
行先はクルマで3時間弱の隣国クロアチア。古城の足もとにテントを張れるKalnik(カリニック)という村へ。目的はもちろんロッククライミング。しかし帰宅して写真を整理してみると、お酒とお肉の写真ばかりが残っていました…。
お酒好きハンガリー人とのキャンプ!

キャンプ地に到着して早々、パリンカという蒸留酒を飲みはじめた。
キャンプ場に到着してクルマから荷物を降ろすと、今回のキャンプ旅のリーダーのピーターさんがクーラーボックスからおもむろに瓶を取り出しました。それは果物から作られる透明な蒸留酒で「パリンカ」というお酒でした。日本でいうところの焼酎みたいな、おじさんたちはみんな大好きな強いお酒です。
テントも張り終わらないうちから、ショットグラスを手に持ちみんなで乾杯!
大学留学のためにハンガリーに引っ越してから2年が経ちましたが、ハンガリー人とキャンプ旅行に出かけるのは今回が初めて。
ロッククライミングが目的と聞いていたから、きっとみんな真剣に岩と向き合うのだろうと。私は不真面目に思われないよう、あえてお酒は持参しませんでした。
しかし、ハンガリー人たちは想像以上にお酒好きで、行きの車中でも盛り上がる話題といえばお酒の話。普段レストランで働いてるという参加者の一人が、店で使わないワインをなんと6本も持って来たというのです。

「TAKLER」という銘柄のハンガリー産ワイン。
赤ワイン、白ワイン、ロゼ、よりどりみどりのセレクション。
先ほど登場したパリンカだけでなく、ハンガリーではワインの生産も非常に盛んなのだそう。
ヨーロッパではお酒はとても身近な飲み物で、伝統的に自家製のお酒を作る人もいれば、大学の一般教養科目としてワインの授業があるほどです。私もテイスティング付きで受講してみました。ワインの違いを語れるような肥えた味覚と嗅覚はないようだけれど、ヨーロッパのワインは、なにを飲んでも大体美味しいという結論に至りました。

おつまみは自家製のサラミと燻製ベーコン。
ちなみに最近のワイン界は渋い赤ワインではなく、軽めのものが人気だそう。そのなかでも今回登場した白ワインは、普段見慣れているものより色が透明でした。理由は、樽で熟成していないから。ワインというよりも、まさにフレッシュな果実酒といった雰囲気です。
おつまみはサラミと燻製ベーコン。脂身の多い肉料理には赤ワインが定番だと思いがちですが、酸味のある白ワインも脂っぽさをあっさり中和してくれて相性良し。
ハンガリーではお肉の保存食を手作りする家庭もあるそうで、このサラミと燻製ベーコンも自家製のもの。スーパーで買うものより脂身がまろやかに熟成していて、ほどよい塩気が上品な味わいでした。
焚火で煮込む羊のホワイトシチュー

今回のキャンプリーダー、ピーターさんが作る羊のホワイトシチュー。
今回のキャンプ飯のメインディッシュは、ピーターさん特製の羊のホワイトシチューです。
テント近くの岩場へロッククライミングに行ったのに、昼過ぎにはピーターさんだけ姿が見えなくなってしまったのですが、夕食の準備をするために先に一人で下山していました。
丈夫そうな金属製のトライポッドを立てて、魔女みたいな大きな鍋を吊るし、焚火で直接熱します。

シチューに白ワインを贅沢に注ぐ。
主な具材は骨付き羊肉、ニンジン、ジャガイモ、玉ねぎ、グリーンピース。これらをコンソメスープで煮込みます。
味のこだわりは、白ワインをドバドバっと贅沢に加えること。ルーに頼らない手作りホワイトシチューというと、材料がたくさん必要で調理も大変そうなイメージがありましたが、ピーターさんの作り方は豪快そのもの。まさにキャンプ飯。

刻んだ新鮮な香草は、ホワイトソースに混ぜます。
小さな器に、細かく刻んだ香草が入っていました。シチューの白さととろみの素となるホワイトソースに混ぜるのだそう。
焚火と金属の鍋。昔のヨーロッパの人たちも、こうやって野外で料理をしていたのかなと想像すると、なんだかロマンを感じます。

醗酵乳製品「ケフィア」を使用して、炒めないホワイトソースを作る。
ホワイトソースの作り方はとっても簡単。先ほどの香草に、シチューの煮汁と、ケフィアと呼ばれるヨーグルトよりも重たい醗酵乳製品、そして、少量の小麦粉を加えて混ぜます。
小麦粉を牛乳やバターと炒めながら混ぜて作るホワイトソースと比べて、火力の調整ができない野外調理でも焦げる心配がない、お手軽なホワイトソースです。これは是非、お家でも真似したい!

