
BOOK 01
子供も妊婦もゴクゴク 酒から栄養を摂る民族
『酒を主食とする人々
エチオピアの科学的秘境を旅する』
高野秀行著
本の雑誌社
¥1,980
俄には信じがたいタイトルだが、実在する民族の話だ。著者はとある本からその存在を知り、テレビ番組の企画として現地に赴いた。
本書はその旅を著者自身の言葉で綴る、エチオピア南部のコンソとデラシャという民族のルポルタージュだ。老若男女、誰もが酒を飲み、表紙の少年たちが持っているボトルも正しく酒(自分用でお使いではない!)。
当初、著者が一番の訪問先に考えていたのはデラシャ。彼らはパルショータなる濁り酒を1日に5ℓ飲み、僅か2歳から酒を飲み始めるとか。一体どんなふうに飲んでいるのか? 普段の生活を覗きたい著者。
だが物事は滑らかには進まない。まさかのフェイク家族、虫の大量発生、次々に問題が勃発。辺境の達人である著者の処世術に感心する。奮闘劇に醍醐味を感じつつも、情報や物事の捉え方など様々な視座も与えてくれる。
BOOK 02
近代の絶滅とは何か? 過去から未来を考える
『おしゃべりな絶滅動物たち
会えそうで会えなかった生きものと語る未来』
川端裕人著
岩波書店
¥2,860
ステラーカイギュウ、ドードー、リョコウバト、ヨウスコウカワイルカ……。
これらは18〜21世紀の間に絶滅した動物たち。全て人間が絶滅に追いやった人為の絶滅だ。今では絶滅に瀕している動物がいれば、その命を守ろうと保全策が講じられる。
しかし、かつては「絶滅」の状況が現在のように認識されておらず、希少になれば捕獲し殺して標本に残していたのだ。最後に2羽残ったオオウミガラスが捕獲される描写は生々しく、胸が締め付けられた。
本書は絶滅の歴史(残酷そのもの)を繙きつつ、人々はどのように絶滅を感じていたのかという点も描き、また最新の「脱絶滅」の研究についても触れる。
一度失ったものは二度と戻らない、痛切に実感させられる本書。「彼らはまったく生きてないことによって、永遠を生きている」アルド・レオポルドの言葉が心に刺さった。
BOOK 03
波乱万丈のエピソード 読むと心地よい自叙伝
『ヒトかサルかと問われても
[増補新版]』
西江雅之著
白水社
¥3,080
いくつもの言語を操り、文化人類学と言語学の分野で活躍した著者。今年で没後10年を迎えた。本書は著者唯一の自叙伝で、単行本未収録原稿と写真を増補したもの。
丁寧に紡がれた言葉が心地よく染み入ってくるエッセイだ。疎開先で自然児となった話から、器械体操に熱中した高校時代、そしてアフリカ大陸縦断隊を結成した大学時代などを振り返る。
アフリカ縦断隊は、学友からの誘いで参加し渉外係(通訳の役)を担った。アフリカを南の端(ケープタウン)から北の端(カイロ)まで10か月かけて車で縦断しようという計画。しかし、縦断隊は思わぬ形で終止符を打つ。
著者は日本を目指しつつも、ひとりソマリアに降り立った。著者は1937年生まれ、ビートジェネレーションやアパルトヘイトを同時進行で体験した年齢層だ。特に’60年代のアフリカは興味深い。
BOOK 04
ウミウシ沼へようこそ イロハもわかる入門書
『ウミウシを食べてみた』
中野理枝著
文一総合出版
¥2,640
派手な色合いにぬらりとしたカラダ、磯で出合えるウミウシは子供たちにも人気のアイドル的存在だ。
そんなウミウシに魅せられ、社会人を経て一念発起し研究者になった著者。ウミウシとの馴れ初めは’80年代後半、ダイビングを通じてだった。当時、ウミウシはダイバーに見向きもされない存在、図鑑を見ても「〜〜の仲間」と隅っこでひと括りの扱い。
だがウミウシ愛に溢れる著者は丹念に調べ始め、徐々にウミウシ仲間を広げていくのだった。本書は著者の個人史と、ウミウシの生態や知られざる行動を解き明かす。不思議な雌雄同体や、体の80%自切(頭だけになるコノハミドリガイ)には驚嘆! 入門書としても楽しめる。
自称運動音痴で大学も文系。だが、自身の心のままに歩む著者の姿は清々しい。終始飽きさせないエネルギッシュな筆致も愉快だ。
※構成/須藤ナオミ
(BE-PAL 2025年4月号より)