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    2018.12.19

    茅葺き屋根の先進はヨーロッパ!?新しい風が吹いている

    茅葺き屋根はどうやら、ノスタルジックな遺産ではないらしい。ヨーロッパでは、エコロジー、デザインの両点から積極的に建築に取り入れられ日本でも新たな動きが起きている。

    茅葺き

    オランダにある新築の一軒家。屋根には茅がふかれている。撮影/田場裕子

    茅は究極のリサイクル。腐っても捨てるところナシ

    田んぼのあぜなど手に入りやすい場所で育つすすきなど「茅」を利用して、日本人は屋根を葺いてきた。茅葺き屋根の寿命はだいたい20から30年。寿命を迎え役目を終えると、畑の肥料にされた。相良さんいわく「効率的で究極のリサイクル」。

    茅葺き職人、くさかんむり代表の相良郁弥(さがらいくや)さん。1980年、兵庫県生まれ。20歳の頃、宮沢賢治に憬れ"百姓"を目指すが減反で米がつくれ「三姓」止まりに。「茅葺き屋根は百姓の業でできている」との言葉で茅葺き職人として弟子入りし、31歳で独立。弟子3人。

     

    そもそも…茅ってなんだっけ?

    茅という植物はなく、ススキやヨシ、イナワラ、コムギワラなどかつて日本の生活の中で身近に手に入る植物を刈り取って束にしたものの総称が茅。縄文時代にはすでにあった茅葺き屋根。日本だけの文化ではなく、世界中で見られる屋根の様式だ。

    茅

    田んぼのあぜなどを利用して育てて収穫した茅。しっかり乾燥させてから屋根材に使う。

    ヨーロッパは茅葺きの先進エリア!

    「ヨーロッパ、特にオランダでは、茅葺き屋根が見直されていて、今モダンな建築に屋根は茅葺き、といったデザインが人気になってきているんですよ」

     そう教えてくれたのは、茅葺き職人であり、兵庫県神戸市北区淡河町(おうごちょう)でかやぶき屋根保存会「くさかんむり」の代表を務める相良育弥さん。38歳とまだ若い親方だ。

     日本では茅葺き屋根の民家というと取り壊されたり、トタン屋根がかぶされたりと廃れる一方の文化だと考えがちだが、こんなに可能性がある素材はほかにない、と相良さんはいう。

    「茅葺き屋根は、まるで大きな木の木蔭に暮らしているような心地よさと安心感があります。夏はエアコンがいらないくらい涼しく、冬は家族が集う部屋を限定して温めれば、茅葺き屋根の持つ通気性能を損なうことなく、快適に過ごせます」

     自然条件に合わせて呼吸する茅葺き屋根の家屋は、四季がハッキリしている日本の風土にとてもマッチしている。ただ、日本の場合、建築法の関係で茅葺き屋根の新築は難しい。現在茅葺き職人の大きな役割は、修復と保存だが、もう少ししたら状況が変わるかもしれないという。

    ヨーロッパの茅葺きは超スタイリッシュ!

    茅葺き

    オランダ・ミッデンデルフトランドの消防署。撮影/田場裕子

    デザイン面で茅葺きを牽引するのは、オランダとデンマーク。日本は、国際茅葺き協会(イギリス、オランダ、ドイツ、スウェーデン、南アフリカ、デンマーク、日本の7か国)に加盟しているが、新築では大きく遅れをとっている。

    茅葺き

    デンマークの世界遺産・ワデンシーのビジターセンター。撮影/田場裕子

    茅葺き屋根が環境問題のアイコンに?

    「オランダは30年前から茅葺き屋根の新築建設を許可しているんです。というのもオランダはエコロジーに敏感な国。積極的に茅葺き屋根の住宅が建てられていて、環境問題に取り組んでいる、というアイコンのようになっています」

     オランダのお隣デンマークも茅葺き建築に熱心な国だ。写真共有アプリのインスタグラムやピンタレストで「#thatched roof」(茅葺き屋根の意)で検索すると、両国を筆頭にヨーロッパ各国の斬新な茅葺き建築が見られる。ガラス張りのモダンな現代建築に屋根だけ茅葺きといった集合住宅や、屋根だけでなく壁まで茅の教会など、とてもおもしろい。

    加えてドイツはオランダに負けないほどの環境問題とデザインには敏感な国。スウェーデンも同じく、これからさらなる盛り上がりが予感される。

     じつはこれらの国々が加盟する国際茅葺き協会なるものがある。茅の研究結果を発表したり、茅葺きの技を競う大会を行なったり、茅葺きの発展を目的とした組織だ。同協会に日本はアジアで唯一参加。そして日本の茅葺き事情はというと、白川郷や京都府南丹市美山町などが観光資源としての茅葺き屋根の保存に行政が取り組んでいる。

     特に、神戸市は山側エリアに茅葺き民家を多く残しているので、「神戸市の山側の顔を茅葺き屋根にしたい」と積極的にPR活動を行なっている。たとえば、修復に補助金を出したり、新たに茅葺き民家に住みたい、店をやりたいと考える人へわかりやすく法規制を説いた冊子を制作したり。

    大都市神戸は、じつは茅葺の町だった

    神戸市内の北側には大都市にしては珍しく、約800棟もの茅葺き民家があり、日本の原風景ともいえる風情を残す。海で知られる神戸市だが、茅葺き民家を山側の顔にしよう!と保存、修復活動に熱心に取り組んでいる。

    神戸市の淡河に建つ茅葺き屋根のお堂。

    神戸市が制作した「茅葺民家あんしん活用ガイドライン―こうべ茅葺トリセツ―」。建物の法規制をわかりやすくまとめてあり、茅葺き民家への関心をもりたてる。

    日本に新しい風が吹く日も近い!?

    「茅葺きの建物に興味を持つだけでなく、職人になりたい、という若い世代が増えています」

     さまざまな伝統技術を駆使して作る茅葺きに惹かれる若者が多いそうで相良さんも20代の弟子3人のほか、大学生、海外からのインターンを迎えることもあるとか。

     街おこしにもなり、新しい価値観を生む茅葺き屋根。行政によっては法規制の緩和で条件付きで茅葺き民家の新築が許可される日が将来くるのではないかと相良さん。

     昔ながらの茅葺き屋根が修復保存され、さらに今のデザインセンスで新たに生まれる。ヨーロッパには負けてられない、と日本の若い茅葺き職人は、新しい茅葺きの未来を見据えているのだ。

    日本各地でも新しい茅の建築デザインが

    外壁一面が茅、という一風変わったヘアサロン ilou。築70年の牛小屋を改装したこの建物は、茅葺き民家で育ったというオーナーの上北宗平さんが、地元の古民家を人が集まる場にしたいと相良さんに依頼しこのデザインになった。

    ヘアサロン ilou。

    壁に波打つ茅のデザインが美しい。

    一方こちらは、相良さんの地元「淡河宿本陣跡」の敷地内に移築されたえびす神社。建物の規模が小さいため、新築にもかかわらず壁も屋根も茅で作ることが許され、世にも珍しい姿になった。

    えびす神社

    神戸市北区淡河町にある、えびす神社。屋根だけでなく壁も茅葺きの小さな祠。

    壁全体も茅で温かみのある祠になっている。

     

    ※構成/柳澤智子 写真提供/宮濱祐美子 

    ※この記事はビーパル10月号に掲載された記事を再編しました。

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