畑にレストラン!?農地利用の新しいかたち
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  • 農業・ガーデニング

    2019.01.03

    畑にレストラン!?農地利用の新しいかたち

    里山を活性化させる農地の活用法。そのひとつとして注目を集めるのが神奈川県藤沢市「農家レストランいぶき」。さっそく、新鮮な野菜ごはんを味わってみた。

    いぶき

    季節の旬な食材がたっぷりの人気のランチ。地元米や産みたての新鮮生卵など、常時20種類のおかずが並ぶブッフェ方式だ。

    地元の役に立てられたら…と、奔走し「いぶき」をオープン

    「この土地に育てられたという思いがあるので、故郷をなんとか活性化したいと考えたんです」

    2018年5月、藤沢市の郊外で「農家レストランいぶき」をオープンさせた冨田改(かい)さんは、創業にこめた思いについて、こう話してくれた。「いぶき」が話題を集めている理由は、通常は耕作以外の利用が認められない農地において、特例措置を受けて開業した全国6番目、関東では初となる農家レストランであるということ。安価な食料が輸入されることなどにより、衰退が叫ばれて久しい国内の農業。容易に売買することも叶わず、放棄された耕作地は全国で42万3千ha(平成27年 農林水産省)、その面積は富山県の大きさに匹敵する。

    冨田さん

    「農家レストランいぶき」オーナー冨田 改さん。1946年生まれ。東京農工大、千葉大で農学、造園業を学び、卒業後、「湘南グリーンサービス」を立ち上げる。その後、NPO、農業法人を設立し、地元の里山景観と農業の再生に奔走。

    「このあたりも遊休農地が増え、手を入れられないまま放ってある。緑はただ残せばいい、ってもんじゃないんです」

    15代続く農家の次男である冨田さん。大学では農学と造園を学び、卒業後は都内から地元へ戻り、一代で造園業を興した。造園とは、環境をいかにつくるか、という営みであるという。

    「環境は天から与えられたものでもあるけれど、土地の人間で維持管理するという側面もあるんです。東京に暮らしたこともあって、ここの自然の魅力に気づくことができたし、造園業を通して樹木医の資格を取るなどし、それぞれの環境に合う植生を学ぶことができた。そんな私の経歴を、地元に役立てられたら、と思ったんですね」

    いぶき内装

    近隣の築300年の農家から譲り受けた、欅の大黒柱と松の梁が、室内のアクセントになっている。

    庭

    庭にはウッドデッキがあり、さわやかな風が吹き抜ける。その向こうには、造園師である冨田さんが丹精した草花が。

    折良く、農地利用を緩和する特例措置が内閣府によって発表されるものの、県や市に政策を履行するための条令が用意されていなかった。そのため、足を棒にして西から東へ、そうして書類を何度も書きかえる。

    「みなが、会社だけやっていれば手間もかからないのに……というのですが、そういう問題じゃないんです!」

    故郷を変えるのは、助成金や外部の学者のプランではなく「地の人間のやる気なんです」とにっこり。そうして3年がたち、ようやく開業にこぎつけた。

    酵素が活きた新鮮野菜の料理

    そうした経緯から生まれた「いぶき」では、米や野菜、豚肉など食材のほとんど地元産でまかなっている。そうした新鮮な食材がウリかと思いきや、いぶきの料理にはさらなる奥行きが……。

    「うちでは、発酵調味料を使っているんです」

    味噌と醤油の原型である醤や甘酒など、基本の味付けには酵素を活かした発酵調味料を使っている。生麹に漬けた肉は、酵素によってタンパク質が分解され、アミノ酸へ。そうすることで「旨みが立つ」という。

    たまご

    産みたての生卵は、梅醤油と肉味噌を添えてごはんに♡

    「体内の酵素には、消化を助けることのほかに、心臓を動かし、血液を流すという大きな役割があります。体内の酵素自体は増えないので、限りある酵素を消化に使わせない、体に優しい料理を目指しています」

    発酵調味料を担当する鈴野智子さんが胸を張る。新鮮な素材と、生き物である発酵調味料の特徴を見極めて使いこなし、ひと皿の料理へ昇華させるのは、料理担当の中村亜湖さんだ。

    「毎朝、届く野菜を見てから献立を決めるので、毎日来ていただいても飽きさせることはありません。酵素の働きで消化がよく、美容や疲労回復にも効果がありますよ!」

    キッチン

    冨田さんの思いを受け、キッチンとホールを守る女陣。「酵素が活きたごはんは免疫力アップ、抗酸化作用、疲労回復に美肌効果もあります」

    あなたの家の近くにもあるかもしれない畑の中のレストラン

    ぞくぞく登場、農家レストランに行ってみよう!

    サバーヴィアン(愛知県日進市) 「⼤切な家族に毎日食べさせたい料理」がテーマの農園レストラン。

    サンセットウォーカーヒル(愛知県常滑市) 厳選された知多半島の食材を使った農家レストラン。

    ラ・トラットリア エストルト(新潟県新潟市) タカギ農場の新鮮野菜や自家製ベーコン、ソーセージを味わえる。

    農園のカフェ厨房 トネリコ(新潟県新潟市) 野菜ソムリエによる野菜料理と手作りのスイーツ、和菓子が大人気。

    ラ・ビステッカ(新潟県新潟市) 新潟県産牛のステーキランチが人気の農家レストラン。

    農家レストランいぶき

    店内は、明るく心地よいオアシスのような空間。最新情報はいぶきのFaceBookをチェックしよう。ワークショップも開催中。
    農家レストランいぶき
    神奈川県藤沢市遠藤38
    0466(86)7602

    ※構成/麻生弘毅 撮影/三枝直路

     

    ※この記事は、ビーパル9月号(2018年)に掲載された記事を再編したものです。

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