瀬戸内海を臨む風光明媚な海街・広島県尾道市と、尾道~今治間を結ぶ「しまなみ海道」では、豊かな自然、古き息吹を伝える歴史・文化遺産、そして新しい世代が取り組む食やものづくりのムーブメントを楽しむことができます。しまなみ海道の広島県側の玄関となる尾道と、しまなみ海道のおすすめスポットや旅情報を紹介します。
CONTENTS
- 「自転車の町」尾道は初心者でも大歓迎!
- 発酵レストラン『こめどこ食堂』の絶品ランチ
- 若い世代が空き店舗をリノベーション
- 尾道で働く人々が日々履いて色落ちさせる「尾道デニム」
- レトロな歓楽街を抜けてロープウェイで千光寺公園へ
- 日本遺産・尾道は散策するだけでも心安らぐ海街
- 倉庫リノベホテル『ONOMICHI U2』の注目ショップ
- 自転車好きのためのデザイナーズホテル『HOTEL CYCLE』
- 渡船に自転車を乗せて「しまなみ海道」へ
- シングルオリジンのチョコレート工場『USHIO CHOCOLATL』
- 生口島の海辺にある『ちいさなお宿 Link 輪空』
- 大三島、伯方島をサイクリング
- 初心者にもやさしい自転車旅サポートサービス
- しまなみ海道にサイクリングにでかけよう
「自転車の町」尾道は初心者でも大歓迎!
東京を早朝出ると新幹線と在来線を乗り継いで、11時前には尾道駅に到着します。
趣のある駅舎が素敵なJR尾道駅。構内では、地元・尾道の自転車ブランド『凪(なぎ)バイク』がお出迎え。ここが自転車の街であることを実感できました。
しまなみ海道を走るときには、改札を出て左手にある観光案内所で『瀬戸内しまなみ海道サイクリングマップ』(無料)を入手することを忘れずに。
そして、外に出てびっくり。駅舎の隅に、『自転車組立場』なるスペースがあるのです。すでに何人ものサイクリストが、輪行してきた自転車を組み立てていました。
発酵レストラン『こめどこ食堂』の絶品ランチ
ゆっくりと自転車を組み立てて、駅周辺を散策。ひとまずランチを食べに『こめどこ食堂』に行きました。発酵(麹、味噌、醤油など)にこだわった地元密着型のレストランです。
お得なランチタイムメニューから『こめどこ定食』を注文。地元産の野菜を中心にした優しい味のおばんざい、主菜は肉か魚から選べます。この日は、柔らかな煮込みハンバーグをチョイス。
自社の田んぼで育てたというお米(地元産の米3種類をミックスして6部搗きで炊飯)も美味。しかも、ごはんと味噌汁はおかわり自由なので、お腹を空かせたサイクリストも満足です。
若い世代が空き店舗をリノベーション
お腹もいっぱいになったので、まずは市内を散策します。ここ数年、尾道は空家再生プロジェクトが活性していて、古民家や商店街の空き店舗をリノベーションして、若い世代がクリエイティブな事業を積極的に展開しているそうです。
長さ1.2kmにおよぶ尾道本通り商店街を走ると、街の活気に驚かされます。
ゲストハウス、カフェ、パイ屋、尾道帆布、そして、銭湯の外装をそのまま生かした土産物屋まで。さまざまなお店が並び、若い女性たちでにぎわっていました。
尾道で働く人々が日々履いて色落ちさせる「尾道デニム」
そんな商店街の東の外れにあるのが『尾道デニムショップ』です。かつては絣(かすり)や日常着を生産していたという備後地方に伝わる伝統的な繊維工場で作られたデニムを、尾道市内で働く人々に日々履いてもらい「リアルユーズド」に仕上げて販売する個性的なデニムを販売するショップです。
大工、漁師、自動車整備工、左官職人、住職、保育士など、様々な職業の方が、リアルデニム製作に携わっていて、その職種によってダメージのつき方が変わり、それが個性を生んでいるそうです。
「履き手の方が、ちょいちょい店に顔を出してくれて、お客様と話してくれるんです。ここは、ただモノを売る場所ではなく、街で働く人と観光でいらっしゃる方をつなげる空間だとおもっています。街の人がフレンドリーなところが尾道らしさかしら」
と、ショップスタッフの濱野まり子さんが尾道の魅力を教えてくれました。
レトロな歓楽街を抜けてロープウェイで千光寺公園へ
『尾道デニムショップ』をさらに東に行くと、大きな歓楽街があります。
路地のまわりにあるスナックやバーをながめながら夜の下見を終え、尾道のランドマークである千光寺にむけ、ロープウェイに乗りました。ロープウェイ乗り場には、ロードバイクなども停められるサイクルスタンドがあります。目の前に券売所があるので盗難の心配もなし。
ロープウェイに乗って約3分。素敵なお姉さんの解説を聞きながら、千光寺公園へ。
そこには恋人の聖地があり、恋愛成就を祈願して南京錠を置いていくカップルが多いそうです。そんな丘の上から見る尾道水道としまなみ海道の美しきこと!
