
日本の茶業界の中で、いま注目されているお茶があります。それが「碾茶」(と書いて「てんちゃ」と読みます)。
日本の茶葉の生産量(荒茶収穫量)は年間6万8000トン(令和5年)ですが、その中で碾茶が占める割合はわずか5.6%。また、碾茶として世の中に流通しているのはたったの1%以下という「幻のお茶」。
ところでこの碾茶、さまざまな楽しみ方ができ、アウトドアにもおすすめなのです。今回は、知られざる碾茶の魅力と、碾茶を使ったアウトドアレシピをご紹介します。
海外で大人気のアレも実は碾茶から
現代の日本人が日常的に飲んでいる緑茶は「煎茶」という種類です。煎茶の場合、日光を遮らずに栽培した茶畑で収穫した茶葉を蒸して作られます。

煎茶茶園。日光が燦燦と降り注いでいます。
一方で碾茶とは、収穫前の20日以上にわたって黒い覆いをした茶畑で、日光を当てずに茶葉を育てます。

碾茶茶園。黒い覆いをして育てます。
こうすることで、渋み成分であるカテキンが減少し旨味成分であるテアニンやカフェインが増加するので、渋みが少なく旨味が凝縮された茶葉になります。じつはこれ、高級茶である「玉露」の栽培方法と同じ。「揉念」という揉みこみ工程を経たものが玉露になり、揉みこみ工程を経ず、蒸した後すぐに乾燥されたものが碾茶になる、という違いです。
そして、碾茶が石臼で挽かれると、昨今海外でも大人気の「抹茶」になります。つまり碾茶は、抹茶の原料となる茶葉なんですね。
碾茶としての流通は、戦後ほぼ全て姿を消したと言われています。それは、大正時代に機械臼が登場したことによって、碾茶が抹茶として流通し始めたから。それがいまでも碾茶が「幻のお茶」と言われる理由です。
そんな中、碾茶のさまざまなポテンシャルに注目し、碾茶の魅力発信にチャレンジしている茶業者がいます。静岡県磐田市の「お茶のかねまつ」園主の松下公彦さん。「お茶のかねまつ」は、明治時代から100年以上にわたりお茶を作り続けている老舗の茶業者です。

「お茶のかねまつ」の松下さん。
茶摘み体験・工場見学(要予約)を受け付けているほか、同社が経営するカフェで「碾茶と甘味のセット」を提供するなど、碾茶の魅力を世の中に発信している松下さん。そんな松下さんに、碾茶の楽しみ方を聞いてみました。
アウトドアにも応用可!4通りの楽しみ方
松下さんによると、自宅や屋外で碾茶を楽しみたい場合、4通りの楽しみ方があるそうです。
1通り目は、通常の煎茶と同様、「急須で淹れる」。

急須で淹れた碾茶。鮮やかな黄緑色。
高級茶の「玉露」と同じ栽培方法(葉の育て方)で作られているので、甘味と旨味が凝縮された極上の一杯が楽しめます。しかし玉露よりも軽やかな飲み心地。松下さんによるとこれは「茶葉を揉みこんでいないから」とのこと。しっかりとした旨味はあるのに、胃にずっしりくる感覚はなく、何杯でも飲めてしまいそう。
2通り目は、「家庭用のミルで挽く」こと。さきほど紹介したとおり、碾茶を挽くと抹茶になります。ということは…、ミルで挽くことにより、いつでもどこでも、できたてほやほやの抹茶が楽しめるのです。もちろん屋外でも!
抹茶を飲んでみたいなと思って缶入り抹茶を買ってみたものの、一回の使用量に比べて缶に入っている量が多すぎて、いつのまにか抹茶の風味が落ちてしまったということはないですか?筆者はあります。碾茶から直接挽けば、そのような悩みは無用。挽き立て新鮮の抹茶の香りは格別ですよ。
「家庭用のミル」は、生活雑貨店やネット通販などでさまざまな種類が売られています。お値段は2000円ぐらいから。ぜひお気に入りの一品を見つけてみてください。
そして3通り目…、これぞ碾茶の真骨頂。「そのまま食べる」。

碾茶茶葉。パリパリとした食感が楽しめます。
一般に市販されている煎茶は針のような形状で、そのまま食べることはおすすめできません。しかし碾茶は揉みこんでいないため食感が良く、そのまま食べることができます。「むしろ、ぜひ食べてみてほしいです」と、松下さん。
海苔のような風味があって、噛めば噛むほど味が出てきます。松下さんおすすめの「碾茶めし」は、茶畑の息吹を感じることができ、春のアウトドア飯にぴったり。材料となる茶葉は携帯しやすくかさばらないのも嬉しいポイントです。
そして最後に教えてもらったのが、「ドリップバッグで淹れて、茶葉はおつまみとして完食」。アウトドアに最もおすすめの飲み方です。

碾茶ドリップバッグ。開けた瞬間、濃厚な茶の香りが。
大きめのマグカップにドリップバッグをセットしてゆっくりとお湯を注げば、急須で淹れるのと同じおいしさに。そして、飲み終わったドリップバッグに調味料を加えれば、茶葉がおつまみに早変わり。レシピはのちほどご紹介します。
抽出後の茶葉を捨てる必要もないので、茶葉が食品廃棄物にならず、地球にもやさしいのです。
アウトドアにおすすめの碾茶レシピ2選
では、松下さんによる「アウトドア向け碾茶レシピ2選」をご紹介しましょう。
<碾茶めし>
①米3合、塩小さじ1と1/2、だし用昆布10cm程度で米を炊く。
②炊きたての米に大さじ2の碾茶を入れて3分程度蒸らす。
③最後に混ぜてできあがり。

香り高い「碾茶めし」のできあがり。
非常にシンプルですが、飯盒を開けた瞬間に漂う茶の香りが心地よく、春を感じられるレシピです。
<碾茶おつまみ>
①ドリップバッグを湯呑みにセットする。
②約80℃のお湯を180ml程度注ぐ。
③3分間じっくりと抽出してからドリップバッグを外し、旨味がぎゅっと詰まった最後の一滴までトングなどで絞る。
④抽出し終わった茶葉にポン酢を小さじ1/2かけてよく混ぜる。

急須で淹れるのと同様の、鮮やかな緑色。
お好みで塩を少々加えてもおいしい。
旨味がつまった茶葉を最後の最後まで楽しめる、おすすめの食べ方です。
近年注目されている、でもまだあまり知られていない「碾茶」という存在。
新茶シーズンのアウトドアでは、その魅力を深掘りしてみてはいかが?
●お茶のかねまつ
住所:静岡県磐田市岩井2043
(茶摘み体験、工場見学(要予約)、茶葉の販売あり)
https://www.ocha-kanematsu.jp/

静岡県出身。一児の母。民間企業、国際協力団体(北京駐在)などを経て、2013年から行政機関で勤務。2023年4月から台湾駐在。夫を日本に残し、「ワーママ駐在員」として小学生の息子と共に台湾で暮らしている。帰国時は主に静岡県内でキャンプ・グランピングを楽しんでいる。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員