“カブキ”メダカは、愛知県岡崎市にある『葵めだか』の天野雅弘氏が作出した幹之系の改良品種である。日本メダカ協会第6回秋季日本メダカ品評会に出展されたメダカで、2010 年からオスに青幹之ヒカリメダカ、メスに白幹之メダカ体内光の透明なタイプを使われ、緑色がかったメダカが出てきたそうである。その一匹を元に天野さんが選別淘汰で作られた品種である。命名した“カブキ”は世界に羽ばたいて欲しいという意味合いを兼ねたもの。保護色機能が働くため、飼育容器の色合いによって見え方が変化するメダカで人気がある。
こちらが愛知県岡崎市にある『葵めだか』の繁殖用のハウス内の様子である。ここで2010年から“カブキ”系統の交配が行なわれ、今年で9年目を迎えることになった。
これは、昨年発表された、“カブキ”系統の新作、紅三色“カブキ”である。非透明鱗系の三色の一系統として、今年は注目されることだろう。
この2個体は“ウコンカブキ”と呼ばれている系統である。“カブキ”に『静楽庵』の作るオーロラ黒幹之を交配されて累代繁殖している系統。交配に使ったオーロラ黒幹之は、体外光が乗っていない個体を選ばれたそうで、ブラックリム血統を顕著に現すタイプとなった。『葵めだか』の“○○カブキ”の○○には全て体色を示す呼称が使われている。
この2個体は“緑翡翠(みどりひすい)カブキ”である。天野氏が“カブキ”を作っている時にエラ蓋が透明感のある万華鏡のように輝いている個体を選び、アルビノ“コスモ”を交配して進めた系統である。緑色っぽい系統と青味が強い系統の2系統が知られている。
“黒錦カブキ”
“黄三色カブキ”
天野氏が、自ら作られた“カブキ”作出の際に出てきた“黒錦カブキ”を交配していくと、黄褐色の部位を持った個体が生まれてきたそうで、それを選抜交配して出現してきたものに“黄三色ラメカブキ”と命名したもの。結果として、表現的には注目を浴びている非透明鱗三色にラメを加えたタイプと呼べる体色を持つことになった。
このように、一匹のメダカに注目し、それを累代繁殖、異品種との交配を時間をかけて進めることで、様々なタイプを作り分けることが出来るところも改良メダカの楽しいところである。「楽しい」と言っても、交配して、二世代、三世代と継続していくことが出来る人は意外に少ない。是非とも、自分が作りたいメダカをイメージして、今春から様々な交配を楽しんで頂きたい。
『岡崎葵メダカ』のブログは、http://blog.livedoor.jp/aoimedaka/
こちらから、“カブキ”のリアルタイムの情報を得られるだろうし、天野氏のメダカ紀行も楽しむことができる。
この“カブキ”に魅せられた一人が、三重県鈴鹿市在住の川戸博貴氏である。
こちらが川戸さんのメダカ飼育設備である。
川戸さんは、この“カブキ”の質を高める方向で継続して繁殖され、選別淘汰によってここまで美しい“カブキ”にされたのである。背中に走る輝青色の体外光をほぼフルラインになるまで伸長させた系統で、“カブキ”特有の黄斑にもこだわった“カブキ”にしておられる。
“カブキ”は、幹之メダカの血統を持っているため、白体色ベースの“白カブキ”も同時に出現していた。そのタイプが持つ魅力も川戸さんは引き出され、昨年から特に、多くのメダカ愛好家に注目される系統になっているのである。
こちらは、朱赤色の濃さが際立つ“白カブキ”である。白体色ベースの“白カブキ”でも朱赤色の部位の上に体外光を乗せる難易度の高い系統として、川戸さんはじっくりと種親を選択されて、ここまで美しい個体にされたのである。色合い、体外光の発色具合。この二つは両立しにくいところがあるのだが、一匹、一匹の発色程度、色の乗り方をしっかりと観察され、理解されたからこそ、川戸さんの作る“カブキ”は注目されているのである。
メダカを育て、作り上げることは、しっかりとした選別眼を持つこと、そして、継続することが何より大切である。「愛好家に感動してもらえるメダカを作ること」は継続して作り上げ、系統として確立したものだけがそのチャンスを得られるものなのである。
写真・文/森 文俊