日本遺産・尾道は散策するだけでも心安らぐ海街
尾道市は2015年、日本遺産に指定されました。尾道水道を中心にした文化財をのんびり見て回るのも楽しそうです。
この日は、千光寺から文学のこみちを歩いて降りました。途中には25の歌碑があるそうです。平山郁夫が描いたことで知られる天寧寺の五重塔や、趣ある路地や階段を通り、ロープウェイ乗り場に戻りました。途中、昼寝するネコに癒されました。
夜は、商店街にある居酒屋で美味しい地元産の魚や焼き物、それに日本酒を堪能。歓楽街のバーで飲み、最後は尾道ラーメンでしめました。海沿いを歩いて帰る途中、緑やブルーにライトアップされた尾道水道沿いのクレーンが美しいこと!
倉庫リノベホテル『ONOMICHI U2』の注目ショップ
さていよいよ、『ONOMICHI U2』のご紹介です。2014年3月の開業以来、すっかり尾道のランドマークとなりました。
尾道駅を西へ約600m、県営の海運倉庫を再生した、ホテル、カフェ、レストラン、ベーカリー、バー、雑貨店、サイクルショップが入った複合施設です。
駅から尾道水道沿いに続くウッドデッキを歩くと、レトロでお洒落な建物が見えます。ウッドデッキには、カフェのチェア&テーブルが並び、サイクリストたちが、のんびりと過ごしていました。
雑貨店『U2 shima SHOP』
施設内に入ると、元倉庫らしく天井が高いゆとりの空間が広がっています。雑貨店『U2 shima SHOP』には、絣、頒布を使った瀬戸内の伝統産業が息づく製品などが並んでいます。
バッグやシューズ、ウェアなどのなかには、有名メーカーとのコラボ品もあります。伝統とモダンを融合したおもしろい製品が揃っているので、気になる方は、まずECサイトをチェックしてみてください。
コーヒーショップ『Yard Cafe』
『Yard Cafe』では、地元のロースターが焙煎した香り高きコーヒーを楽しめます。テイクアウトしてウッドデッキに座り、風を感じながら飲むことをすすめます。このほか、瀬戸内産の野菜や果実を使ったフレッシュジュースも人気とか。
天然酵母パン『Butti Bakery』
天然酵母ルヴァン種を使用した自家製パンを製造販売する『Butti Bakery』は、前を通るだけで豊かな香りに誘われます。毎日買いに来る地元の方のために、毎月2~3種類の新製品を登場させているそうです。テイクアウトして、サイクリング途中に補給食として楽しむのもありです。
また、ここでは『ONOMICHI U2』オリジナルの食品など、瀬戸内の素材にこだわったフードや洒落た輸入食品も揃います。お土産を買うにもかなりよいです。
地産地消レストラン『The RESTAURANT』
瀬戸内の食材とグリル料理を楽しめる『The RESTAURANT』は、ランチ利用もできます。
ピザセットは、1500円。この日のピザは、瀬戸田の名産品であるレモンを使った塩ピザ。しかも、自家製パンとサラダはおかわり自由。ワンドリンクまで付いていているのでお得です。
自転車好きのためのデザイナーズホテル『HOTEL CYCLE』
そして、なんといってもサイクリストの憧れが『HOTEL CYCLE』です。ホテルの中まで自転車を持ち込め、部屋によってはサイクルラックが設備された客室も。
最近では、デザイナーズホテルとしての人気も高まり、サイクリストのみならず感度のよい方が、ここに宿泊するために全国からやってくるそうです。また、宿泊客向けにレンタルサイクルやガイドサービスもあるので、一味違ったしまなみデビューを飾るにもよさそうです。
自転車ショップ『ジャイアントストア尾道』
そして、もうひとつ、本格的なスポーツバイク店『ジャイアントストア尾道』が入っている点も見逃せません。
ビギナー向けからハイエンド車まで豊富なスポーツバイクを取り揃えるのはもちろん、しまなみ海道サイクリングの拠点らしく、スペアチューブやバッグ、ウェア類まで、うっかり忘れそうな小物を多数取り揃えているので頼りになります。
さらに、クロスバイクからカーボンフレームのハイエンドロードバイクまで、ほかではなかなか借りられないようなレンタサイクルがあります。
