
アウトドア愛好家の他に、ビッグベア―には少し怖そうな人たちもやってきます。マイク・タイソン、オスカー・デ・ラ・ホヤ、ゲンナジー・ゴロフキン、レノックス・ルイスなど、ボクシング史に名を刻むトップファイターたちがこの地で試合前のキャンプを張ってきたのです。
ロッキー4のように大自然を相手にすることで野生の本能と「虎の目」を取り戻すためか?雪山を駆け登って、頂上で「ドラゴー!」と対戦相手の名前を叫ぶためか?
あるいはそんな一面もあるかもしれません。しかし、ビッグベアーが標高約2,100mという高地にあることから、ボクサーたちは薄い空気の中でトレーニングをすることでスタミナの向上を狙ったという見方がもっと一般的です。
高地トレーニングに適した諸条件

高地トレーニング合宿と言えば、マラソンや駅伝などの長距離ランナーたちを思い浮かべる人は多いでしょう。かつて有森裕子さんや高橋尚子さんらがコロラド州ボルダーで走りましたし、現役の大迫傑選手はアリゾナ州フラッグスタッフに拠点を置いています。いくつかの実業団駅伝チームがニューメキシコ州アルバカーキに合宿所を持っているとも聞きます。
それらの土地は標高1,600 m~2,100mくらいです。高地トレーニングにはそれくらいの高さが必要なのですが、それだけではありません。まず走るためのコースがなくてはいけませんし、長い間滞在するための施設や生活手段があることなど、クリアするべき条件は他にもあります。
国土の多くの部分を山岳地帯が占めているにもかかわらず、日本にはそうした高地トレーニングに適した場所があまりないようです。ラグビー合宿で有名な長野県の菅平高原にしても標高は1,250m~1,650mということですので、高さと言う点ではやや物足りません。
前述した通り、ビッグベアーの標高は約2,100m。高さは十分です。都会からのアクセスが便利なうえに、長く滞在するためのホテルやキャビンには事欠きません。大きな町があるので、買い物や食事にも不自由しません。なにより走るためのトレイルだって無数にあります。だからこそ、多くのボクサーたちがやってきたのでしょう。
なぜ日本の長距離走界がこの地に目をつけないのかは不思議です。私が知らないだけで、ビッグベアーで合宿するランナーはいるのかもしれませんが。
1日だけの高地トレーニングに意味はないけど

ビッグベアー周辺では、湖で泳ぎ、マウンテンバイク、そしてトレイルランと続く、オフロードのトライアスロンが行われています。残念ながら、私にはそれに挑戦する勇気と体力は「まだ」ありませんが、単体のハーフマラソンと障害物レースなら参加した経験があります。
もっとも苦しい思いをしたのは、シーズンオフのスキー場で行われた障害物レースです。薄い空気、険しい地形、さらには5月だったと言うのに頂上付近ではあろうことか雪まで降ってきたからです。文字通り、死ぬかと思いました。

それほど極端なシチュエーションではなくても、高地で走ると体感では平地の何倍も疲れます。それを知らないとエライ目にあいます。
ジョギングをしているつもりのペースで走っていても、まるで全力疾走をしたみたいに呼吸が苦しくなります。気のせいだよ、なんて舐めて走り続けようとしても、心臓はさらにバクバクとしてきますし、脚まで重く感じてきます。
むろん、その苦しさがずっと続くわけではなく、人間の身体は空気の薄さに慣れていきます。高度順応には個人差があるそうですが、私の場合なら3日くらい経つと標高約2,000mでジョギングなら普段のようにできるようになります。高地トレーニングの効果が現れるのはそれからです。

NSCA (全米ストレングス&コンディショニング協会)の研究によると、高地トレーニングの効果を出すには、標高2,100m~2,500m地点で最低3週間以上のトレーニングを積むことが望ましいとされています。日帰りや数日だけ高地でトレーニングしても、ただ苦しいだけで、あまり意味はないようです。
それでもいいじゃないか。高地トレーニングとはどれだけ苦しいものなのか、ぜひ自分の体で味わってみたい。そんな風に思う人にはビッグベアーはおススメです。ひとりでトレイルを自由に走ってもよいですし、レースに参加すれば道に迷う心配はありません。

ビッグベアー観光案内ウェブサイト:
https://www.bigbearmountainresort.com/