先週から始めたBE-PAL.NETでの『今週のメダカ』、vol.2で何を出そうか? 意外に悩んだりする。楊貴妃メダカや幹之メダカはいずれは掲載するポピュラー品種なのだが、連載初期段階でのインパクトが弱く、「さて、何にしよう?」と考えてしまったのである。
その時に、「そうだ!」と決めたのが、“紅龍(べにりゅう)”、“紅観音(べにかんのん)”そして、“紅龍錦(べにりゅうにしき)”であった。見た人全ての目を惹きつける朱赤色を持ったメダカで、赤色の濃さ、そして厚みが素晴らしいメダカである。
『観音めだか』は、京都府京都市在住の山田広美さんの屋号である。山田さんが2008年より改良に着手、強く濃い朱赤色を持った透明鱗三色の一系統に完成されたものが“紅観音”である。“紅観音”の見せる色合いは、朱赤色というより、琥珀系から出てくる濃い紅赤で、山田さんが“ローズレッド”をメダカに表現しようと厳しい選別淘汰によって出来たメダカである。
その“紅観音”と紅薊×乙姫を交配した系統をF2まで進められ、そのF2に再度、“紅観音”を掛け戻したものが、“紅龍”、“紅龍錦”である。この“紅龍”を作ろうと山田さんが思われたのは4年前のことだそうで、紅薊×乙姫から生まれたメダカを見て、黒色が体を巻く雰囲気から、龍のイメージをメダカに表現しようと交配を進められたと言われる。交配したものの中で、“紅観音”の血統を強く表した三色表現のものが“紅龍錦”と名付けられた系統である。「“紅龍”を作る過程で派生してきた」“紅龍錦”であるが、今後は多色のメダカ好きの一つの目標になっていく系統だと感じる。
着物の帯の図柄を描く仕事をされておられた山田さん、「素材を見つけると、それで作品を作りたくなる」と言われ、メダカの飼育に関しても、そもそも盆栽や水鉢に興味を持っておられたことがメダカ飼育につながったそうである。「その鉢に植物を植えた小品盆栽を作っていたことがきっかけ」だったと言われ、その水鉢の中に自然に生えてくる綺麗な緑色の苔を見ているうちに、「緑色の反対色の赤色に興味を持った」ことからより赤いメダカを追求しての交配、選別淘汰から、メダカの世界に深く関わるようになられたそうである。
メダカの改良は誰でも簡単に楽しむことは出来る。しかし、「こういったものを作り上げたい!」というイメージを持って取り組んでいく人は少ない。山田さんの場合、京都の自然、そして、お住まいが京都の多くの芸術家が住む光悦芸術村と呼ばれる地区だったことから、「桜と紅葉」から感じられた「淡さと深さ」が山田さんの感性を磨き上げたのであろう。メダカ飼育の趣味はどちらかというとインドア的な部分が強いのだが、“紅観音”、“紅龍”をイメージされた部分には、アウトドアでの経験、目に映った自然美が山田さんの大きなヒントになったことは間違いない。
改良品種を「新しい表現を見せるものを作る」というテーマで作られる方が多いのだが、「自分のイメージする作品に仕上げる」という着眼で進められるものも改良なのである。「何を作るにしても、イメージとしては色は常に頭の中にある」と言われる山田さん、そして、色柄だけではなく、メダカに求める妥協をしない体形作りも加わり、多くのメダカ愛好家に注目される“紅観音”、“紅龍”が作られたのである。
観音めだかさんのブログは、http://blog.kannon-medaka.com
美しい“紅観音”、“紅龍”をブログでお楽しみいただきたい。
写真/山田広美 文/森 文俊