探検家・関野吉晴さんが、時代に風穴を開けるような「現代の冒険者たち」に会いに行き、徹底的に話を訊き、現代における冒険の存在意義を問い直す──BE-PAL4月号掲載の連載第45回(最終回)は、サバイバル登山家 服部文祥さん、写真家 石川直樹さんとのスペシャル鼎談です。
自給自足の山旅を続ける服部さん、8000m峰全14座の真の頂上に立った石川さんとともに、関野さんが、「冒険とズル」について考えます。
関野吉晴/せきの・よしはる
1949年東京都生まれ。探検家、医師、武蔵野美術大学名誉教授(文化人類学)。一橋大学在学中に探検部を創設し、アマゾン川源流などでの長期滞在、「グレートジャーニー」、日本列島にやってきた人びとのルートを辿る「新グレートジャーニー」などの探検を行なう。
服部文祥/はっとり・ぶんしょう
1969年神奈川県生まれ。登山家、作家。山岳雑誌『岳人』編集者。1996年K2登頂。その他、冬の黒部などで複数の初登攀記録を持つ。1999年から、装備と食料を極力持ち込まず身一つで挑む「サバイバル登山」を実践している。近著『今夜も焚き火をみつめながら』(ネイチュアエンタープライズ)ほか著書多数。
石川直樹/いしかわ・なおき
1977年東京都生まれ。人類学、民俗学などの領域に関心を持ち、ヒマラヤの高峰、辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら、作品を発表し続けている写真家。2011年『CORONA』(青土社)により土門拳賞、2020年『EVEREST』(CCCメディアハウス)、『まれびと』(小学館)により日本写真協会賞作家賞を受賞。本年2月、写真集『K2 Naoki Ishikawa』(小学館)を上梓。
どこまでがフェアでどこからがズルなのか?--線引きは、自分に嘘をついていないかどうか
石川 (フェアかズルか)どこで線を引くのか? 突き詰めていくと、どう生きるか、どう真摯に誠実に自分と向き合って生きていくかという話になっていくのではないかと僕は考えています。要は自分に嘘をついていないか。逆にいえば、いろいろな薬を使ってでもどうしても登りたいという人を面と向かって批判できないとも思うんです。
服部 じつは僕、趣味で陸上やっていて、このあいだ地域の駅伝に出場したんです。本当なら出場しないはずだったのですが、チーム内に故障者が出たため、急遽走ることになって……それで、ポチったんですよ。アディダスのカーボンプレート2枚入りで厚さ5cmの厚底シューズ。
ちなみに世界陸連の規定だと、「靴底の厚さは4cmまで、カーボンプレートは1枚まで」なんですけどね。で、練習で履いてみたら、同じスピードで走っているつもりなのに1kmで5秒ぐらい速くなったんです。
石川 その靴、ドーピングじゃないですか?(笑)
服部 それだけじゃないぞ(笑)。1週間ぐらい前からカフェイン断ちして、40分前に50mg入れるとパフォーマンスが5%上がるっていうからやってみました。さらにさらに龍角散。
石川 龍角散?
服部 龍角散は気管支を拡張する効果があるんですよ。
関野 山ではズルしないのに陸上ではめちゃくちゃズルするんですね(笑)。
服部 「服部が出たから負けた」とは絶対になりたくないじゃないですか。練習してかなり追い込んでいたけど、さらに1秒、2秒を手に入れるためなんです。その陸上のときの自分の気持ちを振り返ると、キセノンガスとかいろんな薬を使うのもわかる気がします。
石川 結果をひけらかすのではなく、どういう思いで登ったのかを正直にいうことが大切だと思うんです。どこからがズルかという線引きは、嘘をつかず、自分と対話しながら導き出すしかないのではないでしょうか。
関野 真の頂上問題でいえば、メスナーは8000m峰をすべて無酸素で登っているけど、最近の検証でアンナプルナの真の頂上には立っていないとされました。でも、たとえそうだとしても彼の登山家としての業績は全然色褪せないと思います。
石川 そういうことなんです。真の頂上問題を知ってしまった今、手前までで「登頂した」といって戻ってきたら、それは嘘をついていることになるからダメだと思います。でも、メスナーはズルして手前から帰ったわけではありません。死力を尽くして登り、本当に自分は登頂したと思って戻ってきた。それは本当に素晴らしいことです。自分に嘘もついていません。
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関野 『現代の冒険者たち』は今回が最終回です。4年間45回続けてきた中で、さまざまな冒険者の話を聞いてきました。最年少は1995年生まれのスピアフィッシャー・小坂薫平さんでした。小坂さんは、素潜り、手銛で100㎏超えのイソマグロを仕留めるという前人未到の挑戦を続けています。
そのためにフリーダイビングを始め、素潜りで約70m潜れるようになり、単純な息止めなら6分30 秒ぐらい止められるそうです。ひとつのミスが死に直結する海の中で、イソマグロと対峙する――普通の人にとってはどうでもいいこと、しかもお金になるわけでもないことに命を懸けているんです。
いろいろなタイプの冒険者がいましたが、共通するのはこの小坂さんのように経済的な利益のために生きていないということでした。経済は二の次で、好きなことを本気でやって生きている人ばかりでした。
服部 日本はなんだかんだいっても十分豊かで、食うに困りませんからね。
関野 たしかに、冒険・探検やってて、「お金がない」とはいうものの、世界的に見れば冒険・探検ができるのは経済力がある国の人間だけです。
服部 僕たちは日本の国力に助けられてやっている。全然サバイバルじゃないですね。日本人であることがズルだった(笑)。
関野 だったらなおさら、経済的な利益ではなく、欲望を違う方向に向けて生きていけばいい。だって、お金儲けなんかより面白いことはいくらでもあるじゃないですか
服部 僕たちにとっては…
石川 間違いなくそうですね。
関野 世界には面白いことがいっぱいある。もっと冒険しましょう。
この続きは、発売中のBE-PAL4月号に掲載!
公式YouTubeで対談の一部を配信中!
以下の動画で、誌面に掲載しきれなかったこぼれ話をお楽しみください。