「輪行は面倒だけど、いい自転車で走りたい」、という方にはぴったりです。1泊以上でも借りられるうえ、スペアチューブまで貸してくれるので、本格的に走りたい人でも満足できることでしょう。
『ONOMICHI U2』の近くで過ごすこと数時間。お洒落な若い女性が多かったのも気になりました。自転車と共に変わりゆく尾道の今を象徴する施設だからでしょうか。
港の雰囲気と趣のある建造物。自転車でも歩きでも、ちょっとぶらつくだけで心安らぐ界隈です。しまなみ海道を走る際には、『ONOMICHI U2』に必ず寄り道したいものです。
渡船に自転車を乗せて「しまなみ海道」へ
さて、いよいよ、しまなみ海道へ。最初に向かったのが向島です。尾道からは、尾道大橋の道幅が狭く危険なので、自走ではなく渡船を使って向島に渡りました。
レンタサイクルを利用してキャンプをしながら、しまなみ海道を楽しむという大学生のサイクリストたちとの話が新鮮でおもしろかったです。こういった旅人同士の会話が自然に生まれるのも、しまなみの魅力かもしれません。
シングルオリジンのチョコレート工場『USHIO CHOCOLATL』
向島に到着し、地図を見ながらひたすら坂を上ります。分かりにくい分岐点に悩まされながら1時間も走ると、古いコンクリートの建物の前に怪しい看板がありました。『USHIO CHOCOLATL』。そうです、ここが噂のチョコレート工場。
自転車でサバイバルしながらたどり着いた店に一歩入ると、目の前の森の先に、海と島々の絶景が広がっていました。そして、カカオの香りが優しく包み込みます。
この工場では、産地の異なる6種類のカカオに、砂糖だけを加えたシングルオリジンのチョコレートにこだわって手作りしています。裏手にある小さな工場では、若者が丁寧にチョコレートを型に流し込んでいました。
チョコレートを試食すると、産地によってビターだったりスパイシーだったり、個性的で華やかな味に驚かされました。チョコレートの包装紙は、地元のアーチストの作品。店内には、原画が展示されています。
見晴らしのいい店内はカフェになっていて、ホットチョコやコーヒーも楽しめます。志し高きメンズが作るチョコレート。ぜひ、サバイバルライド(笑)してでも入手してください。
生口島の海辺にある『ちいさなお宿 Link 輪空』
次に目指すは生口島。今回は、時間の都合で、一度、渡船で尾道に戻ってから、船を乗り継ぎ生口島の瀬戸田港を目指しました。自転車は追加料金数百円で折りたたむことなく積んでいけるので、とても便利です。所要時間は約40分。
瀬戸田港からは島の反対にある『ちいさなお宿 Link 輪空(リンク)』を目指します。島の中央を抜けると上り坂がきついので、海岸線を選択。ゆっくり走って30分ほどで、海辺にある小さな宿に到着しました。笑顔の素敵なご夫婦が迎えてくれました。
宿に入ると、壁面にロードバイクやサイクルジャージが飾ってあります。まさにサイクリストの宿。
そして、海側のテラスには夕陽が差していました。テラスのチェアに座り、海の音を聞きながら飲むビールのうまいこと。
夕食は、地元の食材を使い奥様が心をこめて作った料理が並びました。地元の漁師から直接仕入れているという魚料理が自慢とか。
オーナーの市村修さんや、ほかの自転車好きのお客様との会話も弾み楽しい時間でした。
そして、奥様が「海ホタルが見えてるわよ」と。外に出ると、満天の星の下、波打ち際がポッと白く光っては消える。美しき瀬戸田の海は、海ホタル観察の名所だそうです。
大三島、伯方島をサイクリング
翌朝は、部屋から朝日が見えました。朝食前に自転車で島を一周(約26km)。海の景色、山の緑、それを照らす朝の光は、島に泊まったからこそ見られる特別な景色です。
朝食後、宿オーナーの市村さんのガイドで周辺の見所を案内してもらいました。『輪空』では、宿泊者を対象にガイドとレンタサイクルをオプション設定しています。今回は「SNSで自慢できるとっておきの風景とランチ」とリクエスト。宿がある生口島から走り始め、大三島、伯方島を走りました。
市村さんは、ブルーラインという一般的なしまなみ海道縦断コースとは違う、裏道を案内してくれました。多々羅大橋、大三島橋の全景を少し離れたところから見る場所に連れて行ってもらいました。まさにSNSで自慢できる景色でした。
