春の里山でキジの母衣打ち(ほろうち)を観よう!
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    2025.03.20

    春の里山でキジの母衣打ち(ほろうち)を観よう!

    春の里山でキジの母衣打ち(ほろうち)を観よう!
    「キジも鳴かずば撃たれまい」ということわざがあります。これはキジが古くから狩猟の対象であることと、春先のキジの生態をよく表しています。この時季、里山で、河原で、突然聞こえる「ケン、ケーン!」という甲高い鳴き声と、それに続く「バタバタバタバタバタ……」という羽音は、春の風物詩です。ちょっと早起きして、私たちの身近な環境に生きる美しく愛嬌たっぷりのキジを観察してみましょう。

    キジの「母衣打ち」とは?

    キジ(中村雅和・撮影)

    春先の突然の粉雪にも動じず、元気に母衣打ちをしていた河原のオス。

    キジは地上で暮らしている野鳥です。里山の農地や空き地、河原のほか、住宅地に隣接する造成地など、主に草が茂った広い場所を住処にしています。

    キジといえば農耕地や河原で人間に驚いて茂みから飛び立つ姿がお馴染みですが、繁殖期である4月頃になると、比較的観察しやすくなります。それは早朝からあちこちでオスの「母衣打ち」が繰り広げられるからです。

    キジ(中村雅和・撮影)

    「母衣打ち」とは、冒頭で紹介した「ケン、ケーン」と「バタバタバタ」のことで、その目的は縄張りを主張したりメスに自分の存在を知らせたりするためとされています。

    「母衣」とは、かつて武士が合戦のときに流れ矢から身を守るために鎧の背に張った布のこと。この母衣が風でバタバタと音を立てる様を指し「母衣打ち」と呼ぶようになったようです。

    キジ(中村雅和・撮影)

    早朝、広い生息地で耳を澄ますと、この鳴き声が数カ所から時間差で聞こえてきます。オスは互いに縄張りを宣言するとともに、メスに自分の存在を知らしめているのです。

    「母衣打ちモード」は観察のチャンス

    キジ(中村雅和・撮影)

    朝日に向かって鳴くオス。繁殖期は道路脇の空き地でも盛んに歩き回る。

    この母衣打ち、キジに時間をかけて少しずつ近付くと、意外に近くで観察することができます。野鳥観察の「あるある」の一つで、鳥が食事や狩りをしていたり、囀(さえず)ったりしているときは、警戒心が緩んでいることが多いのです。

    キジ(中村雅和・撮影)

    キジのオスは一度その「母衣打ちモード」になると、普段人間と距離を置くやや臆病な姿とは打って変わって悠然とたたずんで見えます。よく観察すると母衣打ちをする場所を探し、お立ち台のような場所を選んで鳴いていることに気付きます。

    そんな「母衣打ちモード」のオスを見つけたら、できれば背を低くして、そのときを待ちましょう。

    キジ(中村雅和・撮影)

    まだ気温が上がらない早朝、「お立ち台」に上がって母衣打ちを終えたキジのオス。

    静寂を待ち、いざ「ケン、ケーン!」

    キジ(中村雅和・撮影)

    キジのオスは母衣打ちの体勢に入ってもすぐには鳴きません。私が観察している生息地にはトラックやオートバイなどの自動車の排気音や上空を通過する航空機などの様々な「騒音」が溢れています。観察していて気付いたことですが、キジはこれらの音が止み、辺りが静まるときを待って母衣打ちを実行しているのです。

    したがってその甲高い鳴き声は、生息地に、より広く響き渡ることになります。まるでライブで観客の歓声が止むのを待って歌い出すミュージシャンさながらです。

    キジ(中村雅和・撮影)

    舞台が整ったそのとき、キジのオスは2度3度周囲を見渡した後、胸を張り背を伸ばして頭を精いっぱい高く上げます。そして「ケン、ケーン」と2度鳴いた後、短い翼を勢いよくばたつかせて「ドドドドッ」と大きな音を立てるのです。

    このとき体の向きが急に変わることもあります。ライバルのオスのいる方向やメスを意識しているのかもしれません。

    キジ(中村雅和・撮影)

    母衣打ちをするオス。胸の緑色や首の紫色など、光の反射によって複雑に変化する美しい羽を持つ。

    人間のすぐそばで逞しく生きるキジ

    キジ(中村雅和・撮影)

    スギナが伸びた造成地を歩く、キジのメス(手前)とオス。

    雑食性のキジは、ツクシやカラスノエンドウなどの植物や、バッタ類、チョウ類、甲虫などの成虫や幼虫などを採餌して生きています。

    夏になると草地の植物の丈が伸びてキジの姿も隠れてしまい、母衣打ちも聞こえなくなるので、その姿を観ることも少なくなります。

    キジ(中村雅和・撮影)

    そんなときは草の中で子育ての真っ最中かもしれません。一夫多妻と言われるキジは、メスがオスとの出会いを求めてオスの縄張りを回ります。

    キジ(中村雅和・撮影)

    体中の羽根を膨らませてメスに存在をアピールする繁殖期のオス。

    キジ(中村雅和・撮影)

    オス同士が出合うと激しい戦いが繰り広げられることが多い。

    開発・造成の影でキジたちの住処が減っていく

    キジ(中村雅和・撮影)

    私は主に自宅近くの造成地でここ10年ほどキジを観察してきました。周囲には昔からの緑地があるものの、その中心に位置する造成地には続々と住宅が建ち、キジが歩き回っていた草地は年々失われていきました。

    キジ(中村雅和・撮影)

    巨大な倉庫やショッピングモールが建った数年前の春、そこに出入りする車のすぐ横の小さな草地で、あるいは倉庫の脇に植えられたソメイヨシノの下で、変わらず母衣打ちをするキジの姿を見つけてホッとしたものですが、やはり最近では周囲の緑地や隣接した住宅地の空き地などの限られた場所でしか見つけることができなくなってしまいました。

    キジ(中村雅和・撮影)

    工事が始まった造成地で健気に鳴くオス。ここは現在、住宅地になった。

    「キジも鳴かずば撃たれまい」に込められた深い意味

    キジ(中村雅和・撮影)

    冒頭のことわざ「キジも鳴かずば撃たれまい」は、繁殖期のキジの姿を逆説的に捉えたものです。このことわざは、「私たち人間は、社会生活において無用なトラブルを避けるために、控えめな行動を取り、目立つことは避けるべきである」という意味ですが、当のキジにとっては、「ライバルのオスと対峙し、銃を持った人間の目に姿を晒すリスクを冒してでも、繁殖のために、己の存在を誇示する必要がある」ということです。「鳴かずにはいられない」という訳です。

    そんなキジのオスの心中を想像しながら、母衣打ちの観察を楽しんでみてはいかがでしょうか。

    野鳥観察・撮影のマナー

    キジ(中村雅和・撮影)

    農地や造成地は私有地です。柵などで仕切られていなくても、畑や田んぼの畦道などに入ることはやめましょう。

    また、農地の周囲の道路も私道であることが多いです。周辺の住民が日常的に利用している道であっても、農作業や関連する車両の通行の妨げにならないよう気を付けましょう。

    中村雅和さん

    野鳥好き編集者

    幼少期から生き物や鉄道に親しむ。プロラボ、住宅地図会社の営業マン、編集プロダクション、バス運転士、自然保護団体職員などを経てフリーの編集者に。

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