焚火の上に吊り下げられた大きな鍋のなかで、シチューがグツグツ。
大勢で食べるから、乳製品や小麦粉が食べられない人のために、ホワイトソースを混ぜる前に少量を別の鍋に分けておきます。

羊のホワイトシチューの完成です。とても美味しい。
これが完成したシチュー。羊肉のクセのある臭いは香草のおかげで消えていて、ほどよい脂っぽさがシチューをリッチな味にしていました。
みんなが食べ終わって、鍋の底に忘れ去られたわずかに肉が残った骨の部分をしゃぶりつくのも、たまらなく美味しい。やっぱりキャンプには、肉だよなあ。
ハンガリー人は、カリカリに焼いた脂身が好き

焚火を囲んで、串に刺した肉を焼く人もいました。
ベジタリアンやビーガンなど、様々な食の価値観があるなか、ハンガリーは伝統的にお肉をたくさん食べる食文化があります。
それは海がない内陸国であることに加え、ハンガリー人のルーツであるマジャル人が遊牧民であったことも関係していて、やっぱり日本人の私と比べると体質的に脂身をたくさん食べられるようなのです。
焚火といえばマシュマロだろうと、スーパーを2軒ハシゴしても品切れで買えなかったのですが、そもそもキャンプでマシュマロを焼くことは定番ではないのか、最終的には15人以上のハンガリー人が集まって焚火を囲ったのに、マシュマロを持って来た人は一人もいませんでした。
その代わりに、多くの人が持参したのが、ベーコンの塊。ワインのおつまみで食べた燻製ベーコンと違って、これはしっかり火を通して食べるのだそう。
マシュマロを焼くみたいに長い串にベーコンを刺して直火で炙るのです。

厚切りベーコンは、切り込みを入れて焼くのがハンガリー流らしい。
まとめて調理するときは、肉をトレーに並べて網の上に置きます。トレーで焼くときも、串で焼くときも、共通しているのは脂が多い面に等間隔に切れ込みを入れること。
お肉の焼き加減は、とにかくウェルダン。じっくり時間をかけて焼きます。脂が垂れそうになったらパンを持ってきて受け皿のようにして、美味しい肉の脂をパンに染みこませて食べたりもします。
お肉は、表面がカリカリに焦げる直前まで焼けたら食べごろです。

カリカリに焼けて、タコみたいに広がった厚切りベーコン。
厚切りベーコンの焼き上がりはこんな感じ。切れ込みに沿ってお肉が広がって、まるでタコみたい。日本ならタコさんウィンナー、ハンガリーならタコさんベーコン。ただし現地のベーコンは日本のものと比べると、まさに保存食で塩分が強め。1枚でもパンがたくさん食べられます。
肉と脂のかなりヘビーな食事ですが、そこにカマンベールチーズのようなものを塊のまま火で炙って、ベーコンとチーズの塊をのせたヘビー級のサンドイッチを作る人もいました。
とても美味しそうだけど、一食でそんなにたくさん脂分を摂取したら、きっと私のお腹は翌日消化不良になること必至…。
胃もたれ対策は玉ねぎで

脂っぽいおつまみのあとは、玉ねぎをかじって口をスッキリ。
脂ものばかり続くと、口をリセットさせたくなるのは、ハンガリー人も同じらしく、お口直しに玉ねぎのスライスが用意されました。薄切りではなく、四等分の豪快なスライス。かなり辛いけれど、お肉で脂ぎった口には効果絶大なのです。

焚火とワイン。
一日の終わりは、焚火を囲ってみんなでワインを飲みます。
「ジョアナは日本ではどんな食べ物が好きなの?」
尋ねられて、私も頭の中に浮かんだのはハンガリーにはない海の幸ばかり。だから咄嗟に、こう答えました。
「私はご飯より、お酒が好きだよ」
「アハハッ!そりゃそうだね、飲みっぷりを見ればわかるよ!」
お酒と焚火、それだけあれば天国です。
