キノコを採って&撮って30年!マッシュ柳澤の知れば知るほど深みはハマる野生菌ワールドへようこそ!
『コウタケ【食】』 の発生時期は9月半ば頃、秋のキノコだが、乾燥して保存食として利用される。香りが良いので「香茸」と思っていたが、実は「皮茸」と書くそうだ。肉薄でカサの裏に密生した針の手触り、乾燥したコウタケの質感は、なるほど「皮」と言いえて妙だと思う。しかし、それでもコウタケには「香」の字を当てたくなるほど、良い香りのするキノコだ。因みに「香茸」「はシイタケ(椎茸) 」の別名だという。
普通、キノコは採れたてのものを煮たり焼いたりして食べることが多い。我が家で干し茸にしたのは、採れ過ぎて食べ切れなかった場合や、食用価値の低い雑キノコの場合だけだ。しかしコウタケは、例外的に天日干しされることで食用価値が上がる。干すことで旨みや歯触り、さらに独特の芳香が強くなるからだ。
全国に分布するコウタケだが、どういうわけか発生地は飛び飛びで、採れる場所とそうでない場所の差が極端だ。産地でない所では、稀に出ていても雑キノコ扱いで目もくれられない。
一方、多産地ではほかのキノコとは別格の扱いを受け、正月などハレの日の特別な料理の材料として珍重されている。なかでもコウタケの発生の多い、東北地方の山間の一部では「コウタケが無いと正月が来ない」というほどの愛着を持っているという。
お正月のおご馳走。コウタケの炊き込みご飯を作ってみた。
※まずは干さなければ始まらない。コウタケ天日干しのやり方※
乾燥コウタケは、今では通販で購入することも可能だが…。目の玉が飛び出すほど高い。試しにネットで相場を調べて見たのだが、こんなだったらもっと採っておけばよかった。今年は豊作だったのだ。
採集してきたコウタケを干すのには2のやり方がある。
(1)あらかじめアクを抜いてから干す方法
コウタケは採ってきたそのままでは、香りと味が強すぎ、アクも強く敏感な人は唇が痒くなったり、喉がイガイガしたりする場合がある。軽く茹でこぼして、アク抜きをしてから干すのだが、アクと旨みは表裏一体、アクを抜きすぎると旨みや香りも失われてしまう。野山の食材はこの辺りの塩梅が大切だ。この方法の場合、水で戻せばそのまま調理できる。干す前に食べやすい大きさに切っておけば、早く乾き手間が省けて一石二鳥だ。
(2)採ってきたコウタケをそのまま干す方法
販売されている乾燥コウタケはほとんどがこのやり方だ。この方法でも調理の前に、茹でこぼすか熱湯に浸けて余分なアクを抜く必要はある。
今回は(1)の方法で乾燥させたコウタケを利用した。
※コウタケの炊き込みご飯の作り方※
● 材料4名分
乾燥コウタケ 10~15g
白米 2.5 合
もち米 0.5合
ごぼう 50g(太いもの1/6本程度)
人参 50g(1/4~1/6本ほど)
油揚げ 1枚
醤油 大さじ2
砂糖 大さじ1.5
酒 大さじ1.5
サラダ油 少々(炒め油)
ぬるま湯 適量
水 適量
● 作り方
1:少量のぬるま湯(コウタケ15gに対し約250ccほど)に一時間ほど浸し、コウタケを戻す。戻ったコウタケは水気を切って置く。戻し汁は後で使うので捨てないで取って置く。
注)(1)の方法で乾燥させた場合の、黒い戻し汁はこの後利用しない。
2:戻す間に、白米ともち米を洗ってザルに上げ水を切って置く。
3:ゴボウをささがきにして、水にさらしアクを取って置く。
4:人参は細い千切りにして置く。
5:油揚げを細切りにして置く。
6:水気を切ったコウタケとゴボウ、ニンジン、油揚げを少量の油で炒め火を通す。
7:6にコウタケの戻し汁と水合わせて200~250ccと醤油、砂糖、酒を加えて煮る。
8:炊飯器に米を入れ上に具材を煮汁ごと入れ、さらに水を足し普段の水加減(白米3合)の線に合わせて炊く。
ご飯を炊いている最中から、甘い匂いがキッチンに充満する。お釜の蓋を開けた途端、むせ返るような芳香が湯気とともに立ち上った。炊きあがったコウタケご飯の香りは、ほかのキノコのご飯よりずっと、ふくよかで力強く、それでいて優しい。上品な芳香が鼻腔いっぱいに広がり食欲を刺激する。
味の方は、煮あがったコウタケの真っ黒な姿からは想像できないほど上品な美味しさだ。ざらっとした独特の舌触りも心地よい、シャキシャキというよりジャキジャキと表現した方が良い独特の歯触りは干したからこそのものだろう。
人によってはマツタケ以上と評価するコウタケの芳香だが。マツタケのように自己主張の強い芳香では無い。孤高のマツタケに対して、全ての食用キノコの代表、いわゆる「きのこの香り」の延長線上にある最高レベルのものだ。ああ、確かにこれは、おめでたい日をさらに幸せな気持ちにさせてくれそうな、華やかだがどこか懐かしい、そんな香りだ。
● コウタケ(食べられるキノコ)
学名:Sarcodon aspratus (Berk.) S. Ito
※注意※生食厳禁。必ず火を通して食べること。生、乾燥品ともにアクが強く喉がイガイガしたりすることがある。必ずアク抜きをして利用する。
比較的若い個体。カサ中央の陥入が深く朝顔型になるのが特徴とされるが、あまり深くならないものもあり個体差が大きい。
【形状】
朝顔形で中央が陥没ししばしば柄の基部近くまで達する。
【カサ】
淡褐色、淡赤褐色から暗褐色。周辺部は永く内側に巻く。粗い鱗片に放射状に覆われ、中央部ほど粗大で内側に反り返る。下面は帯褐白色、長さ数ミリ程度の針が密生し柄の下部付近まで覆う。柄では針の長さは短い。柄とカサの境目ははっきりしない。
【柄】
太く短く、下方がやや太い。中実から中空(カサが陥入が深く基部付近まで届く場合)表面、粗面で帯褐色白色から帯びた帯紅灰褐色。
【肉】
淡い茶色で無味。乾燥すると良い香りを放つ。
【環境】
広葉樹を交えたアカマツ林に群生。
【食毒】
生食では有毒。一般に乾燥利用される。
『コウタケ』に間違えやすいキノコ
● ケロウジ(食べられないキノコ)
学名:Sarcodon scabrosus (Fr.) P. Karst.
強い苦みがあることと、柄の基部が青黒いことがコウタケとの見分けのポイント。
【形状】
饅頭形から平に開き、成熟すると浅い漏斗型になる。初め短毛に覆われ成熟すると同心円状の粗い鱗片に覆われる。茶褐色から帯紫褐色。下面は長さ数ミリの針に覆われ、柄に垂生する。針は灰色のち灰褐色。
【柄】
下方が細く締まり、中実から中空。カサと同色で微毛状。基部は青黒く、白色菌糸を付ける。
【肉】
強い苦みと異臭があり、紫色を帯びた白色から帯紫褐色。柄の基部は帯青黒褐色。
【環境】
広葉樹混じりのアカマツ林に群生。
【食毒】
強い苦みがあり食用に適さない。
文・写真/栁澤まきよし
参考/
「原色きのこ」(清水大典著 家の光協会)
「原色日本新菌類図鑑」(今関六也、本郷次雄著 保育社)
「岩手県HP 久慈地方の郷土食」
「日本のキノコ262」(自著 文一総合出版)