私の名は橋爪ヨウコ39歳。身体はしっかり熟れてきているが、芸人としてなかなか売れずにいるお笑い芸人だ。16歳でお笑い芸人を始め、それと同時にバイクにも乗り始めて、早23年。
ふと「でけぇ山を走りたい!」と思い立ち、38歳でインドにあるヒマラヤ山脈へ向かい「標高5600m越えの車やバイクで走れる、世界で一番標高の高い峠越え」を達成してきたのである!!
そんなヒマラヤ爆夢旅シリーズから数ヶ月。私はまた一人ワクワクしていた。そう…また旅に出る気満々なのである!
あのヒマラヤツーリングを終えて…やっぱり海外をバイクで走りたくなっていた!!
ゴールした安堵感で大号泣してしまうほど過酷だったヒマラヤツーリングを完走したあの日から、もう「バイクと共に、あの達成感をもう一度味わいたい!」と強く願うようになっていた。
すでに頭の中では小沢健二の「ぼくらが旅に出る理由」がエンドレスで流れていた。あとあと歌詞を調べたら完全に男女の別れの曲だったが、そんなの関係ない。
私が旅に出る理由はただ一つ!まだ見ぬ景色に感動したいのだ!
「より見たことない景色を!」と求めた私は、海外に絞る事にした。ただ、ヒマラヤツーリングのようなドクターやメカニックが同行してくれるようなバイクツアーは見つからず…今度は単身で走ることになりそうだなと思い、場所の選択に迷っていたのだ。
愛車がHarley-Davidson(XL883N)な事もあり「アメリカのルート66を走ってみたい!」という夢も幼い頃から抱いてはいたものの、円安の昨今。貧乏芸人にはその旅費を確保するにはハードルが高すぎると断念…。
行きたい場所は沢山あるが…金額も日数も限られている。ペラペラのお財布としっかり相談しながら、まずは比較的料金も安く挑戦しやすい『ベトナム』を選ぶことにした。
ベトナムは、ヒマラヤ山脈のような山々はないけれど、道がバイクでびっしり埋まると言われるほどの【バイク大国】。想像するだけでヒマラヤとはまた違った意味で危険なのでは?と思ったが、そこをブンブン走ってみたいと思った。
ただ、ベトナムを走ると決めたはいいものの…その前に「まず日本を走らなくていいのか?」と脳裏に浮かんだ。
ベトナムを走る前にまずは練習だ!大好きな熊本へGO
私は今まで国内では関東甲信越までバイクで走った事がある。最長でも1日500キロ程度の距離。旅先でレンタルバイクを借りて四国や九州、東北なども走ったことがあるが、自分の愛車では走った事がない。
色んな景色を見てみたいとは思ってはいたが「ベトナムに行く前に、まず日本国内を走ってみようじゃないか!」と決めた私は、まず熊本まで走ってみる事にした。
なぜ、熊本かと言うと…私は大の『阿蘇山』好きなのである!!
今まで地元群馬県の上毛三山(赤城山・榛名山・妙義山)などはよく登山やツーリングなどで遊びに行っていたが、阿蘇山は今まで見た事がない山だった。
何故なら今まで見てきた木々が生い茂っているような山々とは違い、阿蘇山にはほとんど木々が生えていない。見渡す限りどこまでも広がる草原地帯がとても綺麗だが、箇所箇所に世界最大級の火山の歴史を感じる。それがとても神秘的で一発で魅了されたのである。
初めて阿蘇山へ訪れたあの日から「阿蘇山の魅力をもっと知りたい!」と、毎年飛行機で熊本へ向かうようになって早数年。
阿蘇山メインに「大観峰」「草千里ヶ浜」「阿蘇パノラマライン」「ミルクロード」「天草パールライン」「やまなみハイウェイ」などをレンタルバイクで走ってきた。
「いつか自分の愛車で走ってみたい!」「愛車にもこの景色を見てもらいたい!」と思うようになっていた私は、ベトナム旅の前に自信をつけようと愛車での『熊本バイク旅』を計画し始めたのである。
しかもグットタイミングで、熊本で「ラジオ」と「お笑いライブ」に出演することが決まり、それに間に合うように向かうことした。
今すぐにでも愛車である大型バイクで向かいたかったが、私の所有するハーレーは長距離運転に向いておらず…燃費も悪い。ガソリンもハイオクだったりと値段も高くかかってしまう為、燃費が良く壊れにくいもう一つの愛車『スーパーカブ110』で向かうことにした。
ただ、スーパーカブの排気量は110cc。そうなると、高速道路が使えなくなる。東京から熊本までどのくらい時間がかかるのだろうか。
調べた結果、高速道路を使うなら東京から熊本までノンストップで16時間。下道でいくと30時間もかかるらしい。初めてGoogleマップで『1日6時間(約1400キロ)』という文字を見た。
仕事の関係で、私に与えられた日数は5日間。寝ずにノンストップで走れば行けなくもないか?……いや!絶対に無理だ!山道も多いだろうし、夜間の走行は危険だ。過酷なスケジュールを組んだとしても片道3日はかかってしまうだろう。
安易に目的地を決めた自分に少し後悔したが、諦めるにはまだ早い。どうにか行ける手段はないかと考えていると「途中までフェリーを使ったら?」とアドバイスをいただく。
「フェ、フェリー…?」
海なし県の群馬県で育った私にはなかなか出てこない選択肢。調べてみると、島国の日本では車やバイクなどを乗せて移動できるフェリーがとても充実しているらしい!
