富士塚と一体化している大田区・多摩川浅間神社で本家の富士山を一望【プロハイカー斉藤正史のTOKYO山頂ガイド File.137】
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    2025.03.31

    富士塚と一体化している大田区・多摩川浅間神社で本家の富士山を一望【プロハイカー斉藤正史のTOKYO山頂ガイド File.137】

    富士塚と一体化している大田区・多摩川浅間神社で本家の富士山を一望【プロハイカー斉藤正史のTOKYO山頂ガイド File.137】
    東京23区内、特に山手線の内側はビル街や飲食店街、住宅街ばかり。そう思っている人が多いかもしれません。でも、目を凝らせば東京都心にも「山」はあります。そんな東京の山の世界を、日本で唯一のプロハイカーである斉藤正史さんが案内します。

    FILE.137は、大田区の多摩川富士です。

    第137座目多摩川富士」

    今回の登山口は、東急電鉄田園調布駅です

    東急電鉄田園調布駅登山口。

    今回の目的地は、大田区にある多摩川富士。最寄り駅は東急電鉄多摩川園駅です。しかし、駅から山までわずか徒歩3分。それだと、さすがに記事になりません。

    どこか他に良い登山口(最寄り駅)はないかと、歩く前に地図を眺めました。そこで白羽の矢を立てたのが、前回から2回連続登場となる田園調布駅。連チャンではあるけれど、こういう機会でもないと超の付く高級住宅街なんて歩かないので、と思った次第です。

    高級住宅街の線路沿いの道を抜けて…

    ということで、早々に駅を出発して、高級住宅街に突入します。前回は分不相応な身でありながら田園調布を歩いている、ということ状況に腰が引けてしまい、あまり周囲に目が行きませんでした。が、今回あらためて歩いてみて、田園調布駅はかなりの高台にあることが実感できました。

    東急線の線路沿いに延びる坂道をゆっくり下っていきます。ゆっくり歩いているのは、何か書けるネタがないかとキョロキョロしているためですが、そこは高級住宅街、特にこれというものが見当たりません。結局、何もないまま住宅街の坂を下りきり、線路下をくぐり抜けます。

    線路沿いの坂道。写真から明らかなように僕は鉄ちゃんではありませんが、電車のビューポイントとして穴場なのかも。

    これぞという雰囲気の高級住宅街。写真の中央、奥に見えるのがカトリック田園調布教会です。

    田園調布の山手側に延びる道の入り口付近に、高級そうなお店がありました。その名も「田園調布倶楽部」。一軒家スタイルのイタリアンレストランだそうです。

    僕は学生時代、オーナーがイタリア人のイタリアンレストランでバイトしていたことがあります。なので、イタリアンレストランと聞くと興味がわきます。ただ、「田園調布倶楽部」の店頭にあったランチメニューを拝見しましたが、2,850円〜と僕にはちょっと敷居が高い感じです。それでも、一階はカフェになっていて、リーズナブルなメニューもあるようです。

    とはいえ、スニーカーにスウェットやTシャツという僕のハイカースタイルでは、お店にいわれるまでもなく入店を自主規制したくなります。ちゃんとジャケットを羽織り、気を引き締めて(気分を盛り上げて)足を運ぶのにふさわしいお店、という印象でした。

    田園調布倶楽部。

    ということで、「田園調布倶楽部」の前をそそくさと素通りし、そのまま東急線の線路沿いの道を進んでいくと、本来の(?)登山口(最寄り駅)である多摩川駅がありました。

    前回、少し触れましたが、かつて友人が多摩川園駅の近くに住んでいたことがあり、一時期よく彼の家に遊びに来ていました。が、今回あらためて調べてみて、その名も多摩川園という遊園地があったことを初めて知りました。

    現在の多摩川駅の駅前に正面入口があったという遊園地の多摩川園。面積は約5ヘクタールで、東京ドームに換算すると約1個分です(また東京ドームに換算してしまった)。この多摩川園も、田園調布を開発した田園都市株式会社が買収した土地だそうです。

    買収した土地の中で、住宅地として不向きと思われる地帯を埋め立て、田園都市に暮らしている人たちの娯楽施設として活用しようと考案したのが、渋沢栄一の息子である渋沢秀雄だとか。

    多摩川園のオープンは1925年(大正14年)。その後、入場者数の減少により、1979年(昭和54年)に閉園したそうです。何十回(下手したら何百回)と来ている多摩川駅ですが、そんな歴史的背景があったとは知りませんでした。

