ムクロジの学名はSapindus mukorossi
ムクロジ科の落葉高木。林中に生え、庭園、神社に広く植栽される。夏に緑白色を帯びた小花を多数開く。和名表記は「無患子」。中国では紀元前から知られ、鬼を追い払い患いを無くすと伝えられた。
果皮は漢方で「延命皮」とよばれ、水でよく泡立ち、泡が消えにくい性質から、せっけんや消火器の成分として活用された。
タネは「羽根突き」の玉に利用される。自作してみると、羽根の大きさや角度で飛ぶ速さや距離が変わって、おもしろい。
ムクロジはムクロジ科の落葉高木で、本州から九州まで分布する。山地に育つ15~20mほどの木だが、自生のムクジロはめったに見ることができない。都会だと神社やお寺の境内などでたまに見かけることがある。
葉は羽状複葉で30~40㎝ほどもあり、6月の末ごろ、枝先に泡つぶのような淡い緑色の小さな花をかためてつける。
秋になるムクロジの実は、非常にユニークな形で、初めて見る人はきっと目を丸くすることだろう。直径2㎝ほどの黄褐色の実を砕くと、黒くて堅い大きなタネが入っている。このタネは「羽根突き」の玉に利用される。
ドリルでタネに穴を開け、拾っておいた鳥の羽根をつけ、板を削って2枚の羽子板を作り、近所の子どもたちと羽根突きをしてみた。昔なら正月にはどこでも見られた羽根突きだと思うが、今ではほとんど見かけない。
私の作った羽根は、羽根の大きさや角度で飛ぶ速さや距離が変わって、意外におもしろかった。負けたからといって、顔に墨を塗ったりはしなかったが、この遊びは日本流のバドミントンで、けっこう楽しめる。
黄土色の果皮にはサポニンが含まれ、水に入れてもみつぶすと、とてもよく泡立ち、昔はせっけんの代わりに用いた。
ムクロジと同じようにせっけんの代用にされたサイカチは、川岸などに育つ大きな木で、樹皮には鋭いトゲがびっしりとある。サイカチの果実(豆果)は、さやの長さが30㎝ほどもあって、ぐねぐねとねじれている。
ムクロジといい、サイカチといい、なんとも個性的な実をつける木だ。
不思議な形をしているムクロジの実。花も個性的だ
枝先にかたまってつくムクロジの花。
実はなんとも不思議な形をしている。
泡立てると、せっけんの代用品になる。
手作りの羽根と2枚の羽子板。
イラスト・写真・文 おくやまひさし
おくやまひさし プロフィール
画家・写真家・ナチュラリスト。
1937年、秋田県横手市生まれ。自然や植物に親しむ幼少期を過ごす。写真技術を独学で学んだのち、日本各地で撮影や自然の観察を開始。以降、イラストレーター、写真家として図鑑や写真集、書籍を数多く出版。
(BE-PAL 2025年2月号より)