運河沿いのトレイルを歩きながら目にすること、感じること【プロハイカー斉藤のナショナルシーニックトレイル踏破レポ vol.16】 - 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2025.04.15

    運河沿いのトレイルを歩きながら目にすること、感じること【プロハイカー斉藤のナショナルシーニックトレイル踏破レポ vol.16】

    運河沿いのトレイルを歩きながら目にすること、感じること【プロハイカー斉藤のナショナルシーニックトレイル踏破レポ vol.16】
    トレイルの本場であるアメリカには、連邦政府によって認定されたトレイル(ルート)がいくつかあります。そのうち「シーニックトレイル」と呼ばれるものが全11ルートあり、総距離は約17,800マイル(約28,646km)におよびます。

    日本で唯一のプロハイカー・斉藤正史さんは、そんなシーニックトレイル全11ルートの踏破に挑戦中です。2024年9月から10月にかけては、アメリカ東部の「ポトマックヘリテージトレイル」と「ニューイングランドトレイル」に挑みました。斉藤さんによるアメリカのトレイルの最新レポート第16回をお届けします。

    ポトマックヘリテージトレイル編 その16]

    休暇明けで、4日ぶりに「本線」復帰

    前日までの4日間は、OFF TRAIL=トレイル外の行動でした。休み明けは心機一転といきたいところですが、どうも心も体もお休みモードが抜けません。

    しかし、OFF TRAILの間にいろいろ情報を得ることが出来ました。もともと次の街までは、4日で歩く予定です。C&O運河トレイルで出会ったバイカーに、次に泊まるハンコックという街に安い宿があることを教えてもらいました。

    どうやら自転車屋さんの敷地にあるらしく、1泊15ドル程度。外観は屋根があって三方は壁、残り一面はネットで覆われていて、外から見るとハチの巣みたいな感じらしい。C&O運河トレイルを走るバイカーにはよく知られたバンクハウスだそうです。

    ハンコクックでは、日本にいる時点でモーテル6(アメリカのモーテルチェーン店)にアゴタ経由で予約を入れていました。あらためて予約を確認すると、最安値なのに前日までキャンセル無料でした。

    ということで、とりあえずモーテル6をキープして、急いでバンクハウスに問い合わせをしたのですが、出発するまで返事がありませんでした。仕方なく、そのままに歩き始めていました。

    ハンコクックまでの4日間、電池を持たせなければなりません。休憩時間以外は電源を切っているので、バンクハウスの件でずっとやきもきしていました。

    実は、C&O運河トレイルの次のトレイルでも、ちょっとした問題がありました。予定では、1カ所だけ、1日で30マイル(48km)以上歩かなければならない日がありました。なぜなら、そのときに通過する町に宿がなく、ルート上もキャンプ場やシェルターがありません。

    どこかでステルスキャンプするしかないのですが、私有地が多いエリアなのでステルスキャンプも難しい見通しです。だから、少し無理をしてでも1日に長距離を歩く予定を組んでいたのです。

    このエリアについても、バイカーからあまり知られていないホステルがあると情報をもらったのでした。検索してみると、ホームページはないものの、フェイスブックのページがありました。こちらのホステルにもすぐ連絡し、折り返しの返事を待っていました。

    この連載のvol.3でも書いたように、ロングトレイルに挑む際は出発前、日本にいる段階できちんと時間をかけて計画を立てます。

    でも、当然ながら現地に来てみると計画通りにいかないことも少なくありません。結局は計画を見直したり、宿泊先を確保するための連絡などにバタバタと追われることになるのです…。

    数カ月に及ぶこともあるロングトレイルの計画の立て方【プロハイカー斉藤のナショナルシーニックトレイル踏破レポ vol.3】

    The Potomac Heritage Trail : MILE 84.2

    翌日、無事にどちらの宿とも連絡が取れました。ホッとしたのもつかの間、夕方、到着したキャンプ場では蚊と蛾に出迎えられました。

    しかも、夜中から雨が降り、ビショビショの朝。いいことばかり続かないよなとぼやきつつ、トレイルを進んでいきます。

    キャンプ場での貴重な晴れ間。靴やギアを乾かします。

    しばらく歩くと「ダム4」がありました。ポトマック川には 、もともと運河に水を流すために建設された計7 つのダムがあります。ダム4は、ハーパーズ・フェリーのすぐ上のマイルポスト 62.3 までの 22 マイルの運河に水を供給していたそうです。

    ダムの役割は、運河に水を供給するだけではありません。ダム 4には、1913 年に重力式水力発電が建設されました。高さ 20 フィート(6m)、幅は約 800 フィート(約234m)あるそうです。

    ダム4。

    水力発電の小屋、かな?

    ダム4を抜けると、トレイルはポトマック川に近づきます。路面はコンクリートに変わり、対岸には映画で見るようなプライベートの船着き場がある高級住宅街かリゾート地のような家並みが見えます。

    向こうからからは、水辺を歩くハイカーはどう見えるのでしょうか。視界に入っていないのかもしれませんが…。

    対岸には船着き場付きの高級リゾート地が見えます。

    The Potomac Heritage Trail : MILE 92.5 

    先ほどまでのコンクリートの道を過ぎると、いつもとデザインが違うマイルポストが現れました。何だろうと見ると「MIDPOINT」とあり、92.25マイル(約148km)と記されています。「おお、そんなに歩いたのか!」とは思いませんでした。