その中でも私が気になったのが、横須賀から新門司(北九州)まで走る『東京九州フェリー』。
我が家から横須賀まで下道で3時間。バイクをフェリーに乗せて移動すること21時間。新門司から熊本まで下道で5時間。片道29時間で熊本へ行けるらしい!
愛車と共に、フェリーへ乗船!
時間はかかるがフェリーで1泊すると考えれば、5日間でもいけるスケジュールだ。そう確信した私は全て自走する事は諦め、フェリーの力を借りる事にした。
(「いつかは絶対日本一周をバイクで自走したい!」と強く願いながら…)
ちなみに、私が予約した『東京九州フェリー』は、片道14000円かかる。(繁忙期ではないシーズン)。
そこに125cc以下のバイクを乗せるならプラス6000円。大型バイクの場合、15000円かかるので比較的料金も抑える事が出来た。
フェリーは部屋選びも出来るらしい。個室や半個室。部屋のグレードでプラス料金がかかるらしい。私は1円でも安く向かいたかったので、追加料金のかからない大部屋を選択した。
大部屋と言えど雑魚寝ではなく、カプセルホテルのように一つ一つカーテンで仕切られている。しかも女性専用ルームまであり、プライベート空間がしっかりしていて大満足な部屋だった。
しかも、大浴場や映画館やジム、食堂にBBQ会場などもあったりと、フェリー内はとても充実していていた。
「たっぷり1泊出来てこの充実感!2万円は安いな!」とウキウキしたのも束の間、私は乗船してすぐにダウンしてしまったのである…。
今までほとんど船に乗った事がなかったので分からなかったが、どうやら私は船酔いしやすいタイプらしい。しかも見覚えあるこの気持ち悪さ。はじめましてじゃない。
「あれ…この気持ち悪さ、どこかでお会いしましたっけ?」とフラフラしながらトイレに向かっているときに思い出した。
「あ…そうだ…これはワイン飲みすぎた次の日の二日酔いだ。」
そう思いながら便器とにらめっこ。39年間生きてきて自分の限界の酒の量は分かっていたつもりだったが、一滴も飲んでいないのに同じ気持ち悪さを船で味わる事になるなんて…。
ふらっふらになり、気を失っていたら…九州へ到着
船上のマーライオンになりながら、部屋に戻り気を失うこと、21時間。気づいたら『新門司』に到着していた。
船の中で何度も「もう絶対に飲まないぞ!」と涙を流しながら飲んでもない酒とお別れしながら時が経つのを待った私。酒も「え…私、告白してないんだけど…」といきなり振られてさぞかし驚いただろう。
そんな心身ともにボロボロになりながらも、陸に降りられた安堵感で体力も一気に回復!!ここから熊本まで約5時間。
「ヒマラヤツーリングに比べれば楽勝だろう!」と思い、スーパーカブのエンジンをかける私。
まさかあんなにも山道に苦しめられるなんて…。
次回!「九州を舐めたらいかんばい」の巻!果たして、熊本まで辿り着けるのか!?
次回もお楽しみに!