じて、楽しくてやりがいしかない」と語る小野寺さんはとても魅力的な方で、私とコアも新たなやる気が出ました。