第二回「玄関を開けたら、サギが死んでいた」
ある日の夕方。買い物に出ようと玄関の扉を開けたら、
サギが死んでいた。
いったん扉を閉めて、気持ちを落ち着かそうと部屋にもどり、温かいお茶を飲みながら考えた。
「サギだよなぁ、玄関で死んでるやつ。ずいぶんでかいな。1m以上はあるぞ。朝、外でギャーギャーうるさかったけど、それかなあ…。かなり傷をおっているようだし、猫かハクビシンにやられたか? それともカラスに襲撃された?」
「まあ、いいや。犯人探しより問題は、あのでっかいご遺体が、首ぐるんちょしたまま玄関にあるってことだ。なんとかせねば。それこそ野良猫が来たら玄関が無惨なことになるぞ」
そもそもサギは、コウノトリ目サギ科に属する鳥を総称して「サギ(鷺)」と呼ぶ。田んぼなどの水辺を主な住みかとし、長い首とくちばし、長い脚を持ち、飛ぶときに首をS字に折り曲げるのが特徴だ。
日本にいるサギは19種類。そのうち体全体の羽が白いダイサギ、チュウサギ、コサギ、アマサギを総称して「シラサギ(白鷺)」と呼ぶ(日本博物館協会資料より)。ダイサギ/全長約90cm。首とくちばしが長く、白色のサギでは最大。夏はくちばしが黒く、冬は黄色。
チュウサギ/全長約68cm。ほかの白色のサギと比べて首が太くて、くちばしが短め。
コサギ/全長約61cm。脚の指が黄色いのが特徴。くちばしは一年中黒い。夏には白色のサギでは唯一、頭からかざり羽が出る。
アマサギ/全長約50cm。オレンジ色のサギ。秋には白色になる。渡り鳥のため、冬には見られないことが多い。
玄関前にいるサギの種類は傷が多くてよくわからないが、大きさはチュウサギクラス。全長70cm近くはある。処理するためには役場に電話をして取りにきてもらうのが通常。だが、今はすでに役場が終了している時間。
「明日、電話しよう。それまでゴミ袋に入れて、動物にやられないようにしておかなきゃ」そこで、40ℓのゴミ袋を用意し、手に軍手をして再び玄関の扉を開けた。
「でかっ。でもやらなきゃっ!」勇気を奮ってサギの2本の脚を持った。
「脚、太っ! しかも重っ!」そして、ゴソゴソとゴミ袋の中へ!
えっ!! ダメだ。脚が出ちゃう。サギでかすぎ。こうなったらギューギュー押し込むしかない。え~ん、なんか恐い…。いやっ大丈夫、できる! そう、フライドチキンのでかいやつと思えばいいのだ。
こうして、無事にゴミ袋に押し込むことに成功! あとは明日、役場に電話すれば、めでたしめでたしだ。
そして、その日の夜、ぐっすり寝ているときのこと。突然、バサっバサっと、何かがはじけるような大きな音がして飛び起きた。
「な、何?!」しばらくじっと耳をすますと…、
「ニャー」えっ! も、もしや! 玄関を開けてみると、
「八つ墓村じゃ~~~~ん!」
袋が小さ過ぎて、どうやら結び目がとれてしまったようだ。間一髪で猫にはやられずにすんだが、外に置いておくのは危険。
「しかたがない…」 その日の夜は、八つ墓村もどきのサギと一緒に、就寝することとなった(とほほ)。
「今度90リットルの大きなゴミ袋を買っておこう。用意周到。もう、こんな大きなサギ(詐欺)に会いたくないからね」
自然暮らしは、つねに生き物たちの「生死」と隣り合わせにある。間近に見て、触れて、感じて、考える。そこから学ぶことは、はかりしれないほど大きい。
私は、あの死んだシラサギを手で抱えたときの感触を、多分一生忘れないだろう。
手に持ったときの、あのずっしりとした重さ。
それは、テレビや雑誌や図鑑の中では知ることができない、自分だけが知りうる感覚。
その重さこそが、
“命”の重さなのだ。
次回は「火を操る道具」です。
お楽しみに!
かつてサハラ砂漠をラクダで旅し、ネパールでは裸ゾウの操縦をマスター。キューバの革命家の山でキャンプをし、その野性味あふれる旅を本誌で連載。世界中で迫力ある下ネタと、前代未聞のトラブルを巻き起こしながら、どんな窮地に陥ろうとも「あっかんべー」と「お尻ペンペン」だけで乗り越えてきたお気楽な旅人。現在は房総半島の海沿いで、自然暮らしを満喫している。執筆構成に『子どもをアウトドアでゲンキに育てる本』『忌野清志郎・サイクリングブルース』『旅する清志郎』など多数。本誌BE-PAL「災害列島を生き抜く力」短期連載中(読んでね)。