
お値段1000万円越えなのでなかなか手が届かない高級PHEVなのですが、最新のGoogle OSを使った秀逸なナビなど、クルマの未来を感じさせてくれる新技術がふんだんに盛り込まれていて、わくわくできる一台でした。デザインもすばらしいのですが、ただひとつだけ気になった点もありました。
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価格1000万円超えの北欧発SUV「XC90」

ボルボの大型SUV「XC90」にマイナーチェンジが施されたので、借り出して都内から埼玉県小川町の「分校カフェ」を往復しました。
XC90には3グレードあり、価格は1019万円から1294万円とすべて1000万円を超えている高級車です。試乗した「XC90 ウルトラ T8 AWD」は最上級版で、パワートレインはPHEV(プラグインハイブリッド)を搭載していて、価格は1294万円。

ボルボは数年前に経営上の目標を「2030年までに全車を完全EV(電気自動車)化する」と設定して話題を呼びましたが、「完全EV化は2040年までに行う。2030年には90%のボルボ車をEVとPHEVに」に変更しました。“後退した”と評されましたが、“現実に合わせて柔軟に調整した”と受け取りたいですね。

2代目となるこのXC90が日本で販売されるようになったのが2016年からです。そこから毎年、年間平均1000台の販売がコンスタントに継続しているのは、人気の移り変わりが激しい輸入車市場にあって注目に値します。
外観・内装のデザイン・素材が斬新

今回のマイナーチェンジによって、外観が何か所か変わりました。最も印象が改められたのが、ヘッドライトとフロントグリルでしょう。T字型を横に倒したモチーフは他のボルボで馴染みがありますが、新しいのがフロントグリルのバーの造形です。
流入する空気の流れを調整する役割を果たすものですが、機能としては黒子的な存在です。ほとんどのクルマはバーを規則的に横や縦に並べているに過ぎませんが、なんとXC90はバーを斜めにして、それを左右それぞれから交じり合わせるようにしているのです。百聞は一見に如かずですので、画像を見てみてください。
こんなデザインは初めて見ました。機能的必然性というよりも、造形によるアクセント付けでしょうか。着物の前合わせというか、ダブルジャケットの身頃の重ね合わせのように見えるのが面白い。これならすぐに認識されやすいですね。

試乗車のボディカラーも淡いゴールドメタリックで、上品で高級感があります。これも、ありそうでなかなかない色です。
ドアを開けると、そのボディカラーに調和したベージュやブラウン、グレーなどがコーディネイトされたインテリアが魅力的です。

シートやドア内張りなどには「ノルディコ」という独自のリサイクル材が使われています。本革のような見た目やタッチなのですが、動物由来の革ではなくなりました。他にも、各部にリサイクル素材や再生可能材などが積極的に用いられているのは他のボルボ同様です。

ボルボに限らず、最近のヨーロッパの自動車メーカーは、インテリアにリサイクル素材や再生可能材の使用に熱心です。そのことが商品力に直結しているという認識が広まっているのでしょう。

昨年に投入されたEVのEX30のようにミニマルデザインのインテリアではなく、これまでの延長線上でのアップデイトが図られています。“新しモノ好き”には物足りないかもしれませんが、使いやすさという点では優れています。

3列シート7人乗りで荷室も広々!

試乗車は3列7人乗りシートを備えていました。2列目も3列目もベンチシートではなく、各シートが独立していて、個別に前後スライドし、背もたれも倒すことができます。

これが便利な上に、居住性を高めています。7人乗った場合のトランクスペースも十分に確保されているのも確認できました。
3列目と2列目を畳めば、広大なトランクスペースが出現します。3列目は足元スペースも広いので、大人でも乗れる広さがあります。


2列目中央シートの座面が工夫されていて、4歳以上の幼児を乗せてもチャイルドシートを使わずにシートベルトが効力を発揮するように造られているのは子育て世代に強くアピールするでしょう。