市村さんは、元ピスト(自転車のトラック競技)の選手だそうです。今でも60代とは思えぬ脚でグイグイ坂を上っていきます。こんなに速い先輩と走ったのは久しぶりでした。ロードバイクでガンガン走りたい人も、ぜひガイドを頼んでみてください。
途中でランチ休憩をとり、おいしいごはんをたらふく食べて、お腹もパンパンです。その後、相変わらず好調に走る市村さんについて、瀬戸田港へ。再び渡船に乗って尾道駅へ。2泊3日の旅を終えました。
初心者にもやさしい自転車旅サポートサービス
最後に、尾道&しまなみ海道でみた驚きのインフラについてご紹介します。
広島県側の玄関となるJR尾道駅周辺は、サイクリスト・ウェルカムな感じがプンプン。冒頭で紹介したように、駅舎西側には、バイクスタンドやコインロッカーを備えた『自転車組立場』があります。屋根もついているから、雨の日でも濡れずに自転車を組み立てられるところがサイクリストの心に響きます。
自転車ごと渡船に乗れる
尾道からは、渡船を使って向島、因島、生口島に行くこともできます。自転車の積載料は、行き先によって異なり、数百円の運賃を払うだけで、自転車を折りたたむことなく積載できます。
ただし、尾道~瀬戸田港(生口島)の渡船は、デッキに自転車を積み重ねて置くため、傷が気になる方は利用しないほうがよいです。
レンタサイクルが充実
レンタサイクルは、しまなみ海道各島のサイクルポートで貸し出しができます。エリアによっては、異なるサイクルポートに返却することもできます。
自転車の種類も子供車、ミニベロ、ママチャリ、電動アシスト車など、様々な車種があります。連休などは利用者が多いので予約は必須です。
走りやすい自転車道
しまなみ海道の自転車道は、『西瀬戸自動車道』の橋梁部分に自転車道を設けて、尾道・今治間を7つの島を通りながら走れます。推奨ルートには、『ブルーライン』と呼ばれる青い線が敷かれ、サイクリストが迷うことなく70kmを走れるように案内が徹底しています。
尾道駅の観光案内所や、今治市のサイクリングターミナル『サンライズ糸山』などで入手できる無料のマップ『瀬戸内しまなみ海道サイクリングマップ』を入手しておけばさらに安心です。
出張修理サービス
そのほか、走行中に自転車トラブルが発生した場合に、サイクルキャリアがついたタクシーを呼んだり、修理方法を電話で相談できる『しまなみ島走レスキュー』というサービスもありがたいです。
さらに今治側には、『しまなみサイクルセーバー』という出張修理サービスやタイヤチューブが売っている自動販売機まであります。
コインシャワー
尾道駅近くにある『ONOMICHI U2』の前には、誰でも使えるコインシャワーまでありました。走り終わってサッパリして電車に乗れます。
ヤマト運輸の手荷物預かりサービス
ヤマト運輸は尾道商店街センター店舗にて手荷物預かりサービスを実施。コインロッカーに入らないスーツケースなどの大きな荷物でも預かってくれます。
ここ宛に荷物を送ることもできるので、ダンボール箱に入れた自転車を送り、空になったダンボール箱を預け、走り終えたらここで梱包して、再び発送なんてラクチンな方法もありです。
ガイドサービス
尾道観光協会の旅行業務部門『おのなび旅行社』では、オーダーメイドのガイドサービスにも対応。しまなみ海道や尾道の魅力を効率よく体感したい人にはぴったりです。
しまなみ海道にサイクリングにでかけよう
自転車の聖地=しまなみ海道は、利用者が増えるほどにサービスを拡充しています。ますます快適に走れるインフラは整えられそうです。
海を眺めながら爽快に走り、美味しい瀬戸内の食を満喫できる、しまなみ海道サイクリング。すぐにでも行きたくなりませんか?
※この記事は2015年に取材したものです。紹介している内容と現状が異なる場合がありますので、最新情報は各ショップ・宿・観光協会にお問い合わせください。
➡しまなみJAPAN 情報サイト https://shimanami-cycle.or.jp/
➡日本遺産 尾道市 情報サイト http://nihonisan-onomichi.jp/
構成/山本修二 撮影/三浦孝明