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ヒッピー・ビーチを目指すフェリー旅
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マナウス発、アウテル・ド・シャンへ向かうフェリー。
今回目指すアマゾン地域のビーチタウン、アウテル・ド・シャンへは、マナウスからフェリーで36時間かかります。
随分へんぴなところにあるわりには、今回のアマゾン川の旅で知り合った外国人旅行者の間でたびたび名前が挙がった有名スポットです。そもそも海外を旅行するのに、わざわざアマゾン川へ行こうという人は変わり者が多く、若者は世捨て人風の現代版ヒッピー旅行者ばかり。アウテル・ド・シャンは、そういう人がよく集まるから、旅人たちの間では”ヒッピー・ビーチ”とも呼ばれています。
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ハンモック船は寿司詰め状態。
アウテル・ド・シャンは、マナウスとアマゾン川河口の町ベレンという二つの大都市を結ぶ主要フェリー路線の途中停車駅です。
フェリーに乗るときはハンモックを持参し、早い者勝ちで場所を選んで吊るします。乗船中はハンモックがイスとベッドを兼ねるのですが、その混雑ぶりはまさに寿司詰め状態。ちょっと揺れると隣のハンモックにコツンとあたってしまいます。
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はじめてのハンモック船におっかなびっくりのKさん。
一方、今回の旅に同行してくれるアメリカ出身のKさんは常識人で、ハンモック船初体験。
「あっ、ちょっと。思ってたより揺れるんだけど」。バタバタと布の中になんとか納まるも、この表情。ハンモックの弧にそって体が曲がった状態になってしまうのが、どうにも落ち着かないのだとか。
「うーん、できればベッド付きの個室の方が良かったなあ…」とKさん。
「そんな贅沢なもの、あるわけないじゃない。ここはアマゾンだよ」と私。でも、よく見たらありました、個室。お金で快適さを買う発想が私には抜けていたのです。
葉っぱの屋根の宿へチェックイン
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アウテル・ド・シャンの全貌。砂浜の向こうの山は人気ハイキングスポット。
到着しました、ここがアウテル・ド・シャンです。白い砂浜、色とりどりのパラソルとビーチで泳ぐ人たちの雰囲気はまさにリゾート。赤字に白の斜線が入った旗は、ブラジルのパラ州の旗です。ぽっこり膨らんだ丘も人気ハイキングコースとのことで、あとで登ってみることにしました。
ちなみにこの砂浜の名前は、イリャ・ド・アモール(愛の島)。なんだかロマンチックな地名です。
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Aフレームの簡易宿に宿泊することに。
ロマンチックなビーチタウンで私が選んだ宿はこちら。壁が屋根を兼ねたAフレーム式の簡易的な建物です。
休まる宿か、エキサイティングな宿、どちらが良いかKさんと話し合った結果、私たちの宿選びの方針はエキサイティングに決定。この宿に行き着きました。結論からいうと、エキサイティングだったのは階段の踏み板から一本の太い釘が飛び出ていること。踏むと痛いっ。
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部屋のなかは、ちょっぴり狭め。
ちなみに室内は、こんな感じ。ベッドが汚いって?ベッドシーツをかければ私は気にならない派です。警戒すべきは南京虫ですが、そういえば以前、生乾きのまま放置してしまったパンツを履いたらお尻中赤い斑点だらけになってしまいました。
それはともかく、建物は木の骨組みに葉っぱを被せた造りで、これならじっとり暑いアマゾンの熱帯夜も快適。もはや外にいるのと変わらないくらいの通気性。ということは大嫌いなアイツ、蚊も出るんです。
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最安料金は、ハンモック泊。
外にいるのと変わらないなら、もはや外で寝ても良いんじゃない?と思ったら、ほんとうに外で寝泊まりしている宿泊客を発見。この宿の最安値はハンモック泊だそうで、バイクや自転車で長期旅行している人たちが泊まっていました。
先を急ぐ旅をしていない彼らは、朝はのんびりと、昼ものんびりとハンモックに体を預けて揺られれていることが多く、その姿はまさにレイドバック。ヒッピータウンらしい、ゆったりとした空気を醸しています。
渡し船でハイキング
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渡し船は手漕ぎのボート。
さて、愛の島のハイキングコースまでは、渡し船で移動します。泳いでも行けちゃいそうな距離ですが、そこは大人しく渡し船に乗ります。
一定のリズムでオールを漕ぐお兄さん、その手元を見て私はビックリ仰天。
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オールの根元に挟まっているそれって、もしかして…?
なんと、オールを支える台の根元にビーチサンダルが挟まっていました。緩衝材のゴムとして、使い古しのビーチサンダルがちょうど良かったのでしょう。身の回りにあるもので済ませるDIYは、ワイルドでクレバーです。
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青い水と白い砂、気分はまるでカリブ!
