
夢は生物学者、 目指すはノーベル賞!

昆虫博士ちゃん/長井 丈くん(10歳) 会社員の父と英語教師の母の家庭に生まれる。5歳のときにアゲハ蝶を育てて以降、毎年アゲハ蝶の研究に専念。生物の構造や機能を技術開発に活かす「バイオミメティクス」の分野で活躍するのが夢。
昆虫が好きすぎるあまり、筆箱にセミを隠し、学校に持っていったという長井丈くん。そのセミが授業中に鳴きだし、「先生にバレて怒られました」となんともかわいい顔で笑う。
そんな彼が世界を驚かせた。家の木にやってくるアゲハ蝶の卵を採取して幼虫から育てていたある日、おや? と思った。羽化した全ての成虫が自分のまわりを飛び続けるのだ。野生のアゲハは近づいてこないのに。もしかしてーー。
当時小学3年生だった彼は、専門家に相談を重ねて自分の考えをブラッシュアップ。人工交配も学んで約100匹の幼虫を孵した。その幼虫の半数にラベンダーの香りを嗅がせ、低周波治療器で電流を流す。3秒で幼虫は嘔吐する。それを毎日3回行ない、ラベンダーが香ると嫌なことが起こると学習させた。
そうして成虫になると、(A)砂糖水とラベンダー、(B)砂糖水だけ、のどちらに行くかを観察。電流未経験のグループは(A)に52%、(B)に48%と、ほぼ半々だったのに対し、電流を流したグループは(A)に20%、(B)に80%が行ったのだ。やっぱり幼虫の記憶は成虫に継承されている!
翌年は約300匹を孵し、電流を流した幼虫が成虫になって産んだ子、さらにその孫まで記憶が遺伝するかを調査。すると子も孫もラベンダーの香りを嫌がる傾向を見せたのである。
この結果を、家で普段から学んでいる英語でまとめ、国際学会で発表すると世界が驚いた。史上初の研究だったらしい※(※文末に補足あり)。
英語教師のお母さんは「私は文系なので、実験のことはよくわからないんです」という。研究は全て丈くん主体で行なっているのだ。幼虫から育てた蝶がなつく現象を一部の専門家が思い込みだと断じたときも、「自分にしかできない実験をやって絶対に結果を出すぞ!」と逆に火が付き、実際に結果を出して専門家をうならせた。今後はさらに壮大な計画に向かう予定だ。
そんな大人顔負けの丈くんだが、時折子供らしい、やっぱりかわいい素顔を見せるのだ。取材後、こんなことをいった。
「……僕が載るビーパルにも、付録は付きますか?」
ギャップがたまりません!
蝶採集ツール
捕虫網は蝶専用の志賀昆虫普及社製。網が柔らかく、羽を傷つけない仕様。柄はアルミ製で2.5mまで伸びる。
採った蝶は暴れて羽が傷つかないよう、パラフィン紙でそっと包んで一時保管専用の三角ケースへ。
サナギ養育カップを開発
実験用に育てたサナギは、ティッシュペーパーで作った専用のカップに入れて羽化を待つ。カップは形や素材を吟味しながら試行錯誤を繰り返し、作り上げたもの。

この蝶ハウスも作ったよ。
蚊帳と子供用テントの骨組みで蝶ハウスを自作。冬は暖房をつけっぱなしにし、蝶を放している。鼻にとまっているのはアカタテハ。
アゲハ蝶の記憶はどこまで継承される?
アゲハ蝶の遺伝実験のレポート。詳細でボリュームも多く、小4とは思えないクオリティー。手書きの文字も超きれい!(蝶だけに……)
アゲハ蝶研究の大家に出した手紙。小2のときだから平仮名ばかりだが、質問内容は脱皮回数を増やす昆虫ホルモンについてと本格的。

書道の賞状もあります(笑)。
学会や科学コンテストで得た賞状の数々。手には去年の国際昆虫学会議ICEで表彰された優秀賞。
決め手は工作力!
左に砂糖水とラベンダーを、右に砂糖水だけを置き、どちらに行くかを観察。Y字通路は100円ショップのA3クリアファイルで自作。
低周波治療器の使用も丈くんのオリジナルアイデア。パッドを幼虫ごと腕に巻いて電流を流す。3秒やると毎回緑色のゲロを吐く。
人工交配で幼虫を増やす。最初はうまくいかず、昆虫館で教えを乞うた。小さなプラ容器内で産卵させるのも、試行錯誤の末の結論。
国際学会では得意の英語で発表
英語の専門用語を必死で勉強し、去年京都で開かれたICEでは研究成果を英語で発表。来場者にも流暢な英語で研究内容を説明した。

育てた蝶は僕になつくんです
研究日のスケジュール
- 7:00~7:30 朝食
- 7:30~9:00 蝶や亀などの生きもののお世話
- 9:00~12:00 研究・実験
- 12:00~13:00 昼食・休憩
- 13:00~17:00 フィールドワーク or 勉強
- 17:00~19:00 自由時間
- 19:00~20:00 夕食・入浴
- 20:00~1:00 生きもののお世話(蝶、亀、ナナフシ、イモリ、クワガタなど)
- 1:00~7:00 睡眠
愛読書
『山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた』(講談社+α新書)
アゲハ蝶の好きなところBEST3
- 1位 庭でいつでも会える
- 2位 幼虫はかわいく、成虫は立派でかっこいい
- 3位 愛情を注いだらなついてくれる!
※類似の実験はマウスや線虫では前例があるものの、昆虫では初めてだそう。
※構成/石田ゆうすけ 撮影/安田健示
(BE-PAL 2025年3月号より)