    東急電鉄多摩川駅。

    多摩川駅を過ぎると、庶民的な佇まいのお店が増え、個人的に少し安堵します。それにしても、多摩川駅を降りた人のうち、かなりの数の人が同じ方向に進んでいきます。もったいぶらずに書くと、皆さん、僕の目的地でもある多摩川浅間神社を目指して歩いています。

    多摩川浅間神社の入り口付近に、意外にも洋風なお店がありました。「Cafe&Bar Delight」というお店で、店頭の木製看板に「FISH and CHIPS」とあります。

    最近の僕の海外でのトレイルの主戦場はアメリカで、フィッシュ&チップスを食べる機会も少なくなっています。ただ、かつてニュージーランドを歩いたときはフィッシュ&チップスをよく食べました。なので、フィッシュ&チップスを口にすると、今でもニュージーランドのトレイルの光景がすぐによみがえります。懐かしい…。

    「Cafe&Bar Delight」はカフェバーですがランチメニューもあり、バーガーとフィッシュ&チップスがメインのようです。テイクアウトもやっているので、これからの暖かい季節は近くの多摩川の土手まで行ってハンバーガーを頬張るのもいいかもしれません。

    Cafe&Bar Delight。外観からして良い雰囲気のお店です。

    しかし、今は山行の途中。目的地の多摩川浅間神社はすぐ目の前です。欲望(フィッシュ&チップス)を振り切り、いざ(ミニチュアの)富士山へ。

    目的地は、多摩川べりのミニ富士山

    多摩川浅間神社
    多摩川浅間神社は、今から800年前の創建と伝えられています。

    1185~1190年(文治年間)、右大将源頼朝は豊島郡滝野川松崎に出陣しました。夫の身を案じた妻の政子は、後を追ったそうですが、足が痛み出し、多摩川畔で傷の治療をしました。治療中、前回紹介した亀甲山(かめのこやま)へ登ってみると、自身の本尊がある富士山が鮮やかに見えたそうです。

    政子は夫の武運を願い、身につけていた「正観世音像」をこの丘に建てました。村人たちはこの像を「富士浅間大菩薩」と呼び、尊崇したのが、多摩川浅間神社の始まりと伝えられているそうです。

    ちなみに、多摩川浅間神社には、富士講中興の祖・食行身禄の石碑がありますが、 彫られている文字はFILE133の松山・桜山でも登場した勝海舟の直筆だそうです。これまでにこの連載でめぐったアレコレがリンクしていく、個人的にうれしい展開です。

    多くの人で賑わう多摩川浅間神社。

    多摩川富士
    多摩川浅間神社の社殿は古墳の上に建てられているそうです。社殿までの参道は多数の溶岩が置かれ、富士塚のように富士登山を模しているそうで、神社自体が富士塚となっているんだとか。かなり登りごたえのある富士塚です。

    山行当日は晴れていて、山頂である多摩川浅間神社の見晴らし台からは、富士山(の頭)がくっきり見えました。

    そもそも富士塚は、気軽に富士山に足を運んだり登山したりすることが叶わなかった時代に広まった信仰です。そうしたことから、多くの富士塚では、その山頂から富士山が望めるように築造されたといわれています。ただ、住宅どころか高層ビルも建ち並ぶ現代では、山頂から富士山を見通せる富士塚が少なくなっています(そもそも富士塚が少なくなっていますが)。

    そうした中、たまたまとはいえ、この日は多摩川浅間神社から富士山を拝むことができ、とてもありがたい心持ちになりました。考えてみると、こんな見晴らしのいい富士塚は初めてかもしれません。この連載を1年半以上続けていますが、「TOKYOの山をめぐってきて良かったぁ」と、しみじみしてしまいました。

    多摩川浅間神社の山頂から望む富士山。

    さて、次回は138回目にして、いよいよ「TOKYO山頂ガイド」最終回!大田区の羽田富士塚をめぐります。

     ※今回紹介したルートを登った(歩いた)様子は、動画でもご覧いただけます。

    私が書きました!
    プロハイカー
    斉藤正史
    2012年より日本で唯一のプロハイカーとして活動。トレイルカルチャー普及のため、海外のトレイルを歩き、アウトドア媒体を中心に寄稿する傍ら、地元山形にトレイルのコースを作る活動「山形ロングトレイル(YLT)」を行なう。スルーハイク(単年で一気にルートを歩く方法)にこだわり、スルーハイクしたトレイルだけで22.000km(地球半周以上)を超える。最新情報はブログを。

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