    このMIDPOINTは、あくまでもC&O運河トレイルの「中間地点」。ポトマックヘリテージトレイル全体からすると、まだ3分の1に満たない距離でしかないのです(C&O運河トレイルは、ポトマックヘリテージトレイルを構成するトレイルのひとつです)。

    C&O運河トレイルの「MIDPOINT」、MILE92.5地点です。

    C&O運河トレイルを歩いていると、操業を停止した廃工場やリゾート地なども目にすることがあります。以前にも少し触れたように、C&O運河トレイル沿いには国立歴史公園が広がっていますが、その公園の周囲には多くの私有地があります。

    初期のシーニックトレイルは、ウィルダネス(原自然)に設けられていて、さまざまな州立公園や国立公園を通過します。でも、C&O運河トレイルはその名の通り運河をたどるため、どうしても街が近く、必然的に私有地に隣接したエリアを通らざるを得なかったのかもしれません。

    パッと見は立派ですが、ウィリアムポートにある廃工場です。

    The Potomac Heritage Trail : MILE109.6 

    C&O運河にはいくつものロック=閘門が設けられ、ロックを管理する閘門番のための住宅=ロックハウスが復数あります。このロックハウス49は、C&O運河トレイル沿線で泊れるロックハウスです。

    ここの管理人だったのはデントン・ジェイコブスという人物で、ロック50、49、48、47のすべてを管理していたそうです。4つのロックが歩いてすぐの距離にあったからですが、狭いエリアにたくさんのロックがあったのですね。

    彼は副業で食料品の販売など手広く商売を行い、船頭にこっそり酒類も売っていたそうです。

    ロックハウス49。

    しばらく歩くとダム5があったのですが、残念ながら一帯は工事中。ちょっと分かりにくい迂回路を歩いていると、2人のバイカーと出会いました。

    「どっちに行くの?」と声をかけられ、しばらく立ち話をします。僕が歩いてポトマックヘリテージトレイルをスルーハイクすることに驚いたのか、一緒に写真を撮ることになりました。僕もスマホを渡し、ついでにパシャリ。

    お気づきの読者もいるかもしれませんが、出発して11日、いまだポトマックヘリテージトレイルを歩く「ハイカー」に出会っていません。出会ったのは、自転車にまたがった「バイカー」ばかり。ポトマックヘリテージトレイルでは、徒歩のハイカーが希少種なのでしょうか…。

    工事中のダム5。

    陽気なバイカーと記念撮影。

    C&O運河トレイルの無料のキャンプ場には、①ポンプ式の水 ②仮設トイレ ③ペット用の汚物入れ(ビニール袋)が必ず設置されています。

    それらはいずれも、バイカーやハイカーが利用しやすいようにトレイルのすぐ脇に設置されていることが多いです。入り口に①~③があり、奥に行くとキャンプ場になっているイメージです。

    たいていポンプ、トイレ、汚物入れが1カ所に固まっています。

    トイレは3週間に1度くらい清掃されているので比較的清潔で、トイレットペーパーがないなんてこともまずありません。また、ファイヤーサークル(焚火をする場所)やピクニックテーブルも設置されていることが多いので、ウィルダネス(原自然)を歩くトレイルより快適にキャンプができます。

    だいたい5マイルごとに無料のキャンプ場が設置されているので、計画が立てやすいのもうれしいポイントです。ただ、先述したように周辺に私有地が多いので、ステルスキャンプは事実上できません。

    一般的に、アメリカのトレイルでも初期につくられたルートは、山野の自然の中や荒野を歩くワイルドな道のりが多くあります。

    それに対し、C&O運河トレイルは、自転車も通れる整備された歩きやすいルートであり、街の郊外につくられた道のりという印象です。よく整備されたキャンプ場が一定間隔であるし、食料補給にも全く困りません。

    観光地も多く通るので、「トレイルを歩く」というよりは「歩き旅」、歩いて旅行をしている、という感じです。

    補給ポイントでもある4日ぶりの街、ハンコックに行く前日。街までわずか14マイル地点ですが、リッキング・クリーク・ハイカー・ビカー・キャンプサイトでテントを張りました。

    早めに着いたのでちょっと散歩をしていると、リッキングクリーク水路がありました。C&O運河沿いには6 つの単アーチ水路橋があるのですが、その中でもリッキングクリーク水路は初期につくられたもので、C&O運河の水路橋の中では最長だそうです。

    リッキングクリーク水路。

    先にテントを張っている僕を見て、何人かのバイカーは「スルー」してきました。アメリカ(のトレイル)にはさまざまな人種がいます。

    僕と一緒にキャンプをしたり写真を撮ろうと積極的にコミュニケーションを取ってくれる人もいますが、一方でこちらがあいさつしても返さなかったり目も合わさなかったりする人もいます。まあ、アメリカでは僕は「外国人」ですし、それほど気にすることでもありません。

    穏やかなポトマック川。

    ポトマックヘリテージトレイル公式サイト

    ナショナルシーニックトレイル踏破レポのバックナンバーはこちら

    私が書きました!
    プロハイカー
    斉藤正史
    2012年より日本で唯一のプロハイカーとして活動。トレイルカルチャー普及のため、海外のトレイルを歩き、アウトドア媒体を中心に寄稿する傍ら、地元山形にトレイルのコースを作る活動「山形ロングトレイル(YLT)」を行なう。スルーハイク(単年で一気にルートを歩く方法)にこだわり、スルーハイクしたトレイルだけで22.000km(地球半周以上)を超える。最新情報はブログを。また、BE-PAL.netにて「TOKYO山頂ガイド」を連載中。

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