プロスキーヤー三浦豪太さんが語る「朝メシ前クラブ」の由来と、なんだか壮大、でもくだらない計画
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    2025.02.08

    プロスキーヤー三浦豪太さんが語る「朝メシ前クラブ」の由来と、なんだか壮大、でもくだらない計画

    プロスキーヤー三浦豪太さんが語る「朝メシ前クラブ」の由来と、なんだか壮大、でもくだらない計画
    【前回までのお話】

    24時間以内に、太平洋と日本海を"人力"で繋げるプロジェクトが発足し……。プロスキーヤー、三浦豪太の連載第4回。

    三浦豪太の朝メシ前 第4回 交通手段は人力

    imageプロスキーヤー、冒険家
    三浦豪太 みうらごうた

    1969年神奈川県鎌倉市生まれ。祖父に三浦敬三、父に三浦雄一郎を持つ。父とともに最年少(11歳)でキリマンジャロを登頂。さまざまな海外遠征に同行し現在も続く。モーグルスキー選手として活躍し長野五輪13位、ワールドカップ5位入賞など日本モーグル界を牽引。医学博士の顔も持つ。

    なにはともあれ「朝メシ前クラブ」が走りだす 

    タンナカ君(反中祐介さん)と某スポーツショップの自称プレオニアのS氏は、北海道の厚真町と銭函を24時間以内にサーフィンとランでつなげる計画「A to Z」への話に夢中だ。

    サーフィンとランであるから、波のいい日は不可欠。が、ちょっと待て。僕はふたりがもっと大切なことを忘れているのではないかと思った。それは厚真と銭函の間にまたがる100㎞の距離だ。

    僕はサーフィンのことはわからないが、おそらく暗い中ではできないだろう。逗子でも夜中にサーフィンをやっている人は見たことがない。とすれば早朝、日の出とともに厚真でサーフィンをしてその日の、日の入りに間に合うまでに銭函の海に入る。夏だと日の出が4時、日の入りが19時、100㎞の距離を15時間で走ることになる。

    「これだけでも大変だ!」と僕がいうとタンナカ君が

    「いやー、ゆっくりペースで走ったら意外に行けるっすよ」と答える。100㎞という距離は意外に行ける距離なのかな? ……タンナカ君のズレた距離感。それを容易に口にするトレイルランナーも恐ろしければ、その感覚についていっているS氏も恐ろしい。
     
    そんな、なんだか壮大、でもくだらない計画をハイボールの杯を重ねながら会話は進む。しかし結局、この計画はいまだに実現できていない。だが、このときの副産物が当コラムのタイトルにある『朝メシ前』で、それがこの初会合からスタートしたのだ。
     
    3人ともそれぞれ特技が違う。タンナカ君はトレイルランやランニング全般、S氏はサーフィンやスケートボード等横乗り系全般、僕はスキーとマウンテンバイク。異なる分野を持ち寄りながらそれらを融合した遊びを創っていったら札幌ライフは楽しいものになるのではないか!と盛り上がる。
     
    幸いなことに北海道の夏の日の出は早い。これを利用して朝起きてすぐに活動。その後、朝メシを食べて仕事に行くのはどうかという、いわば朝活としての基本方針が決まった。
     
    早速、ラインのグループをつくり、どんな呼び名がいいのかとみんなで頭を捻った。そこで僕が思い立ったのは1980年代のアメリカ映画『Breakfast Club』である。

    異端の高校生たちが繰り広げるドタバタ学園もので僕の好きな映画のひとつである。これをもとに「朝メシ前クラブ」すなわち「Before Breakfast Club」︱︱略称「BBF」を立ち上げることになった。

    おじいちゃんの教え

    朝活クラブのBBFを結成した翌日、さっぽろばんけいスキー場にてスキー・スノーボードのハーフパイプ全日本選手権が開かれた。僕はスキーフリースタイル競技4種目の五輪解説をしており、現役や若い世代が活躍するこうした機会は見逃せない。

    またS氏が所属するスポーツ店の選手も何人か出る。顔が広いタンナカ君の知り合いもこれに出場している……という。ほろ酔い気分で盛り上がった3人は、「明日、走っていこう!」となった。
     
    翌朝、二日酔いで目が覚めたとき少し後悔した。なぜなら僕は走るのが苦手だからだ。スキーヤーという職業ゆえ、体も体重を利用して滑ることに適した体だが、自力で進むにはやや難がある。スキーの鍛錬を欠かさず行い100歳までスキーをしていた僕のおじいちゃん(故・三浦敬三さん)は以前、こういったことがある。

