里山の植物を使った和紙づくり、どうぞご覧あれ!
ペーパーレス時代だからこそ知りたい"紙ができるまで"
里山で紙の材料「コウゾ」を探す
いずれペーパーレス社会が来るといわれたのは、パソコンがビジネスパーソンの基本装備となった’90年代だ。
初めは「そんなことありまっかいな。情報媒体の王道は紙でっせ、紙!」とうそぶいていたわたくしライター鹿熊であるが、めまぐるしくアップデートする革新の波にのまれ、今では自他ともに認めるデジタル弱者である。当ビーパルも、今や印刷版だけでなく電子版でも購読いただく時代。30年前の威勢のいいセリフは撤回します。
ただ、時代の趨勢といっても紙の存在が世の中から忘れられていくのは寂しい。そもそも紙とはどのようにできるのか。デジタルネイティブ世代の担当編集・ハラボーこと梶原を、あらためて教育することにした。
鹿:昔はさ、ビーパル専用の原稿用紙があったんだよね。
ハ:そうなんですか!
鹿:編集者は手書きの原稿を印刷所に入れてたんだよ。
ハ:鹿熊さんの字の汚さは今も相変わらずですけど、当時の担当編集者は気の毒でしたねぇ。
鹿:……。そもそも紙ってどうやってできるか知ってる?
ハ:発明したのは中国の蔡倫という人だというのは習った気がします。あとは和紙漉き。職人さんの仕事をテレビで観たことがあります。優雅で素敵な技ですよね~。憧れます!
うん、紙に興味がないことはないようだ。そこで足を運んだのは近くの里山である。
鹿:和紙の代表的な材料はコウゾというんだけど、クワとそっくりさんなんだよね。まずは識別からいこうか。こっちがコウゾ、こっちがクワの葉ね。
ハ:えー、わかんないです。同じ植物にしか見えない。
鹿:そうね、よく似ているし、コウゾもクワも異形葉といって、同じ木なのに切れ込みがなかったりあったり、形の違う葉っぱが付くからね。そんなときは樹皮で比べるといいよ。とくにむくとわかる。コウゾの繊維は絹のように細かく毛羽立つけど、クワはそれほどでもない。
ハ:たしかに! じゃあクワって紙にはならないんですか。
鹿:クワでつくられた紙もあるよ。その気になればどんな植物だって紙になる。印刷用紙は洋紙といって、砕いた木の繊維を高温高圧で煮て柔らかくした紙だし。コウゾの和紙が有名なのは、繊維が長く、しかもきめ細かで、丈夫で美しい紙になるから。劣化もしにくいんだ。
ハ:じゃあ、人生初の紙漉きチャレンジが最高級の紙っていうこと? わーい。
だが、紙漉きの道は深く険しい。まもなくそのことを肌で知るハラボーであった。
繊維の気品が違います!
「これ、コウゾですか?」「違う、クワ」。そんなやり取りを続けること20分。識別の勘所をつかむと材料探しの散策が楽しくなった。
それでは…和紙づくり開始!
ステップ1 剥ぐ
蒸して皮を柔らかくする
可能な限り、分岐のない1年ものの枝を集めよう。枝分かれしたコウゾは黒皮が除去しにくい。
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大きな寸胴鍋の中で2時間以上蒸す。蒸気が上まで回るように、トタン板を筒状にするとよい。
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柔らかくなった皮をむく。皮は黒い外皮と緑の甘皮、内側の白い靭皮からなる。使うのは靭皮。外皮はナイフでこそげ落とす。
ステップ2 煮る
時間をかけ繊維をほぐす
アク(灰の上澄み)を入れた水で時間の許す限り皮を煮る。その後水で晒す。アクは強アルカリ性なので素手で触れないこと。
ステップ3 叩く
繊維を細かく叩き潰す
煮て柔らかくなった靭皮を叩き、繊維をほぐす。プロは臼や機械で搗くが、遊びの場合は石などを使って根気よく。
ステップ4 漉く
浮遊する繊維をすくう
叩いて細かくした繊維を水の中に溶く。よく潰れていない部分は指でほぐし、残っていた外側の黒皮も可能な範囲で取り除く。
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和紙づくりでは水にネリという粘性材料を加える。繊維の沈下が遅くなり均一に漉ける。ネリの原料はオクラの仲間のトロロアオイという植物。オクラでも代用できる。
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ネバネバが良い仕事をする
繊維を漉き上げる道具は目の細かなものならなんでもよい。笊に巻き簾、網戸の網など。笊は漉くのが簡単だが、ややはがしにくい。
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漉き上げる道具が入るサイズの容器に、繊維とネリの入った水を入れる。手で軽くかき混ぜ、繊維の沈下が始まる前に下から金魚すくいの要領でゆっくりすくう。はじめは繊維を多め(厚め)に漉くと失敗が少ない。要領がわかったら徐々に薄い紙に挑戦しよう。
ステップ5 乾かす
そっとはがし板の上へ
漉き取ったら吸水性がある木の板へ裏返しに。巻き簾の場合は端からめくる。笊や枠付きの網は叩きつける感じで。
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手拭いと段ボールを当て水を吸い取る。破れても濡れているうちは修正可能。後は乾かすのみ。
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てぬぐいで水を吸い取ったら、日光に当てて乾かす。乾くと端からめくれてくる。多少のゆがみは生じるが、家でアイロンを当てると簡単に平らになる。
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Complete!
漉きムラはあるし黒皮も多いが、人生初の手づくり和紙は味のあるものに。
ハガキサイズに漉けば、ポストカードスタンドにちょうど収まる。飾るなら逆に黒皮や漉きムラがあるほうが面白い。
海苔は紙だった!
おにぎりや旅館の朝ごはんでおなじみの板海苔のつくり方も、じつは紙と同じ。生ノリを薄く漉いて干したものが板海苔だ。つまり、海苔は食べる紙だといえる。保存が利き、軽くコンパクト。食材として広く普及した背景はその運びやすさにある。
※構成/鹿熊 勤 撮影/藤田修平
(BE-PAL 2025年2月号より)