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※苦手な方は閲覧注意!
ボノボが好む果実は、村人たちにも大人気!
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キョウチクトウ科のつる植物であるバトフェ(Landorphia oearlensis)。
ボノボは、果実や葉を主食としている。とくにボノボが好む果実は、人間が食べてもおいしい。味覚に甘味の受容体がない鳥が食べる果実は、すこぶるまずい。サル類が食べる果実は少し信用できるが、ときにまずいものも含まれている。
アフリカ熱帯雨林に住むマルミミゾウもかなり果実に依存しているが、彼らが食べる果実はとても堅いうえに、甘みがほとんどなく、ときには有毒だ。その点、ゴリラやチンパンジー、ボノボが食べる果実は、まずは安心して口にできる。
ボノボが好む果実のなかでも、キョウチクトウ科のつる植物であるバトフェ(Landorphia owariensis)やボキラ(L.bruneelii)の果実はひたすら甘く、村人たちにも大人気だ。
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木を伐り倒して、たくさんのバトフェを手に入れた子どもたち。意気揚々と村に帰ってきた。
果皮を割ると、なかに種子を包み込んだ白い果肉がある。植物の系統分類としてはずいぶん遠いが、東南アジアのランブータンやマンゴスチンに近い感じといったらいいか。
地上10m以上の高い場所に果実がついている場合がほとんどなので、ワンバの子どもたちはときに木を伐り倒して大量の果実を得る。
ボノボは、昆虫も頻繁に食べているようだ。しかし、葉の生い茂った10〜20m以上の樹上で採食しているので、なにを食べているのか正直よくわからないことも多い。
季節によっては、大発生する鱗翅類幼虫にかなり依存しているのではないかと思われるふしがある。
村人のタンパク源は季節によって約65%が昆虫!
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森のビンジョ(幼虫)でバハカラ(Gonimbrasia jamesonii)。ボセンゲ(Uapaca guineensis)の葉を食べる。ヤママユガ科の幼虫は、大型で食用としてたいへん人気がある。このような派手な幼虫も貴重な食べ物。
ワンバの森をトラッカーと歩いていると、主にボノボを見失っているときや帰り道が多いが、彼らが突然大慌てでンコンゴの大きな葉を集め出すことがある。
なにか食べ物を採集する用意だ。仕事中は漁撈や採集などの「副業」禁止なのだが、緊急を要するマイェボ(キノコの総称)とビンジョ(幼虫の総称)の採集は特別扱いにしていた。いまを逃すと次にいつチャンスが巡ってくるかわからないからだ。
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中央がアフリカのヤママユガの一種と思われる。ひときわ大きなことを表現する1770年刊のイギリスの図鑑より。 Dru Drury,’Illustrations of natural history’ Smithsonian Libraries所蔵
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ビンジョでヤママユガ科のベトワ(Imbrasia epimethea)。毛がたくさんでも大丈夫。ナッツに似た味わいだ。
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大きなビンジョを得意そうに見せる子どもたち。ヤママユガ科のボウナ(Pseudantheraea discrepans)。森でビンジョを探してくるのは、子どもたちにもできる仕事である。
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ヤママユガ科のボウナ(Pseudantheraea discrepans)の蛹。
ビンジョは、集団で発生する種を対象とするために収獲量は大きい。ワンバの村での人類学的な研究によると、季節によって大きく変動するが2014年9月上旬だと村人のタンパク質を得る源として魚は35%あまりで、残りのおよそ65%が昆虫であった。
毛虫はシロアリ塚の破片で下ごしらえ
あるとき、木の幹にびっしりと付いているロコオと呼ばれる毛虫を見つけた。カレハガの仲間に見える。それをトラッカーは細い木を伐って、その先のT字になったところで幹を擦り、大量の毛虫を地面に落とすことに成功した。
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樹皮に密生したビンジョの一種ロコオ(Gonometa postica もしくはその近縁種)を木の棒で掻き取る。カレハガ科。
この毛虫は毒毛をもっているらしく、素手では扱わずにンコンゴの葉で指サックを作って、毛虫を掴んで採集する。得た大量の毛虫は、シロアリ塚を壊して磨石に使って、毒毛を分離するためにすり潰す。
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毒毛をもつロコオを葉でつくった指サックでつまんで集める。
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シロアリ塚を壊して作った磨石で、ロコオを毒毛ごと潰す。あとは毒毛だけを川で流す。
ワンバの土壌はコンゴ川が堆積させた砂でできていて、岩はおろか小石さえ見つけるのか難しい。そこで使うのがシロアリ塚である。シロアリ塚の破片ですり潰した毛虫を川の流れで毒毛を洗い流して、下準備は完了。
どんなビンジョでも料理法はほぼ同じで、リボケにする。ンコンゴの葉に包んで、焚火のなかに置いて蒸し焼きにするのだ。
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ビンジョは、まとめてリボケにして調理する。
ヤシ類の害虫も幼虫はナッツに似た味とコク!
鱗翅類幼虫とは別に、甲虫類の幼虫も重要な食べ物である。おもに大型のコガネムシやゾウムシの幼虫が食用となる。
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ケンタウロスオオカブト Augosoma centaurus(リンガラ語でマココロ、ロンガンドでバキオ)やアフリカヤシオサゾウムシ Rhynchophorus phoenicis(リンガラ語でンポセ、ロンガンドでモポセ)の幼虫も重要な食べ物だ。
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ケンタウロスオオカブトはアフリカ最大のカブトムシ。上は展示用昆虫標本製作の専門家によるのジオラマ作品。写真協力/オオクワ京都昆虫館 https://ookuwa-kyoto.com
とくにアフリカヤシオサゾウムシ(Rhynchophorus phoenicis)はヤシ類の害虫とされているが、リンガラ語でンポセと呼ばれていて、その幼虫は少々の油でソテーして塩をかけるか、バターでソテーすると、ナッツに似た味とコクでこの上ない美味である。
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ンポセ(Rhynchophorus phoenicis)の幼虫を炒めて食べると、ナッツのような味とコクでたいへんおいしい。頭は堅いから残すので、誰が何匹食べたかよくわかる。
種は異なるが同属のヤシオオオサゾウムシ(R.ferrugineus)は東南アジアに分布し、日本でも鹿児島をはじめ各地に侵入して問題となって害虫として駆除されている。
一度、鹿児島県林業試験場で駆除を担当する方に「駆除するよりも、郷土料理として売り出したほうがいいのでは……」と提案したが、冗談だと思われたのか相手にもされなかった。
現在、熱帯雨林を伐り開いて、農地や牧場にしようするのが世界的な動きである。しかし、森林を伐り開いて環境負荷の高いウシを育てるよりも、昆虫、あるいは繁殖率の高いネズミ類や小型ダイカー(カモシカ)類を持続可能なかたちで収獲したほうがよっぽどいいと思うのは、わたしだけだろうか。