    「人には2種類の体力がある、ひとつは走ったり歩いたりする一般の体力、もうひとつはスキーの体力である」
     
    当時、僕はまだ若くてこの意味について深く考えなかったが、今になったらわかる。祖父はスキーシーズン中も欠かさず早朝に、スキー場の階段を何度も往復し、トレーニングしていた。そうしないと春がきたとき、普通の生活で体が動かないのである。
     
    この年のハーフパイプ全日本は諸事情により4月に行なわれた。シーズン終わりで、スキーヤーが最もスキーに適した体であり、逆に走ることに全く向いてない状態だ。たとえるなら、泳ぐように進化したペンギンが地面を歩く時にヨチヨチになるほどまでに身体は退化している。

    伝説の幌見峠

    話を戻す。目的地であるばんけいスキー場は、住所こそ中央区だが、西の端にある山々に囲まれた場所だ。僕はばんけいスキー場の前にある盤渓小学校の卒業生だ。

    茅ヶ崎から札幌に引っ越した小学校2年のとき、盤渓小学校は木造で全校生徒は12人しかいなかった。登校初日、不安に思いながら山々に囲まれ緑豊かなバス停に降りると、すぐに側溝にエゾサンショウウオを見つけた。

    動物好きの僕はそれだけで、すぐに転校してよかったと思った。さらに、今では絶滅危惧種のニホンザリガニや八つ目鰻を近くの小川で捕まえ、時には熊の足跡なぞ発見し、そんな冒険に満ちた盤渓は自然好き少年の僕を虜にして、充実したワイルドライフを堪能させてくれた。
     
    盤渓小学校についてこんな話がある。100年前、盤渓小学校は地域の人に切望されて開校する。盤渓小学校の前身だった、1912年創立の琴似尋常高等小学校附属盤之沢特別教授場はあまりにも僻地で、多くの教員が1年も持たず離職する有様だった。

    そんななか、6年間務め、地域や子供からの人望が厚い結城三郎先生が1922年に盤渓小学校として独立して開校、初代校長となり、みなが喜んだ。
     
    学校開校前日、結城先生は盤渓小学校開校辞令と教育勅語を下の町から携えて、幌見峠を越えようとした。しかし天気が悪くなり、地元の人がひと晩泊まっていくように説得するが、責任感が強い結城先生は、盤渓に向けて幌見峠越えを敢行した。

    ところが、あまりの吹雪に道半ばで結城先生は倒れ、小学校の50m手前で息絶えてしまった。今でも盤渓小学校のグラウンドに「あゝ結城先生」の碑として立っている。僕の、盤渓に走っていくというイメージはこれだ。
     
    盤渓は人力で行くには過酷であるという先入観が子供のころから植え付けられているのだ……。ともあれ、そんな想いとは別に僕の家が旭山公園のそばで、比較的盤渓に近いということで待ち合わせ場所になった。
     
    ふたりはランニング姿で現われる。

    「車は?」と僕が聞くと

    「家から走ってきたっす!」とタンナカ君は答える。彼らはすでに街中を5㎞走ってここまで来ている。ランナーであるふたりは、おそらく自分の足そのものが交通機関なのであろう。札幌市内であれば大抵は走っていくという、現代の飛脚である。こんな人たちと付き合うのか……と思いスタートした。
     
    幌見峠へは旭山記念公園を経由すると景色がいい。旭山記念公園は札幌の展望が望める高台にあるのだが、その道のりはいきなり勾配がきつい。

    ふたりは僕に合わせて歩いてくれるが、息も乱れずおしゃべりをしながら登る。僕も登山家の意地を見せるために会話に参加するが、ふたりに比べてスキーシーズン上がりの老人並みの心肺能力で、ただ咳き込むだけだった。
     
    伝説の幌見峠に辿り着く。昔は何もなかったが、今はラベンダー畑がある。札幌市を一望できるこの場所は〝恋人の聖地〟として知られている。

    確かにカップルが来そうな場所だが、そこに汗だくおじさん3人が、「うぇーい」と言いながら自撮りで記念撮影するというのはその名前に傷をつけかねない。そこから15分も走り降りると、もう、っぽろばんけいスキー場である。

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    旭山公園から幌見峠までを走っていく様子を捉えた一枚。トレイルランは山の中を走るという爽快感があり、楽しい。だがしかし……ここから幌見峠への上り坂が控えている。

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    デートスポットとして知られる幌見峠の山頂で、中年男性によるスリーショット。

    (BE-PAL 2025年2月号より)

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