大きなボディで各シートを個別に畳んだり傾けたりできるので、多用途性の高さは間違いなくXC90の長所のひとつとなっています。調整の操作もしやすい。シートそのものの造りも優れ、掛け心地も秀逸でした。
ナビは音声認識の精度が高く使いやすい

GoogleのOSを採用したことによる音声認識操作の的中度は非常に高く、ナビの目的地設定、画面切り替えなどの操作ではほぼ百発百中でした。

しゃべった言葉がシステムに認識されなかった場合にこちらが言い直して再操作することになりますが、ほぼ2度目には認識されていました。
その能力が劣ったクルマだと何度言い直してもまったく通じません。その点で、XC90は超優等生です。音声認識操作は便利なだけでなく、安全にも寄与するので僕は機会あるごとに使用を強く勧めているのです。

前輪をエンジンが、後輪をモーターが駆動するPHEV

PHEVシステムは、駆動は前輪を2.0リッター4気筒エンジンが、後輪をモーターが担当し、エンジンは駆動と充電の両方を受け持っています。
走行モードによって、エンジンをどのタイミングでどれだけ回転させるのかなどが変わってきます。EVモードでのモーターだけでの走行距離は73kmと最新のPHEVと較べると短めです。

ハイブリッドモードで都内の一般道と首都高速を走る分には、エンジンはほとんど掛からず、電気だけで走っていました。掛かったとしても、その音や振動が車内に伝わって来ずらいので気付かないこともあったでしょう。
当然、車内はとても静かです。だいたい50km/hを超える辺りで風切り音や、タイヤと路面が擦れる音が車内に侵入してくるEVやPHEVなどもありますが、XC90では最小限で済んでいます。

快適性に大いに貢献しているのが、PHEV版のXC90に標準装備されているエアサスペンションです。細かなショックを包み込むように消し去り、大きな姿勢変化も穏やかに御していきます。走行中の快適性の高さも、XC90の長所の一つに挙げられます。
モーターだけで走行中に回生ブレーキの効きを強くして、ブレーキペダルを踏まずに済むワンペダルドライブも選んで走ることができるのは便利です。慣れると使いやすい。
ちょっと気になった点

ここまで書くと、XC90は長所ばかりの良いクルマになります。間違いではありませんが、一つだけ受け入れられないものがありました。それは、275/35R22というサイズの偏平なタイヤが採用されていることです。
昨今の流行でもある高性能車が履くような偏平なタイヤに大きなホイールを組み合わせていますから、これではホイールを傷付けやすい。走る道を選んでしまいます。
真横から見た時のタイヤの高さが低いので、歩道の段差や駐車場の仕切りなどにホイールを当ててしまいそうです。
舗装路はまだしも、これではキャンプ場ぐらいの未舗装路でも地面の凹凸や石などが当たって高価なホイールを当てて傷付けてしまいます。“道なき道を往く”のがSUV(のイメージ)なのに、これではキレイに舗装されたアスファルトの上にしか走り出していけません。
都市型SUVは否定しませんが、このXC90の使われ方や想定ユーザー、キャラクターなどを考えれば、この偏平タイヤと大径ホイールの組み合わせは百害あって一利なしです。もっと空気のたくさん入った、扁平率の高くない、高さのあるタイヤを装着すべきです。
そうすれば、都市部での日常的な使用も問題なく、気兼ねなくキャンプ場の未舗装路などにも走り出せますし、アウトドアで活躍してくれる機会も増えるでしょう。
金子浩久の結論|未来のクルマを彷彿させるバランスの良い大型SUV

EX30のようなボルボ最新のEVが過激なまでに新しいから見劣りしてしまいそうになりますが、XC90はバランスが取れていて、優れた居住性や音声入力操作、操作しやすい運転支援機能、エアサスペンションによる快適性の高さなどが上手くまとめられています。誰でもが簡単に買える価格ではありませんが、内容としては大いに共感できる大型SUVです。