川といわれなければまるで海と勘違いしてしまいそうな景色だから、アウテル・ド・シャンは”アマゾンのカリブ”ともいわれています。
町の周囲を流れるタパジョースという川は、アマゾン川に流れ込む支流のひとつで、その長さは2,000km以上にもなるといわれています。透明な川としては世界的に見てもかなり長さのある川で、アマゾン川下流地域の人たちの間で評判の釣りスポットです。
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アマゾン地域とは思えない透明度のあるタパジョースの水。
タパジョースは、水の中がきれいに透けて見えるほど高い透明度があります。このキレイな水が、あとで茶色く濁ったアマゾン川と合流して混じってしまうなんて、なんだかもったいない気もします。
タパジョースの透明度の秘訣は諸説ありますが、ひとつは川底の環境が影響しているといわれています。崩れやすい土の川岸を雨季の度に削りながら、粒子の細かい泥を溜め込んでいくアマゾン川本流と比較すると、タパジョースは岩っぽい川底や砂を通って流れるため濁りが少ないのだとか。
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ハイキングコースの入り口は、あまり目立たない。
砂浜を歩いていくと、茂みに割れ目が現われました。ハイキングコースの入り口です。
パノラマビューが楽しめる山頂までは、サクサク歩けば1時間足らず。しかしこの通り、地面は砂に覆われていて一歩一歩が重く、しかも日差しが強くて意外と歩きごたえがあります。
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ハイキングコースの途中風景。絶景、だけど日差しが強くてそれどころじゃないかも(汗)。
山頂へ近づいても、地面は砂のままトレイルが続きました。これまで旅したアマゾン川本流沿いの地域にはなかったサラサラした地面が、妙に懐かしさをくすぐり、ピンと思い出しました。
私がシーカヤックでよく遊びに行った神奈川県の三浦海岸のあたりを散歩すると、たまに、砂っぽい道に出ることがあった気がするのです。私にとっては、遠い昔の記憶です。ああ、日本が恋しい。
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山頂の看板。ブラジル国外の地域までの距離も書いてある。
山頂の標識には、世界のありとあらゆる場所までの距離が紹介されていました。マナウスまでは567 km、エクアドルのキトまでは2,628 km、ハワイまでは11,200 km。ハワイまでの距離となると、ほんとうに数字が正しいのかは怪しいところですが、日本までの距離はさすがに看板がありませんでした。だって、地球の裏側だもんね。
ブラジル北部の名物屋台料理”バタパ”のお味は?
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バタパの屋台で干しエビをトッピングしてくれるお兄さん。
この日の晩御飯は町の屋台でバタパを食べてみるとことに。
バタパというのは、黄色いペースト状の食べ物で、ブラジル北部でしか食べられないご当地グルメです。
ピーナツやカシューナッツを細かく潰して、パームオイル、ココナッツミルク、そして細かくちぎったパンなどと混ぜ、鍋でペースト状になるまで煮詰めた料理です。味の決め手は、細かく潰した干しエビを混ぜること。
バタパはアフリカから連れてこられた奴隷たちがブラジルで生んだ料理なのだそう。その語源は彼らのアフリカの言葉で「バイ―ヤ」。スパイシーなシーフードペーストという意味です。

黄色いペーストがバタパ、緑色はジャンブーという舌が痺れる香味野菜。
このバタパを、私は何カ所かで試してみましたが、スパイシーさよりもまろやかさが印象的でした。
ピリッとくるのは辛さではなく、付け合わせで添えられた緑の野菜、ジャンブーという香草で舌がピリピリします。トッピングの大きな干しエビも、塩漬けの干しエビなので、舌がピリピリするくらい塩っぱい。クリーミーなバタパはホッと口の中が休まる味でした。
ラスタマンが集まる夜

ワンマン・バンドの旅人が演奏したのはボブ・マーリー。人生で初めて、レゲエを美しいと感じました。
アフリカ文化との意外なつながりを感じるのは郷土料理のみならず、この町はいわゆるラスタマンが集まる町でもありました。
ラスタマンとは、ラスタファリアンのこと。その歴史は1930年代のジャマイカに遡り、奴隷として連れてこられた人たちによる思想的なアフリカ回帰運動で、菜食主義やドレッドヘアーなどの特徴で知られています。のちにレゲエ・ミュージシャンであるボブ・マーリーの影響から世界的な認知を広げ、見た目や生活様式といった点で、西洋のヒッピー文化と重なる部分もあります。
ラスタファリアンとヒッピー、すぐに思いつく共通点は、まず洗わない長髪と自然に近い生活様式。前者はアフリカが信条の根幹であり、後者は反体制的な自由主義が始まりなので、混同するのは正しくないでしょう。しかしこの町には、お酒を勧めれば「ラスタファリアンだから」と断る褐色の肌の旅人や、大きな荷物と地べたに座っている様子がなぜかカッコよく見えるヒッピー風の若者が入り交じっていて、つい両者の境目が曖昧に思えてくるのです。
彼らは、一般の人たちから明らかに浮いた雰囲気をまといながら旅をしていて、しかし旅といってもポンポンと場所を変えるのではなく、のんびりとひとつの場所でいくらかお金を稼いで、そして移動しているようなのです。
お金を作る方法は、例えば、アクセサリー作り、ジャグリング、ダンスや音楽のパフォーマンス。元からそれが特技だった人たちばかりではなく、旅をしながら身につけていった人たちもいます。
アマゾンのカリブの陽気に照らされて、「挑戦する勇気」を見せてもらいました。
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